他地域に学ぶvol.12 徳島県 三好市【前編】

初回は出店20店舗・来場者500人。10回目で100店舗・来場者1万人に
まちなか「マルシェ」が田舎の町を元気にする理由

2月に行われた「第10回うだつマルシェ」の様子。地域の酒祭りと共催したこともあり、来場者は1万人を超え大賑わいとなった。

2月に行われた「第10回うだつマルシェ」の様子。地域の酒祭りと共催したこともあり、来場者は1万人を超え大賑わいとなった。

東北の人には馴染みがないが、「祖谷(いや)の温泉峡」と言えば四国に住む人皆が知るスポットだ。ここは祖谷温泉のある険しい渓谷を含む、山間の6町村が合併した三好市。人口3万人弱、高齢化率38%を超える典型的な過疎地域で、地域・集落ごとに強い文化が残っている。

「三好市が面白い」との噂を幾度となく聞いたため、その秘密を探りに訪れたのだが、主な要因は、地域で開いている食品やクラフトなどの手作り市、「うだつマルシェ」だという。マルシェをやるだけで、地域が盛り上がる?ぜひポイントを聞いてみたい。

東京での激務から一転、地元への「ほぼUターン」

マルシェには地域・近隣県の美味しいものも多数。カフェオーナーがメニュー化を持ちかけたりと新たなビジネスのつながりも生まれている。

マルシェには地域・近隣県の美味しいものも多数。カフェオーナーがメニュー化を持ちかけたりと新たなビジネスのつながりも生まれている。

徒歩圏内に駅も病院も役場も商店も酒蔵も収まった、コンパクトで可愛らしい町、三好市の池田町。この町の賑わい創出の立役者であり、「地域おこし協力隊」の一員として3年前に移住した、吉田絵美さんにお話を聞いた。地域おこし協力隊は、過疎地域に若者を派遣し、地域の魅力発掘や活力創出などを担うという総務省の事業だ。吉田さんは協力隊の中でも「成功事例」として評価され、全国からの視察や講演の依頼を受けている。

プロダクトやデザインが好きで、以前は東京でアパレルの企画やショップのバイヤーをしていた吉田さん。売上目標に追われ、夜遅くまで働く日々だった。3・11を機に仕事や働き方を考え直し、協力隊に応募した。もともと徳島市の出身なので、「ほぼUターン」。実家にも気軽に帰れる距離感がちょうどよかったという。

池田町役場の地域振興課に配属されたが、特にノルマも目標もない。吉田さんは挨拶回りを繰り返し、空き家を紹介してもらった。そこを地域の人と改修したり、お茶を飲んで話しているうちに自然といくつかの企画が生まれていったのだという。

小さなモノづくりで田舎に暮らしていける人が増えれば

小さなクラフト作家は実は各地にたくさんいる。売る場所がなかなかない彼らに販路を開くことは、田舎で暮らしていける道を拓くことにつながる。

小さなクラフト作家は実は各地にたくさんいる。売る場所がなかなかない彼らに販路を開くことは、田舎で暮らしていける道を拓くことにつながる。

「マルシェをやろう」という企画に、以前から街並み保存などの活動を行ってきた地域のお母さんが実行委員長に立ってくれ、吉田さんは事務局に就く形で、池田町の「うだつマルシェ」がスタートした。委員長の人脈や四国に入っている協力隊仲間などへの呼びかけで、2011年11月の初回は、地域の人を中心に特産品や野菜など20店舗で出店、4~500人の来場があった。意外だったのは、とりあえずネットにアップした公募情報が、クラフト市専用のサイトに掲載され、そこからも出店希望があったことだった。

吉田さんは振り返る。「手作りのモノを売りたい人が、実はすごくたくさんいるんだと知りました。田舎には仕事がないという課題も、小さなモノづくりをして食べていける人が増えれば、もともと生活コストが低い田舎ですから可能性が広がると思いました」。

「マルシェを盛り上げよう」と地域の有志が一から練習し、衣装を作って始めた「ちんどんや」は、今や町の名物に。伝統舞踊や大道芸人も会場を沸かせる。

「マルシェを盛り上げよう」と地域の有志が一から練習し、衣装を作って始めた「ちんどんや」は、今や町の名物に。伝統舞踊や大道芸人も会場を沸かせる。

それからマルシェの回を重ね、出展者数はぐんぐん伸びていった。「四国のへそ」と言われほぼ中央に位置する池田町だけあり、四国の他3県、また岡山や神戸からも出店者が。売られるのは、アクセサリーや革細工、染物、陶器、盆栽、手作りの洋服や靴など。また食べ物も、そばやだんごなど地域のおばあちゃんたちの自慢の品から、各地の農家さんが丹精込めた野菜や果物、ひものや菓子など実に多彩。

「大きなスーパーさえあればいいのではなくて、田舎の人たちも、良いものを買いたいと思っているんですよね」。吉田さんが言うように、来場者も回を追って増え、今年2月に行われた第10回のマルシェには、120もの出店希望があり、来場者は地域の酒祭りと共催したこともあり1万人にもなった。「やっていくうちに気付いたんですが、出店してくださるモノづくりをしてる人たちって、楽しそうに暮らしてるんです。こういう暮らし方の見本があれば、もっと若い人も田舎に来ようって思えるんじゃないかって」。出店者同士、出店者と来場者、移住者と地元の人、県・地域や年齢・立場を越えて、友達が増え、地域に楽しいつながりが生まれていった。

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