「オクトパス君」を活用し、南三陸町の雇用をつくる[みちのく仕事]

震災以降立ち上がった東北の団体のリーダーの元に、若手経営人材「右腕」を3年間で約200人派遣してきた「右腕派遣プログラム」。「右腕」を受け入れる東北のリーダーのインタビューを紹介します。

南三陸町にて“西の明石、東の志津川”とも言われる名物のタコを復興のシンボルにした文鎮「オクトパス君」を皮切りに雇用をつくり出すYES工房の立ち上げプロジェクトがある。公務員でありながら、仲間と共に活動に取り組んでいるという阿部忠義さんにお話を伺った。【南三陸復興アトリエプロジェクト・阿部忠義】

0001―このプロジェクトを始めようと思ったきっかけは。

震災から数か月経過してそれぞれの生活が気になってくるわけですよね。たとえば、仮設住宅に住む事で自活していかなきゃいけない。すると、今一番求められているのは雇用の場かなとなるわけですね。私はこの入谷公民館という、地域づくりのセクションで生涯学習・生涯教育という部分を活性化させていくのが任務なんです。

―そこから、どうプロジェクトをスタートさせたんですか。

当然一人で出来る訳ではないので、以前よりあった入谷地域の町づくり団体グリーンウェーブに加え、復興ダコの会を立ち上げて、二つの団体が連携を取り合って、事業を始めたというか推進しているという感じですね。

―地震のときはどうされていたんですか。

私は3月までは南三陸町の産業振興課というところにいて、その観光協会の事務所にいたんですね。なので、そのまま避難誘導して上の山という高台の方にみんなを誘導してあがったんです。最終的には志津川小学校というところの体育館に移って、そこで3月いっぱい避難所生活をしました。で、4月の異動で入谷公民館に赴任したという形ですね。

―じゃあ最初はもっと海の方で働いていらしたんですね。

そうそう。

―なるほど。その後、どんな想いで取り組んできたんですか。

このとおり命は残ったので、それだけでもほんとにありがたいっていうかね。今はもう亡くなった人の分まで頑張ろうっていうような気持ちでね、4カ月やってきてるんです。けど、なかなかみんなが同じ気持ちで、同じ温度で取り組んでいるかっていうとそうでない部分もあるので、その辺はお互い確認しながら取り組むようにはしています。

―同じ気持ちじゃない部分もある。

それぞれ進め方の流派がありますよね。例えば私らが取り組んでいるのは大きく分けて4事業あるんですけど、田舎の今までの町づくり団体が取り組む規模の額では無いわけで、そこまで我々は突っ込んで実施する必要があるのかっていう意見もありますね。当然人が集まれば色んな部分で責任感も出てくるし、これまで簡単に済ませた事も済ませられない事ってあるから、議論して進めていかなきゃいけない。そうすると、どうしてもスピードが遅くなる。でも、役場や公共機関よりはスピードは速いですよ。幸い、賛同してこのプロジェクトに関わっている運営委員はいろんな面で毎日汗を流してやっている人もいますので、そういった意味では心強い。

―今、おっしゃった4つの事業というのは。

国の緊急雇用創出事業を活用して町からの3つの委託事業をグリーンウェーブとしてやっているんです。一つ目が内職センター、二つ目が被災者ふれあい農園および農産加工事業、あと被災者の細々とした用事を引き受ける便利屋さん事業。それから、オクトパス君をつくってる復興ダコの会がある。

―オクトパス君ってどういうものなんですか?

文鎮なんだけど、もともとは合格祈願グッズとして売り出していて、ほら“置くと(試験に)パス”で。でも、震災が起きて復興祈願グッズとして販売していて結構買ってもらってるんです。

―なるほど。

だから、委託事業のうちの内職センターでは、塗箸のラッピングや割りばしの袋詰めなどそういう仕事の他にも、タコのオクトパス君の事業が多いので、そっちの方をやってもらったり。まぁ、今は立ち上げて脚光をあびつつあるからいっぱい仕事がくる可能性があるんですけど、ずっと行くという感じはしないと思う。

―一緒に事業をやってらっしゃる方も、ここでずっと育ってきたんですか。

そうですね。それぞれ別に仕事を持っていたんですけど、幸い生き残ったので。私のモットーとしては、まずは元気でないとその後の復興はありえないと思うので、元気になるようなことをしたいんです。素人集団が会社立ち上げてね、営利を目的とした企業というのは難しい話なので、ある程度ネットワークや地域づくりっていうようなものを主眼に置きたいなと。

―具体的には。

タコにしても、注目をあびないと売れないわけです。そこで注目を浴びることによって「南三陸って頑張ってるよね」とか、南三陸町が身近な感じになるかなと。なんといってもここの場合、水産業が基幹産業。今は壊滅的なダメージを受けてますけど、徐々に回復すると思うんですよ。まずは水産を立ち直さないと復興はありえないんですよ、南三陸。

―そうなんですね。

この会、2年間の期限付きの団体なんです。要は水産業が定着するまでのつなぎ産業みたいなイメージで、収益が得られれば義援金として町に入れるって言う団体なんですよ。今はオクトパス君を広めて、いずれは、水産業にバトンタッチしてきたいですね。

―長期的にはどうされるんですか。

培ったノウハウや基盤・ネットワークは財産になるので、それを利用した新たなビジネスが見出せないかなと。あと、グリーンウェーブの3事業については、国としては雇用の場をつくるためだけだというんですけど、私らにとっては、やはり避難所や仮設住宅で、何もしないでいる状態から、前向きにならなくちゃいけない。過去の事をずっと引きずっても人間良いことないので、何か集中するものがあれば良いなと考えています。

―何か集中するもの。

まぁそれが趣味であるか仕事であるかどっちでもいいと思うけど、まず趣味というのは、避難所で集団生活だったから心の余裕もあまり無かったし、あと費用もかかるからなじまないかもしれない。仕事をすればそれだけその時間集中することになるから、周りも気にならない。その延長上に労働の対価としてお金をもらえればなお良いわけですよね。まだ楽しんでやってる感じが見受けられますけどね。

0002―阿部さんは実際この中でどういう働きを毎日なさってるんですか。

私は、グリーンウェーブっていう団体の事務局ですね。あと、復興ダコの会の運営委員なので、そちらもまぁ事務局的な立場にいるってことですね。良い悪いは別として私らの人脈の中で運営してる事は間違いないですね。

―今は、この復興ダコはウェブや、東京でも販売してるんですか。

そうですね。ウェブ以外でも宮城や岩手を中心とした取引先に加え、各種イベントにも出店しています。

―今までに、どれくらい売れてるんですか。

約10000はいったんじゃないかな。

―これからプロジェクトを進めていくにあたって問題になっていることや課題ってありますか?

今はオクトパス君の生産が追いつかないということが問題かな。課題は先ほど言ったように今後、この地に残るような産業って言うと、大きな話になりますけど、これだけの人を巻き込んでるんで、今後に向けて何か一つ残さなきゃならないという課題を持って仕事をしています。

―右腕には、どんな人材を求められていますか?

タコ関連事業についてはどんどん新製品を開発していけるような人材が欲しいなと。地元の人間ではちょっといなかったので。あと、4事業のマネジメントですね。結局は、素人集団なので、法律や経営に関する感覚が欲しい。会計に関しては、税理士さんにお願いしてる分、安心なんだけど。

―南三陸ならではというか、このプロジェクトならではの魅力ってどういうものがありますか。

よそのプロジェクトがどうか分からないけど、田舎なりの活性化の手法があるのかなぁという感じはしますね。何もないところから積み上げて一つの物を達成できるという事はある面ではやりがいのある仕事なのかなと思います。あとはこだわりの人材ですかね。例えば、ふれあい農園のインストラクターをお願いしている人達って結構濃いんですよね。農業だけで生活するって難しいから、ほんとこだわりがないと長く農業できないんですよ。結構人として魅力的な方が多いんです。そういうことをこの活動の中で、知るだけでもいいのかなって。

―今までの経験で気づかれたことありますか。

ボランティアさんが来て、簡単な汗もかかないような仕事をしてる人たちは満足して帰ってないです。とんでもない苦労して帰る人たちは目が輝いてありがとうございます、お世話様ですって帰る方が多いです。だからね、遠慮してはダメなんだなっていう気がしてるんですよ。

―遠慮しては、ダメ。

すごいエネルギーでボランティアさんが来るわけですよ、全国から。おそらくね、そのエネルギーの100分の1くらいしか発揮してないと思いますよ。自分のことで手いっぱいだから、発揮させる受け皿がないんですよ、被災地には。あと、私はどちらかっていうと物づくりの方が得意分野なんで、新しい商品の開発をやりたいです。だから、そういう時間をつくりたいんですね。自分がやってもいいんだけどね、時間がないので。頭ん中では結構やりたい設計図があるんだけど、なんかやる時間がなくて。今後、右腕が来たら時間を作りたいと思っています。

―最後に何か伝えたいこととかありましたらどうぞ。

とにかく復興に向けて前向きに取り組んでいかないとみんなダメになってしまうんですよ。まぁ自転車で言えば、一生懸命漕いでて、向かってる先がもしかすると止まれかもしれない。だけど、漕ぐのをやめると倒れるんですよね。だから、ある面では向こう見ずみたいなところがあるのかなぁとは思うんです。

―なるほど。向こう見ずですか。

それを客観的な冷静な目で見る人材がいるといいと思います。何もかも一生懸命ひたすら漕いでればいいって言うもんじゃなくて。「ちょっとここのところ、こっちの方に漕いだほうがいいんじゃないかなぁ」という部分もあると思うんですよ。その辺が素人集団なので、不安なんですね。今、ネットを活用して展開していくところがあるじゃないですか。今後、戦略的にネット展開できるような人材も欲しいんだよね。やっぱりここにはいないよね。プロモにしても何にしても、結構いいネタっていうのはあると思うんですよ。この事業は、これからが面白くなります。皆さん、応援よろしくお願いします。

―今後、右腕が加わってどう展開していくか楽しみですね。ありがとうございました。

南三陸復興ダコの会 ゆめ多幸鎮「オクトパス君」オフィシャルページ

記事提供:みちのく仕事(NPO法人ETIC.)
※このインタビューは、2011年9月に掲載されました。