[宮城県 東松島市あおい地区] 集団移転に夢を。 日本一住みやすい町を目指す

 今年度に入り、各地で集団移転の住宅造成工事や土地区画整備の合意が進み、早い所では入居も開始された。まちづくりにおいては、住居というハードの整備に加え、そこに住む人々が安心して幸せに暮らしていくための仕組みをつくっていくことが欠かせない。高齢化や人口減が進む中で課題は多いが、これこそ、いま東北で求められていることだ。

「スゴいまちづくり」が進んでいると聞き、東松島を訪ねた。なんでも、日本一を目指して盛り上がっているというのだ。

580戸の大規模集団移転地区。住民の協議会発足

松島町と石巻市の間にある、震災前の人口約4万3千人の東松島市。津波により大きな被害を受け、他の被災自治体と同様、沿岸地域は「津波危険区域」に指定され宅地利用が不可能になった。市は市内7カ所に集団移転先となる造成工事を行い、賃貸型の災害公営住宅計1010戸、個人による戸建て用の防災集団移転宅地計713区画を整備する。7カ所のうち5カ所はすでに完成し、団地型の住宅では入居も開始している。

現在整備中の東矢本駅北地区は、東松島市内はもちろん、被災地全体で見ても最大規模の集団移転になる。JR東矢本駅北側の田圃約22ヘクタールに、災害公営住宅307戸、移転用宅地273区画の計580戸分が整備され、約1800人が移転する計画だ。まさに、新しい町がゼロから立ち上がろうとしている。2012年11月、構想段階から住民の意見を取り入れようと、住民の代表31人が役員となるまちづくり整備協議会が設立された。

強い住民目線と行政を動かす粘り強さ

「あおい地区まちづくり整備協議会」会長の小野竹一(たけいち)さん。仮設住宅の自治会長も務め、地域全体を盛り立てている。

「あおい地区まちづくり整備協議会」会長の小野竹一(たけいち)さん。仮設住宅の自治会長も務め、地域全体を盛り立てている。

協議会では、31人(後に39人に増員)の役員を5〜6人ずつのグループに分けた8つの専門部会をつくり、新しい町の計画を一つひとつ決定していった。公園など公共施設を考える部会、区画決定までの進め方を考える部会、街並みを検討する部会など各部会の他、必要に応じて、住民参加の「井戸端会議」(ワークショップ)も行った。すべて合計すると年間120回以上、実に3日に1回のペース。協議会の会長を務める小野竹一さんは、そのすべてに出席してきたという。

「最初は役員も皆、言いたいことばかり言って話が進みませんでした。でも、580世帯の人に選ばれた役員でしょう。住民のために一刻も早く進めるのが役目。そこで、一度決めたことは後でひっくり返さないというルールを決めたんです。徐々に真剣さとスピードが変わってきましたね」。

この協議会がぐんぐんと推進力を発揮していく。例えば新しい町の名前は公募で決めた。300点近い応募の中から中学生も加わって選考し、10案に絞り、それを一世帯1票ではなく、住民全員の一人1票で投票した。「今作っているこの町は、私の世代の町じゃない。子や孫のための町だから」と小野さん。さらに、決まった名前を住所名にもしたいと役所に申請した。一度は「元々ある郵便番号が」、「現在住んでいる人への影響が」などさまざまな「できない理由」で却下されたが、小野さんを始めとする協議会メンバーが一つひとつ説得し解決していった。こうして、東松島の海と空をイメージできると選ばれた「あおい地区」という名の新しい町が誕生したのだ。

未来の世代のため。目標を持つことで地域が変わる

地区の名前決めに限らず、協議会は粘り強く役場とも交渉しながら、着実に新しい町の設計を進めている。なぜ協議会メンバーや住民が積極的に話し合いに参加するか尋ねると、小野さんは「どうせなら、日本一の町を目指そう!という夢です」と。それから、東洋経済新報社が発表する「住みよさランキング」で現在3年連続日本一を獲得している、千葉ニュータウンのある印西市の前町長を招いて話を伺った。町の見守りの仕組みについて、島根県雲南市へ視察にも行った。20年30年後、他の自治体がニュータウンをつくる際に視察に来るような、そんな日本一の町を作ろう。共通の目標を定め、議論や経験を共有していくことで、協議会メンバーの主体性は更に上がっていった。

完成イメージ図。皆で考えた「街並みルール」は、家の前の道路沿い1メートル幅には構造物をつくらない・できれば緑を植える、隣地境界線との間隔を1.5メートルあける、家を塀で囲わない、など。

完成イメージ図。皆で考えた「街並みルール」は、家の前の道路沿い1メートル幅には構造物をつくらない・できれば緑を植える、隣地境界線との間隔を1.5メートルあける、家を塀で囲わない、など。

家族が身代わりになって助かったペットを飼っている人も少なくない。通常ペット禁止の公営住宅でも、飼い主たちでルールをつくり、住民皆に了承を得る形で共存の道が開かれた。後に市の集合住宅を除く全災害公営住宅に適用された。

家族が身代わりになって助かったペットを飼っている人も少なくない。通常ペット禁止の公営住宅でも、飼い主たちでルールをつくり、住民皆に了承を得る形で共存の道が開かれた。後に市の集合住宅を除く全災害公営住宅に適用された。

日本一の町はどんな景観がいいだろう。皆で県内3つの団地に視察に行き、防災集団移転宅地に家を建てる273世帯向けの「街並みルール」を話し合って決定。将来的な建て替えや新規入居によって崩れていかないよう、完成したルールは地区計画条例にしてもらった。区画の決め方も、行政任せではない。「親子など三親等以内の家族なら、隣接2区画の利用を申し込める」、「親族や友人、仮設住宅で仲良くなった仲間など複数世帯でグループを組み、同じブロックに申し込める」など、住民のリアルな目線に立ったルールを設定。最終手段の抽選を行うことなく、全て話し合いで円満に決まったという。公営住宅で禁止になっているペットも、飼い主たちでルールをつくり徹底することにして許可を取り付けた。まさに住民が望むまちづくりを、住民主導の議論によって進めていったのだ。

高齢化を前提に助け支え合うコミュニティ運営の設計

住民参加の井戸端会議(ワークショップ)の様子。数にして年間120回。例えば4つの公園はそれぞれどんなコンセプトのもにしてほしいか、など生活者目線で意見を出し合った。

住民参加の井戸端会議(ワークショップ)の様子。数にして年間120回。例えば4つの公園はそれぞれどんなコンセプトのもにしてほしいか、など生活者目線で意見を出し合った。

多くの住民が仮設住宅から移るあおい地区では、今後さらに高齢化が進んでいくことが予想される。住民同士で支え合う仕組みづくりのため、協議会のコミュニティ推進部会では、1〜3丁目それぞれの自治会に加え、3つをまとめた「自治会連合会」をつくり、入居開始前から自治会ルールづくりを進めている。また顔見知りをつくるための住民の交流会も早いうちから開催。今後時期がずれて順次入居が進む中でも、安心できる地域コミュニティ運営を目指している。

小野さんは、視察に行った島根県の雲南市にヒントがあったと言う。たとえば車がなくて買い物に行けない80歳の方の為に、車を持つ元気な70歳の方が代りに買ってきてあげる。「助けてほしい人」と「助けてあげられる人」がお互いに手をあげられる、助け合いのシステムをつくっていた。「住民同士に限らず、役場の人や、福祉担当の見守りをする人、地域の医者や看護学生まで一緒になって、地域の人を見守っていたんです。まず自治会が見守りをやるところから取り組んでみたい」。小野竹一さんは、市の大曲・堺堀地区にある、約300世帯の仮設住宅の自治会長も務めている。元々は400世帯あった住宅で、日一日と住民が減っていく中、仮設外の人々にも開かれたさまざまなイベントを開催し、盛り立てている。ある時は市長も来てくれた。若い衆も「竹一さんが言うなら」とこぞって協力してくれる。

小野さんが言った一言が後から沁みるように蘇ってくる。「あおい地区の自治会は、他の人たちに任せますよ。私は、やらせてもらえるなら、最後までこの仮設を守りたい」。さまざまな事情・想いを抱えた仮設住宅の住民にとって、このことはどれだけ心強いだろうか。