[寄稿]「よそ者」として震災復興に関わる。東北での社会起業へ至った思い。

(本稿は一般社団法人まちの誇り・茂木崇史氏の寄稿文です)

東北から日本の未来を創る活動を

 私は父の実家が福島で、もともと生まれが青森だったり、小さいときに郡山に住んでいたりと東北地縁ではあったのですが、物心がついてからは関東で育ったので、日本の地方の問題って全く意識してきませんでした。しかし震災後に実際に東北に行って、地方にこそ日本の独自の文化や価値が残されていたのに、それが失われようとしている現実をまざまざと感じました。

 東北にも海産物をはじめ、自然や人の温かさも含めた様々な魅力的な素材がある。しかしそれが地元に付加価値が残る形で十分に活かされてこなかった現実があり、その結果、高齢化を伴う人口流出や産業縮小が進んでいた。そんな時に震災が起きた。震災前からの負の連鎖が震災を機に益々加速化していこうとしている。そしてそれは東北だけではなく、日本の全ての地域でも全く同じ構造の問題があるのだということもよくわかりました。今なんとかしないと地方に残っている独自の文化や素材がなくなり、グローバル化の中で日本が誇れる独自のコンテンツは何もなくなってしまうという強烈な危機感を持った訳です。

 一方で震災を機に、ボランティアが大量に東北を訪れ、都心と東北の人たちが交流する中で、相互に東北に眠る独自の価値に気づき、なんとかそれを蘇らせたいと考える人たちが現れていることにも気づきました。それが瓦礫の中に芽生えた希望であり最後のチャンスなんじゃないかとも感じられました。ならばその動きを加速化させていくことができれば、負の連鎖を断ち切って独自の価値を守ることができるんじゃないか?次世代に日本の独自の価値を残すことが自分たちの世代の使命なんじゃないかと思うようになりました。それはこれまでの日本経済のパラダイムを変えることでもあるので、国や企業の既存の仕組みに任せているだけでは進まない。気づいた市民一人一人が動くしかない。だから会社を辞めて東北にコミットしようと思った。地方が蘇らないと日本の未来は無い。本当にそう思ったのです。

「4つの負の思い込み」からの意識転換

 東北が真に復興する為には何が必要かとよく議論されますが、私は若者を中心にみんなが意識を変えること。すなわちずっとこの町に住みたいという心の復興を果たすことが必要だと思います。若者を中心に人口流出が続く負のスパイラルを生み出していた要素は、私が「4つの負の思い込み」と呼ぶ下記のような意識にあると思います。

「①地方には儲かる仕事が無い」
「②地方には面白い仕事が無い」
「③地方には閉塞感がある」
「④地方はグローバル化から取り残されている」

の4つです。多少乱暴ではありますが、この4つを感じて将来に希望を持てずに町を出る若者は多いと思います。しかし、果たして本当にそうなのでしょうか?私は真の復興には、4つの思い込みを下記のような意識に変えることが必要だと思っています。

「①素材の魅力はあるのだから、ちゃんと付加価値をつけて売れば儲かる」
「②良い素材に付加価値をつける仕事はクリエイティブで面白い仕事である」
「③インターネットを使えば、エリアの壁を簡単に越えて世界とつながれる」
「④地域の独自コンテンツこそ、これからのグローバル社会で価値を持つ」

この4つへの意識転換です。このようなことに、地方の人も、都心の人も気づくべきだと思います。この意識転換ができれば、地方の人が地元に住み続けることに希望を持てるようになりますし、逆に東京からビジネスチャンスを求めて地方に移り住むなんて流れも実現でき、今の社会の歪みを生んでいる東京一極集中の構造も是正できるのではないかと思います。大きくは道州制の話も議論されますが、結局はこのような意識転換を実績とともに草の根的に積み重ねていくことでしか変わらないのかなと思います。実際に、それに気づいて活動し、実績を出し始めている地域イノベーターも日本の様々な地域には既にいます。不可能ではないはず。やるかやらないかだと思います。

地域の誇りを創りだすコミュニティをつくる

 これから「まちの誇り」という一般社団法人を作って、継続的に東北の地元の方々と都心から来た人が一緒になってその地域の誇りを創り出すような活動に取り組めるコミュニティを作っていきます。具体的には「まちの誇りプロデュース事業」「まちメディア事業」「まちの寺子屋事業」という3つの事業を進めます。

 「まちの誇りプロデュース事業」では、都心から来たプロフェッショナル人材と地元の事業者が一緒になって地域に付加価値をつける事業を考える。そこに地元の若者も加わることで、経験を積んでもらう。「まちメディア事業」では地域の魅力を地元の若者に集めて周り、地元の中だけではなく、他の地域に発信する。町のPR活動を地元の若者が担うという感覚です。その活動を通じて地元の若者が地元の魅力を再発見することにもつながります。「まちの寺子屋事業」では、定期的に都心のプロフェッショナル人材が来て各種セミナーを開催することで、東北にいながら東京の一線で活躍している人の経験を学ぶことができる。そんな環境を東北に作っていきたいと思っています。そのような活動を通じて先ほどの4つの意識転換を、地元の人たちは勿論のこと、そこに関わる都心の人たちにも伝えていきたい。地方での事業の可能性を感じてもらいたいと考えています。

「東北は第3のふるさと」という当事者意識

 そこまで辿りつくには継続的に都心から人が訪問することが重要になります。継続の為には、東北の復興に関わることの当事者意識を醸成することが最大の鍵を握ると思います。最近は一緒に活動してくれる人に向けて、自分の生まれた町(第1のふるさと)でもない、自分が今住んでいる町(第2のふるさと)でもない、新しい地縁の町(第3のふるさと)を作るつもりで活動しましょうと言っています。私自身、この半年〜1年と東北に通ううちに、色々な地元の方とのつながりができ、東北に行くのが、自分のふるさとに帰るような感覚になりつつあります。〇〇さんに会いたいから東北に行く。これは強いですよ。都会育ちの人ってあまりふるさとって感覚がないから、新しいふるさとを作るつもりで関わるようになれば、人生が豊かになりますよと伝えています。

 また別の視点では、東北の課題は日本全国が近い将来に直面する課題だということで当事者意識を持って活動してもいい。より具体的に言うと、東北での経験を、いつか自分の地元に還元するという意識で取り組めばいいと思います。東北での活動で得た経験を、将来間違いなく同じ課題にぶち当たる自分の地元に還元すると思えば当事者意識も生まれるでしょう。

 東北を利用するなと言われるかもしれないですが、それでもいいと思います。一方的な支援は不健全だし、お互いにとって続かない。ある東北の事業者の方が言っていた、「支援を受け続けることは人間の尊厳を失わせる」と言っていた言葉が今でも頭に強く残っているのですが、一方的に支援を受けるのって受ける側も嫌なものです。プライドを持って生きてきた人ならなおのこと。だから、支援する側にもメリットがあるからやっているという状態の方が健全だと思っています。お互いにとってメリットがあるから対等のパートナーとして一緒に取り組んでいる。それでいい。見返りは何もお金だけじゃない。日本をよくしたい。自分の地元をよくしたいという共通の想いがあれば、パートナーとしての関係を築けると思います。日本人というのは郷土愛が強い人種だと思うので、そのあたりの琴線を大事にしたいですね。

 最後になりますが、東北で立ち上がろうとしている地元のリーダーは本物です。自分が生き残った意味を常に自問しながら、復興に命をかけています。東北の復興を果たした後には間違いなく日本のリーダーになる人たちだと思います。彼らとの恊働に刺激を受けて、このコミュニティの中から、日本を復興させるリーダーが一人でも二人でも生み出されればこんなに嬉しいことはありません。まずは自分がそれを目指していきます。

茂木さんプロフ写真small文/一般社団法人まちの誇り代表理事、一般社団法人地域エネルギー創発ネット(まちエネ)理事
大学卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニーの後、(株)リンクアンドモチベーションにてブランドコンサルティング事業部の執行役員を経て、震災後に独立。現在は主に沿岸部の漁業ならびに水産加工事業の復興支援に従事。もともとあった地元の良い素材に、地元の人たちと他地域から入ってきた人たちのコラボレーションを通じて付加価値をつけて発信することで、地元の人たちの心に誇りを取り戻すことを目指し、その結節点となるべく活動中。1979年生まれ。