住民のチャレンジを地域の魅力に変える「まちフェス」【前編】

宮城県亘理町・山元町・福島県新地町内発型の「まちづくり」を考える

震災以降、被災地には多くの訪問者が訪れた。特に人口減に悩まされていたエリアでは、かつてない数の訪問者を固定ファンにしようとする動きが多いが、住民との温度差が新たな問題になりつつある。しかし地域活性化プロジェクト「まちフェス〜伊達ルネッサンス〜」のお客さんは、地域住民。住民による、住民のためのプロジェクトが、復興の新たな息吹を生んでいる。

披露するのは「個人技」。親しみやすさがウリ

【プログラム風景】

勉強しながら楽しくネイル女子会 「自宅で簡単ネイルケアを学ぼう」

不要布を裂いて織る山元町の隠れた伝統工芸 機織り体験「ときめき☆コースター」

防災ヘリコプターにのって、 おらほの3町みてみっぺ「ハイ!伊達コプター」

 「まちフェス〜伊達ルネッサンス」は、宮城県亘理町、宮城県山元町、福島県新地町で開催されているまちづくりプロジェクトだ。「達人」と呼ばれる地元住民が開くワークショップが24種類、各エリアで1ヶ月に渡り実施される。参加者数は1回20名程度と多くはないが、地域活性化の観点から注目されているという。何故なのか。

 まず、ワークショップが実に親しみやすく、参加しやすい。たとえば農家の奥さまが採れたてのサツマイモでジャムを作ったり、おしゃべり大好きなおばちゃんがお手玉あそび歌を伝授したり…と、比較的「個人技の披露」に近い。しかし、一見「どこにでもいそうな」住民が主役になることで親しみやすさが醸成され、参加意欲が高まるのだという。

 次に、ワークショップの参加者、つまり「まちフェス」のお客さんも住民であること。実は「まちフェス」は流入人口を増加させることではなく、地元民が地元の良さを再認識することに目的を絞っている。

 住民はプログラム一覧から参加したいものを選び、エントリーする。ヘリコプターに乗って、亘理、山元、新地の伊達3町を上空300メートルから見下ろす「ハイ!伊達コプター」は、そのエキサイティングな内容から、参加者のほぼ全員がアンケートで「満足度100点」をチェックした。

 「変わってしまった町を見て、参加者が落ち込まないかと心配していた。でも空からの風景を楽しんでくれた」。とは、企画した事務局メンバーの声。

 「まだ瓦礫が残っているエリアがあった」「子どもに自分たちのまちを見せてあげたい」と参加者の声はさまざまだったが、自らのまちを再認識することにつながった。

23歳の事務局長。スペシャリティは「聴く力」

 このプロジェクトは、24のワークショップが3町にまたがって実施される、極めて大規模なものだ。しかし、運営母体である「まちフェス〜伊達ルネッサンス〜実行委員会」は、震災以降地元でまちづくりや支援に携わる20代から30代の若手で構成されており、まちづくりの専門家やコンサルタント、自治体職員はいない。事務局長は山元町出身で、北海道大学に在学中の阿部結悟さん。若干23歳だ。

 もちろん、すべてを自分たちで立ち上げたわけではない。地元の強みを見いだしてPRするという手法は、地元活性化のために大分県で行われた「温泉博覧会」、通称「オンパク」を真似た。運営のノウハウは、同手法を岡山県総杜市で展開した「NPO法人吉備野工房ちみち」から学んだ。

 準備も周到に行った。24のワークショップを実施する「まちフェス」だが、最初は1つのワークショップから始まった。自身の農家が津波被害にあった菅野京子さんを「達人」に迎え、地元野菜で焼き肉のたれをつくった。(このときは例外的に地元外からも参加を募った)

 「京子さんのファンになった参加者の皆さんが、商品化プロジェクトを立ち上げたんです。これで手応えを感じました」(事務局長・阿部結悟さん)

 これが2012年2月のことだというから、「まちフェス」はスタートから実に1年をかけた計算になる。

 素人集団としての良さが発揮されたのは、8月頃に行った「達人募集」のときだ。公募したものの自ら「達人」を名乗る人はおらず、事務局は地元住民のヒアリングを行った。

 「私にはスペシャリティがなく、町の方の話を聴くことしか出来ませんでした。でもその分、彼らの魅力を十分に知ることが出来たし、彼らが主役になれる場を考えることも出来たんです。専門知識はありませんが、黒子という形で地域貢献できることが分かったんです」(阿部さん)

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