郡山市×三菱商事 果樹農業再生へ、10億円投じ醸造所建設

福島県郡山市と三菱商事復興支援財団(以下、三菱商事・財団)が連携し、福島県産の果実を使用したワインやリキュールなどを開発・販売する果樹農業の6次産業化プロジェクトがスタートすることになった。風評被害などによる需要の低迷や後継者不足に直面する果樹農業の再生に向けて、企業と行政、地元農家が一体となった新たな事業スキームが動き出す。

郡山市と三菱商事・財団は2月20日に都内で記者会見を開き、プロジェクトの概要を発表した。それによると、今回のプロジェクトの全体像はこうだ。

まず、三菱商事・財団が同市逢瀬町の用地に約10億円を投じて醸造所を建設。ここを拠点に県内の農家から調達した桃や梨、りんご、ぶどうなどの果実を利用し、ワインなどの加工商品を開発する。これをまずは県内、そして全国各地に流通させるという構図だ。

また、県内では数少ないワイン用ぶどうの栽培にも取り組み、同時にその生産者を育成する雇用創出効果もねらっている。将来的には地元農家と、醸造所を運営する社団法人が主体となり、地域産業として自立して成長できるような構想を描いている。

プロジェクトの協定を締結し、今後の飛躍を誓い合う野島・代表理事(左)と品川・郡山市長

プロジェクトの協定を締結し、今後の飛躍を誓い合う野島・代表理事(左)と品川・郡山市長

三菱商事・財団の野島嘉之代表理事は会見で、「復興・復旧には地域経済の再生と雇用創出が大事だ。地元農家と郡山市と力を合わせて推進していきたい」と強調。当日は品川萬里・郡山市長も出席し、「果樹農業は大事な産業で、これから伸ばしていかないといけない。新しい農業をつくるうえで願ってもないプロジェクトだ」と果樹農業の再生に強い期待感を示した。

会見では、郡山市農業振興課の箭内勝則・6次化推進係長と農業経済学を専門とする小山良太・福島大学教授らによるトークセッションも繰り広げられた。

その中で箭内氏は、市の農業の現状について「尖鋭的な農家は6次産業化に率先して取り組む一方で、中小規模の農家は加工や販売に踏み込む気持ちがあってもなかなか行動に移せないケースがまだまだある」と課題を指摘したうえで、「これを契機に加工・販売に取り組む農家の垣根が取り払われ、いろんな農家に波及効果が出てくれると嬉しい」とプロジェクトへの期待を口にした。

一方の小山教授は、まずは先進的なモデルを生み出すことの重要性を指摘する。小山教授は「欧米などの先進国をみても、全体の8~9割は家族経営の農家が占めている。大部分の農村経済は中小規模の多種業農家が支えている」と世界的な農業の実態を紹介。続けて「ヨーロッパでワインやチーズが広まった背景には、モデルとなるような経営体や農家が誕生し、それを普及させていくケースが一般的にある」とし、今回のプロジェクトが果樹農業振興の起爆剤になることを期待した。

トークセッションではプロジェクトの意義を議論した(右から小山教授、箭内氏、中川氏)

トークセッションではプロジェクトの意義を議論した(右から小山教授、箭内氏、中川氏)

10月生産開始、5~7年後に最大1億円の売上げめざす

果樹農業の将来性と期待を背負った今回のプロジェクトは、いよいよ本格始動へと動き出す。三菱商事・財団の中川剛之・事業推進チームリーダーによると、今後はまず4月に醸造所の建設に着工し、10月の生産開始をめざすという。生産規模については年間30~50トンの果実を買い取り、ワインやリキュールを1万2000リットル、売上金額にして7000万円~1億円を見込んでいる。中川氏はこれらの計画の達成時期について、「5~7年後をめどに事業として自立的に回るようにしたい」との見通しも明らかにした。

その後のブランディングや販売については、三菱商事の営業ノウハウも活用し、「まずは地元の県内で流通させ、将来的には日本全体に波及させたい」としている。

さらに、プロジェクトの最終的な到達地点は、「将来的には財団は手を引き、地元の果樹農家と醸造所が自立的に運用できるようになり、地場産業として地元に根付くこと」(野島氏)にあるという。企業の後押しを受けた行政と地元農家が生産・加工・販売を一体的に運用し、それを地元経済に定着させようという今回のプロジェクトは、果樹農業をはじめとする一次産業が再興するための重要な一歩になりそうだ。