観光庁・4年目の復興へ都内でシンポ

3月9日、「東北観光応援します!!~東日本大震災から3年~ シンポジウム」が、ベルサール半蔵門で開催された。

このシンポジウムは、3月2日に仙台で同じく観光庁主催の下に行われたシンポジウムに対となり行われたもの。東京から、これまで取り組んできた観光振興による復興支援を振り返り、「復興の先にある東北の観光」のあり方について広く社会に発信することで、「東北へ行こう」というムーブメントを再び醸成することを目的とて行われた。

第一部 〜震災からこれまでの振り返り〜

主催者代表挨拶として、観光庁観光地域振興部観光地域振興 川瀧弘之課長が、東北観光へのさらなる協力を呼びかけた後、第一部としてこれまでに観光復興野取り組みを行ってきた5団体が、これまでの東北観光復興の取り組みを報告した。

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JATAの取り組みについて語る、同協会事務局次長の池田伸之氏

1:一般社団法人日本旅行協会(JATA)

最初に、観光事業の発展へ寄与しているJATAの主な業務内容が示された後、復興に向けた主な取り組みとして、東北の子供たちを東京に連れてくるバスツアーの実施について報告された。参加した子供や保護者からのお礼の手紙も紹介され、「震災からずっと心が沈んでいた子供が、本当に久しぶりにディズニーランドではしゃぐ姿を見て嬉しかった」などの内容から、「旅の力は、こういうところにもある。人の活力になるような、笑顔をつくれるような活動をこれからも進めていきたい」とした。

さらには、業界の方々にももっと東北に足を運んでもらうため、旅行業者や各国大使館、観光局、メディアなど、関係者1000人を東北6県、合計28コースに渡る大規模なツアーへ参加させた「行こうよ東北」プロジェクトや、東北ふゆまつりへの協力を通しての様々な情報発信など、多岐にわたる活動が紹介された。

最後に今年度以降の取り組みの一つとして、タレント須藤元気さんのグループ「ワールドオーダー」とコラボレーションした47都道府県での動画投稿企画を紹介。また、世界最大級の旅の祭典であるツーリズムエクスポジャパンを通して、東北観光の需要喚起にも取り組んでいくことも述べられた。

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同協会 会長 澤田克司氏のプレゼンテーションでは、震災当日の津波の動画を視聴

2:社団法人宮古観光協会

まず、震災当日の津波の動画をスクリーンで視聴した後、震災の記憶を次世代に語り継ぎ、防災意識を高めること柱とした「学ぶ防災」についてその活動が報告された。学ぶ防災は、甚大な被害があった田老地区を、防潮堤の上から見ることで、震災の恐ろしさを感じてもらうことからスタートした。現在は5人の語り部で対応しており、今までに5万人の参加があったと紹介された。
基本的なカリキュラムとしては、震災遺構に認定された田老観光ホテルの上から撮影された津波映像の視聴と、語り部の話によって、津波の恐ろしさを伝える内容となっている。また、実際に避難道を歩いて、いろんなディスカッションをしながら意識を深めていく体験型の防災活動も実施されているとのこと。
また、今新たな広域観光ルートの定着にむけて、宮古市を「本州最東端の街」としてブランド化し、宮古市から眺める朝日と、西側の男鹿半島から眺める夕日をかけ合わせた着地型旅行商品の造成に向けてJTB社とともに取り組んでいるとした。
最後に、宮古市は全力で復興に取り組みながらも、震災という負の遺産を逆手にとって発展していきたい、あらゆる防災意識を高めていきたい、と結んだ。

天童温泉ほほえみの宿 滝の湯 代表取締役専務 山口敦史氏は、日本の旅館の良さを保ちながら、世界に発信するグローバルスタンダード化の必要性を訴えた

滝の湯 代表取締役専務 山口敦史氏は、日本の旅館の良さを保ちながら、世界に発信するグローバルスタンダード化の必要性を訴えた

3:天童温泉ほほえみの宿 滝の湯

旅館組合青年部の取り組みを紹介。宿泊を伴う国内旅行は年々減っており、この6年で6000万泊も減少。ただし訪日外国人や全世界での国際観光客は増えているため、その外国人をどのようにして東北へ誘致するかが大切だと述べた。
具体的には、「旅館」という日本独特の宿泊文化を、旅館がアライアンスを組んで世界で認知させることと、オンラインで旅館へ直接予約できる予約プロセスでのグローバルスタンダード化が不可欠だとした。特に日本は、この体制が整っておらず、これが世界に取り残されてしまう原因となると警鐘を鳴らした。
実際には、日本の文化をある程度理解しているフランスとドイツをターゲットにして、プロモーションを行っている。来年度にかけて、フランスの国際会議、ジャパンエキスポ、世界最大の旅行博ITBベルリンなどでのブース出展を予定。
また、世界中の旅行者が直接予約できる、他言語対応で手数料ゼロのウェブサイトを構築中であるとした。3月末にオープン予定で、CRSシステムを導入し、より多方面から宿泊客を呼び込む施策となっている。
衣食住の日本文化の集積ともいえる旅館が盛り上がることで、日本文化の発信や発展に貢献できるとした。

代表 日塔マキ氏。プロジェクトの一つ、「ふくいろピアス」は、シンポジウム内のブースでも販売された

代表 日塔マキ氏。プロジェクトの一つ、「ふくいろピアス」は、シンポジウム内のブースでも販売された

4:女子の暮らしの研究所

女子の暮らしの研究所「ガールズライフラボ」とは、女子の視点から福島の今を伝える情報発信のためのプロダクション。活動として、まず福島の女の子の思いを福島の伝統工芸品でつくったかわいい商品に乗せて発信するプロジェクトや、郡山コミュニティ放送でのラボラボラジオという番組で情報発信していることなどを述べた。
さらに重要なプロジェクトとして、被災地を訪れるツアーであるRe:Trip(福島のこれからを考える旅)を紹介。これは、震災から1年後、南相馬市小高区の警戒区域解除で訪れた際、現地の現状を多くの人に知ってもらおう思ったことがきっかけ。その後、関係者の協力のもとに、地元と協議会を重ねて実現。
ツアーは暗いムードになりがちなので、研究員はポップな制服を着て、フレンドリーに対応している。「かわいい女の子がガイドしているから行こう」というモチベーションでもいいと考えているという。
課題としては、ツアー後のコミュニケーションづくりが挙げられた。FACEBOOKなどでつながったり連絡を取ったりというケースはあるが、なかなか再度集まって何か行動するというところまでには至っていない。日塔氏は、グッドアイデアがあれば下さい、と会場に呼びかけた。

学生統括の白井宏美氏のプレゼンテーションの後、メンバーの学生によるかけ声が

学生統括の白井宏美氏のプレゼンテーションの後、メンバーの学生によるかけ声が

5:公益社団法人 助けあいジャパン

47都道府県の各地から、2000名の学生たちがバスで東北へ向かう「きっかけバス47」というプロジェクトについて紹介。内容は、ボランティア作業をしたり、被災された方々のお話を聞いたりして4日間過ごすというもの。着用する黄色いビブスには、各自出身都道府県が印字されている。自分たちの地元は自分たちで守るという意識を高め、この経験を各都道府県の未来に活かすためだと述べた。
また、このプロジェクトは社会人からの寄付で成り立っていると説明。地元で募金活動をしながら震災のことを伝えることで、今まで震災に興味がなかった人にも意識してもらうようになると同時に、学生に「無料で行かせてもらっている」とプレッシャーを与え、責任感を芽生えさせることもメリットとした。
次に、静岡県のリーダー、静岡大学の仁田直人さんからのショートスピーチが行われた。支援者への感謝の気持ちを述べた後、自分たち学生が日本を背負っていくことになるとして、このツアーの参加者が、そういった意識をもって日本の未来をより真剣に考えはじめたことに感動を覚えたとした。そのため、このツアーをもっと盛り上げていくべきという意思を示した。

第二部 パネルディスカッション 〜新しい東北観光のカタチ〜

続く第二部では、東北復興新聞の本間勇輝氏がモデレーターとなり、発地側から2名、着地側から2名、計4名のパネリストを招いてのパネルディスカッションが行われた。それぞれの立場で行ってきたこれまでの取り組みを振り返りつつ、そこから見えてきた新しい観光のあり方について、活発な議論が交わされた。

気仙沼斉吉商店 専務取締役の斉藤和枝さん。地元と観光客の温かい交流について語った

気仙沼斉吉商店 専務取締役の斉藤和枝さん。地元と観光客の温かい交流について語った

まず、この3年の振り返りとともに、復興に向けてどんなことが見えてきたか、各自から報告。特に、震災で会社の全拠点も自宅も流されてしまった気仙沼市の水産加工会社「斉吉商店」斉藤氏からの、「何もないところなのにがれきをかき分けて来てくれた他県の人に対して“よく来たね”とすごく喜んでいたら、相手から“人の気持ちがとても嬉しかった”と何度も言われた。物が無くても、おもてなしの心があれば喜んでもらえる、その気持ちこそが大切だと肌身に感じた」との報告が印象的だった。

JTB国内商品事業本部 副本部長の平野利晃氏。震災以前からある問題も含めて、長期的に取り組む必要性について言及した

JTB国内商品事業本部 副本部長の平野利晃氏。震災以前からある問題も含めて、長期的に取り組む必要性について言及した

また発地側のJTB国内商品事業本部の平野氏からは「これからの成長を見据えたときに、団体旅行だけでなく、個人旅行の復活や、教育旅行、インバウンドの促進を含めて、東北の魅力、観光資源の見直しをしなければならない。特に、震災以前からあった問題も一緒に、ゼロベースで考えていかなければならないのでは」という提案も。

東日本旅客鉄道 鉄道事業本部の高橋敦司氏。鉄道を通して、地元に根ざした取り組みを続けていくと思いを語った

東日本旅客鉄道 鉄道事業本部の高橋敦司氏。鉄道を通して、地元に根ざした取り組みを続けていくと思いを語った

次に、今回のディスカッションのメインである、「食」と「人」をテーマに意見が交わされた。食については、JR東日本の高橋氏から東北の美味しい食材をスタイリッシュに料理して提供する東北エモーションの成功例が報告された。「決して安いツアーではないが女性が殺到しており、今年分は全て満席。今までの東北ツアーの客層(シニアやハードボイルドな人たち)とは全く違っていることから、既にあった美味しい食材の見せ方、切り口を変えるだけで、いくらでも新規開拓は可能」とのこと。

現地の受け入れ側として、斉藤氏からは「気仙沼の人にとっては当たり前な魚介を使って、魚市場で朝食を提供したら大好評で“生涯で一番美味しかった朝食だ”と言われた。それが地元の人を勇気づけた。単に食事が美味しいというよりも、そこに関わる人々の営みが見えた方が、より楽しく感じられるのではないか」とあった。また、斉藤氏が運営する“ばっぱの台所”では、大きな台所でみんなが食事したり、ワークショップを開いたりと、美味しい食とともに人々の触れ合いが盛んにされている。中にはそこで出会った男女が結婚するという例もあったそうで「物が少ない場所だからこそ、人と人とのつながりなど、何か大切なものを見つけられるのではないか」と述べた。また、平野氏は「お客様に志向にあった提供をすることが大切。受け入れ側としても、毎日提供できる食事と予約が入っているからこそ準備できる食事は異なるので、団体ツアーと個人旅行で分けてのマッチングが重要。個人旅行向けには、“旅の過ごし方BOOK”という地元の人しか知らないような、厳選した情報を掲載しているガイドブックを用意している」と説明した。

NPO法人 十和田奥入瀬郷づくり大学の生出隆雄氏。観光を盛り上げる人材づくりの大切さについて訴えた

NPO法人 十和田奥入瀬郷づくり大学の生出隆雄氏。観光を盛り上げる人材づくりの大切さについて訴えた

次はもう一つのメインテーマ、“人”について意見が交わされた。まず、生出氏からは「山に詳しいとか、木について豊富な知識を持っているとか、そういった得意分野のある人の方が、深いガイドができるのでお客様に楽しんでいただける。また、ソフトな人柄でユーモアのある人がモテていて、指名も多い。さらに、高校の観光科の生徒もガイドとして育成。これは彼らが卒業後に、十和田奥入瀬のことを、自信をもって発信するということを期待している。大切なのは、やはり地元が素晴らしいという認識をもってガイドをすること。その認識があるかどうかは、受け手に必ず伝わってしまう。それをふまえて、地元のみんながガイドできるというところまで継続していきたい」と説明があった。

平野氏からは、「オリンピックもふくめて、10年単位で頑張ることが重要。今や大人気の出雲大社も、今年は遷宮があったので前年比200%だが、それがなくても、地域の皆さんが、この10年間でずっと“縁結び”をテーマにずっと取り組みをされていた。その成果が今、花開いている。また、八重垣神社の鏡の池の縁占いのように、地元にもともとあったストーリーを活用するとなおよい」。さらに斉藤氏は、「出発する船を盛り上げる“出船送り”という昔の風習を、仲間で勝手に始めてみたところ、最初は遠慮していた漁師さんも次第に喜び始めた。すると、もっと漁師さんをフォーカスしたいと思うようになり、現場の漁師さんのかっこいいカレンダーを制作。今度はマグロ漁船に乗って美味しい海の幸を食べるツアーをすることになっている。地元では、震災の支援者を受け入れてきたことから、今度は観光客と触れ合おうという機運がでてきている」と述べた。

そこで地域の人々を観光に巻き込んでいくということについて、生出氏より、「十和田奥入瀬浪漫街道の花々の維持管理も、何十キロ分もあるので行政や担当者だけでは間に合わない。地域の活性化には地元の人々の協力は不可欠で、今それに取り組み始めたところである」とし、高橋氏は「地元の人々が自発的に協力する、ということが大切ではないか。震災後、新幹線が再開したときに、頼んだわけではないのに、地元の方々が沢山、手や鯉のぼりをふったり、横断幕を広げたりしてくださった。また、先ほどの東北エモーションでは、岩手県洋野町で“ひろのエモーション”といわれる町民のみなさんが電車に向かって手を振る活動がこれも自発的に行われている。これらでは、地元のみなさんの心に、観光客に向かって“来てくれてありがとう”という気持ちが芽生えている。この、ありがとうと思えるか思えないかが、これからの観光で大切なことではないか」と述べた。

モデレーターの本間氏を中心として、東北を地元として観光を活性化しようと取り組む2名と、東北へ人を送り込む側の観光業と鉄道業者2名で、意見が交わされた

モデレーターの本間氏を中心として、東北を地元として観光を活性化しようと取り組む2名と、東北へ人を送り込む側の観光業と鉄道業者2名で、意見が交わされた

最後に、これからの東北観光のあり方や決意について、各自が語った。生出氏は「国立公園である十和田湖奥入瀬を、ユネスコの世界遺産にするという夢に向かって、若者も巻き込んで取り組んでいきたい」と、斉藤氏は「お客さんが来てくださって嬉しい、と、観光を自分事に思える人が地元に増えるようにできればいいな、と。また、震災以前は、地元の進学校の子供たちはみんな東京へ出て行ってしまっていたが、今は地元のために何かしたいと思っている子供が増えている。これも“自分事”の一つであり、素晴らしいことである」と、平野氏は「食だけじゃなく、温泉やお酒など、魅力あふれる東北を、地域の皆さんと連携して打ち出していきたい。2015年の上期に予定されている“日本の旬、東北”キャンペーンでは特に力を入れていく予定」と、高橋氏は「人口減が叫ばれているが、その中でも我々は東北新幹線のスピードアップに取り組んでいる。移動時間が短くなれば滞在時間が増えて、より東北を楽しめる。東北6県でフェニックスのように頑張り、子供たちが地元に残るような取り組みが必要だ」と述べて終了した。

各ブースでは、担当者と参加者、参加者間などでの交流が盛んに行われた

各ブースでは、担当者と参加者、参加者間などでの交流が盛んに行われた

なお、終了後は参加者が各ブースに足を運んでの交流会が行われた。長時間にわたり多くの来場者が会場に残り、活発に議論がかわされていたことが印象的だった。