岩手県大槌町×リクルートキャリア 官民協働で挑む“人づくり”

交流人口を軸とした復興施策

碇川豊町長とインターンシップに参加した大学生

碇川豊町長とインターンシップに参加した大学生

2月15日、岩手県大槌町を28人の女子大学生が訪れた。
彼女らは、大槌町の地域産業振興調査事業の一環である「地域活性インターシップ」に参加した東京の実践女子大学の2、3年生。5泊6日の日程で大槌町に滞在し、5~6人のチームで町内の観光地や住民のもとを訪れて大槌町の魅力を探し、旅行プランを作成する。最終日にプレゼンテーションを行い、最優秀チームのプランは2015年夏に発行予定の観光情報誌に掲載される。


図1 大槌町とリクルートキャリアは交流人口を起点に、人と産業の好循環を目指す

図1 大槌町とリクルートキャリアは交流人口を起点に、人と産業の好循環を目指す

大槌町は東日本大震災に起因する人口の急減により、人材が不足しているために復興のスピードが加速しない、また、町内事業者の将来を担う戦略・企画が立てられる人材が不足している、という課題を抱えている。ゆくゆくは大槌で働き定住する人口を増やす好循環を生み出すため、まずは大槌について知ってもらう入り口をつくろうと、大槌町が本事業を委託した株式会社リクルートキャリア(以下、リクルートキャリア)と共にこの取り組みを企画した。大槌町産業振興部商工観光課の吉田諭さんは「大槌を知らない若い人から見て何が魅力と映るのか、非常に楽しみにしています」と期待する。(図1)
リクルートキャリア若年就業力育成グループの高橋謙太郎さんは「地域活性インターンシップは、地域だけでなく、大学側にも教育的観点からのニーズがあると考えています。地域に入り、知らない人にアポイントを取って訪問して話を聞くという体験は、就業力のなかでも対人力を鍛える絶好の機会になる。また、今回のような難易度の高い課題に対して解決策というアウトプット(旅行プラン)を出すことは、その過程において強いストレスと対峙することになり、対自己力を鍛えるし、同時に対課題力の育成につながる。例えば30人のインターンシップを年間30回開催すれば、就業力の高い若者を毎年約1,000人輩出できることになります」と、地域をフィールドとした教育の価値にも注目している。

インターンシップの、その先へ

左から大槌町の大釜さん、吉田さん、リクルートキャリアの高橋さん、同社雇用創出支援グループの金明正さん

左から大槌町の大釜さん、吉田さん、リクルートキャリアの高橋さん、同社雇用創出支援グループの金明正さん

この取り組みのポイントは、単発のインターンシップで終わらないことだ。リクルートキャリアは大槌町から地域産業振興調査事業を受託しており、インターンシップもその一環として実施したもの。これに加えて町の産業振興戦略立案へ向けた各種調査を行っている。
事業の目的は「大槌に住み、大槌で働く人を増やす」こと。今回のインターンシップでは、学生のアイデアを交流人口増加のための情報発信に活かすだけでなく、参加した学生を対象に訪問前と訪問後に大槌町に対する印象がどのように変化したかを調査し、UIターン促進、就業定着施策に活用する。また、インターネット上でもUIターンに関する意識調査を実施している。
大槌町産業振興部長の大釜範之さんは「地方創生の方針を国が打ち出して以降は特に、人口減少、雇用、住む場所などの問題に対し、各担当部署を挙げて取り組んでいます。ただ、これまでは、行政はこれらの課題に対して個別に対応してしまい、また単発で施策を行って終わりになりがちでした。今回の取り組みでは目標を2つ3つ先に置いており、今回のインターンシップの成果も部署を超えて共有します。町にとって全く新しい試みです」という。リクルートキャリアは、調査により戦略立案のための情報を収集すること、そして集まった情報を役場内外で情報共有するサポートなど、これまで町の人や役場だけではできなかった役割を果たす。

交流人口を増やし、産業と雇用を生み出し、最終的には定住人口増加に繋げるという取り組みは、規模も範囲も大きいだけに、成果をどのタイミングで測るのかが難しい事業だとも言える。今回の事業をどれくらいのスパンで考えているのかと大釜さんに問うと、「ゴールはない」という返事が返ってきた。「人は地域づくり、まちづくりの根幹です。だから、“人づくり”はやり続けなければならない。今回、1つステージを変えて取り組むきっかけをいただけたので、町としては20年30年と続けていく取り組みだと考えています」。

民間の力を活かして組織と町を変える大槌町の挑戦が、いま日本各地で課題とされている“人づくり”の1つのモデルとなることを期待したい。

文/畔柳理恵