企業による復興支援のこれからvol.8【東北未来創造イニシアティブ】

出向者チームと一流メンター陣がつくる 「人づくり」とその先にある社会づくり

東北大学や東北ニュービジネス協議会が中心となり2012年に立ち上げられた東北未来創造イニシアティブ。特別協力を行う経済同友会の会員企業からは、今までに20名を超える社員が東北へ派遣され、現地リーダー育成事業や釜石、大船渡、気仙沼3市における復興計画の具現化サポートを行ってきた。5年間の活動をコミットするその折り返し時点を迎える中、この先に何を見ているだろうか。

 

地域をつくる「同志」のリーダーネットワーク

活動の大きな柱であるリーダー育成事業「人材育成道場」は、各地域の経営者を中心としたリーダーを対象とした、約半年間の集中講座。講師・メンター陣には政策投資銀行、マッキンゼー・アンド・カンパニーや博報堂、トーマツ、新日本監査法人、あずさ監査法人、あらた監査法人など一流企業の名前が並ぶ。

しかし「道場」の名が示す通り、単純に知識を習得するだけに留まらないのが特徴だ。「座学的な学びの比重は全体の2割程度です」とプロジェクト統括マネージャーの片岡氏が語るが、講師陣による個別メンタリングを通じた事業構想の作成や、熱量あるリーダー達が集まる「場」そのものに、より価値が置かれている。塾生たちは、事業構想を練り、発表し、叩かれ、仲間と共に本気で考え直す。これを半年間繰り返す。「勉強だけでは人は変わりません。こうしたプロセスを通じることで、個人、企業、そして地域としての成功の意識が1つにクロスし、真の地域リーダーへと育っていくのです」。

この事業の1番の価値は、この経験を共通項として持つ、卒塾生という「価値観でつながれる同志」のネットワークだ。釜石・大槌、大船渡・陸前高田、気仙沼・南三陸の3地域において、既に計100名に迫る塾生(現在受講中含む)が生まれている。卒塾生は既に各地で様々な活動を起こしており、たとえば岩手県釜石市では6月、卒塾生が中心となって「釜石百人会議」を行った。高校生から80代までが集まり、100人規模でまちづくりの議論がされるのは異例のことだ。「例えば釜石の人口は3万7千人。30名の志を同じくするリーダーがいれば、町を動かすこともできる」と片岡さん。各地域で必要な規模のリーダーを輩出することが、5年間のゴールのひとつだ。

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(卒塾式を迎えた人材育成道場の卒業生たち。それぞれが半年間につくりあげた事業構想を発表すると、仲間達が拍手とハイタッチでそれを迎えた)

 

今後の取り組みはクロスセクターで

7月には、東京で「東北未来創造会議」が行われ、釜石、大船渡、気仙沼から3市長ほか、卒塾生を含むリーダーや、イニシアティブへ参画する企業の経営者などが集った。2年半の活動の総括として、卒塾生であるリーダー達が、地域を牽引する人材となるという当初の仮説が確認された上で、今後の方針として「クロスセクター」の重要性が議論された。直近1年間、比較的産業面に偏っていた取り組みを、より社会に寄った分野にも広げる。地域の中に閉じていた議論や取り組みも、より外と連携して実施していく方針だ。

復興計画の具現化サポートについて、この2年半で時間をかけて地域と議論を進めてきた。結果、例えば気仙沼では「観光を軸にしたまちづくり」、「水産資源の高度利用による産業集積つくり」という取り組みテーマについて合意。既に各地域への出向者が事務局機能を担い、役所や地域の商工会、NPO、地域外からはメンターとして外部企業経営者などを巻き込みながら、各テーマの事業を推進している。

「復旧は全員が元の姿を知っているからやり易い面もあるが、未来をつくるには『何を目指すか』の対話と合意、そして1歩を踏み出すエネルギーが必要」と片岡さんは言う。イニシアティブの真価は、イニシアティブが何を成すかという形ではなく、彼らが伴走する形で関わった数多くのリーダーたちの挑戦とその成果という形で発揮されていくのであろう。