「東の食の実行会議」から学ぶ 結果を導く会議の作り方

昨年7月、東北の食をテーマに開催された「東の食の実行会議」。東北の食産業に関する企業やNPO、生産者や行政などが一堂に介したこの会議から11のアクションプランが発表され、それらが次々と形になっている。

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企業経営者や行政トップ、NPOや生産者など、セクターを超えたキーパーソン140名以上が集った

昨年11月に行われた「東北の食材を使った鍋レシピコンテスト」からは新商品が生まれ、「Oisix」や「復興デパートメント」などで販売が開始した。この2月からは、東北各地の復興現場を舞台にフィールドワーク行い、全国から1000人規模の人材を東北に集結させる「東北オープンアカデミー」が始まった(→関連記事)。岩手県釜石市、大船渡市、宮城県気仙沼市、女川町の4自治体は、相互に連携して企業連携のための窓口をつくる「東の窓の会」を立ち上げた(→関連記事)。これら全て、同会議からのアクションだ。

何故、短期間で多くのアクションプランを生みだすことができたのか。その理由を、会議の実行委員であり一般社団法人東の食の会事務局代表の高橋大就さんに聞いた。

大企業や行政トップも絡めた連携でインパクトを生み出す

■まず、何故この「東の食の実行会議」を企画されたのですか。

今回のイベントを主催している「東の食の会」は、東北の食の産業復興を目的に、震災後に立ち上がりました。「5年間で流通総額200億円」を目標に掲げ、例えば、岩手県の会社に協力し、国産のサバをオリーブオイル漬けしたサバの缶詰「Ca va?(サヴァ)缶」をプロデュースしたり、三陸の漁師たちの営業研修などを行う合宿を行ったり、生産者と消費者を繋ぐ収穫祭イベント「東京ハーヴェスト」で被災地の食のプロモーション活動を行ったりと様々な取り組みを行ってきました。

3年がたった昨年時点で、成果は約23億円に達しましたが、さらに大きなインパクトを残すために、更なる連携が必要と考えました。復興の取り組みは各地で行われていますが、それぞれの規模は小さく、また企業が合併や提携を行うような大きな連携が生まれていない。これから復興に注がれるリソースも減っていきます。案件数を減らしてでも力を集結させ、大企業や行政トップも絡めた大きな施策を打っていく必要があると考えました。この会議は、そのための連携のプラットフォームとして企画しました。

■今回、様々な業界の方が参加して、実際にアクションに繋がりました。どうして、このようなアクションが生まれる会議がつくれたと思いますか。

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会議の最後にテーマごとのチームからアクションプランが発表された。県や市町を超えて合同で対外連携窓口をつくる「東の窓の会」構想を発表した角田大船渡副市長、須田女川町長、亀山石巻市長、嶋田元釜石副市長(左から)

今回は、とにかく東北を引っ張っているキーパーソン、かつ、意思決定のできる方々を集めたことが鍵になったと思います。東北復興に関わるリーダー達を中心に実行委員会をつくるとともに、キリンやパソナ、ロート製薬など大企業の経営者にアドバイザリーボードに加わって頂きました。そこから正のスパイラルが生まれて、(株)ローソンの新浪社長(当時)ほか大手企業の経営層・幹部層、行政も首長クラス、そして東北各地の生産者やNPOのトップリーダー達と、各方面からぞくぞくと参加してくれました。東北のために、何かできる場を、みんなが求めていたんだと思います。

また、小泉進次郎復興政務官に深くコミット頂いたことが大きかったです。事前ミーティングから参加してくれ、開催両日ともフル参加してくれました。会議のはじめにも、復興庁の立場からみた被災地の現状を熱い想いと共にプレゼンテーションしてくれたことで、会場の熱量は一気に上がって意識が高まったと感じました。

熱量を活かす、フラットな場づくりを

■プログラムづくりで工夫されたことは何だったのでしょうか。

仙台駅前の会議室を借りたのですが、2日間朝から晩まで、缶詰めになって東北について考えなければいけない状態をつくりました。コンテンツとしては冒頭に東北の生産者たちがそれぞれ5分ずつ、思いを語ってもらう時間をつくりました。東北の食材の魅力や自身の夢を語り、復興はこれからだと力強く話す生産者たちの想いに触れて、会場の雰囲気は一気に熱くなりました。また2日目の会議の前には実際に参加していた生産者の農場を訪れる現地ツアーも行い、その熱量や現場感のまま、ディスカッションを2日間にわたって行ったことが良かったと思います。

あとは、事前の参加確認メールから会議いたるところで、 “実行”という目的を強調したことでしょうか。すべての参加者がディスカッションをリードして、傍観者で終わらないように伝えていました。結果、多くの参加者に当事者意識を持って参加していただけたのだと思います。

■グループディスカッションでは、小売、人材育成、外食などのテーマごとに11のグループに分かれて熱い議論が交わされていました。2日間でグループディスカッションにあてられた時間は4時間程で、長い時間とは言えなかったと思います。どんな工夫をしたのでしょうか。

やはり、“場づくり”ですね。1つは、参加者全員が主体者と感じられるように、フラットな雰囲気づくりを心がけました。席順を業界や役職で分断せずに、ステージはなるべく低くして、また華美なこともない雰囲気を作りました。また、企業や行政のトップには付き人がいることが大半ですが、その付き人も禁止にしました。これは意思決定ができるトップの意思を聞きやすい形をとるために、行いました。生産者、企業、行政、支援団体…関係なく話しやすい空気感を作れたと思います。

また企業側からのプレゼンや資料を配ることも禁止しました。あくまで、主役は東北の生産者、事業者であって、支援やビジネスパートナーである企業側に時間を使うより、ディスカッションの時間を多くとって、アクションプランを生み出すことにフォーカスしたかったからです。

会議が終わった後も、グループのリーダーの方に定期的に進捗を聞いたり、メーリングリストで他の団体の動きを伝えたりといい流れを止めなかったことも、アクションプランがちゃんと形に繋がったポイントだったと思います。

■今後、東の食の会はどのように進化していくのでしょうか。

インタビューに答えていただいた、東の食の会事務局長の高橋大樹さん

インタビューに答えていただいた、東の食の会事務局代表の高橋大就さん

「東の食の会」としては、より食産業復興のプラットフォームとしての機能を強化し、インパクトの大きなアクションを生み出していきたいと思っています。そのためにも、「東の食の実行会議」は、我々としては、3年間を目標に続けていきたいと思っています。今年7月10日11日に岩手県で、2回目を行うことを予定しています。現在、内容や場所などを検討中ですが、今回出たアクションプランがさらに加速できるように、また新しいプランがより出やすい場をつくろうと考えています。来年は、福島県で行いたいと考えています。支援という形だけでなく、福島の産業復興をビジネスを通じて後押しできるように、様々なプランを形にしていきたいと思います。

今回のイベントの最後に、参加者の皆さんが「お疲れ様でした」ではなく、「やりましょう」と言ってくれたことが本当に嬉しくて、自分もますますやっていかなきゃいけないなと改めて感じています。結果が全てです。楽しみにしていてください。
文/佐々木瞳