社会課題解決型の新商業施設「宮城県名取市ロクファームアタラタの挑戦」【前編】

穏やかな語り口のなかに情熱を秘める渡部さん

穏やかな語り口のなかに情熱を秘める渡部さん

宮城県名取市に9月29日、「農と食」をテーマとした学びの商業施設「ロクファームアタラタ」がオープンした。震災からの復興をめざし、雇用の創出、第一次産業の支援、防災意識の啓発といったコンセプトをかかげた。創業費用は約6億6千万円。行政の補助金など受けない民間発の大型復興関連事業としても注目される。創業メンバーの一人である、一般社団法人東北復興プロジェクト代表理事の渡部哲也さんに、オープンに至った経緯や事業のしくみ、そして将来像を伺った。

6人のプロフェッショナルが生み出す共創空間

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上:明かり日差しが差し込むアタラタ・マルシェの店内。中:「6スタ」では生産者の顔を動画で伝える計画も。下:落ち着いた雰囲気で新鮮なおそばを堪能(焔蔵)。

 「ロクファームアタラタ」は、仙台市内から電車で20分弱、名取市内の新興住宅地に隣接し、一級河川・増田川に面した約4千平方メートルの土地に建つ。三角屋根が特徴的な建物の壁面は、北海道から取り寄せた木材と大きなガラス窓が覆い、モダンでありながらナチュラルな風合いで河辺の風景にとけ込んでいる。

 施設には、そばレストラン「焔蔵(えんぞう)」、レストラン&ブッフェ「アタラタ・マルシェ」、パン工房「ル・タン・リッシュ」などの飲食店、そして地域の人に開放するコミュニティスペース「6スタ」がある。さらに前庭では、朝市のマルシェを不定期に開催し、新鮮な野菜などを販売する計画だ。

 アタラタは「東北ロクプロジェクト」の中核施設。東北ロクプロジェクトは、一般社団法人東北復興プロジェクトと株式会社東北6次産業創出支援センターのメンバー計6名が震災を機に出会って生まれた。障害者雇用や、6次産業化のコンサルティング、飲食店経営、設計や建築などの分野で専門性と実績を持つプロフェッショナル集団だ。

将来世代への思いを託したタイムカプセル デザインは俳優の伊勢谷友介さん

将来世代への思いを託したタイムカプセル デザインは俳優の伊勢谷友介さん

 主なコンセプトは、雇用の創出、第一次産業の支援、防災意識の啓発の3つ。このコンセプトを形にするため、6人がそれぞれの得意分野を持ち寄り、構想から2年3カ月の時を経て、ようやくオープンにこぎ着けた。

社会的弱者に雇用の機会を

障害者の方々が駐車場の隅々まで清掃して開店に備える

障害者の方々が駐車場の隅々まで清掃して開店に備える

 津波で職場が流されたり、事業縮小などによりそれまでの仕事を失った人は数多い。失業することで、経済基盤を失うばかりでなく、尊厳を持って自分らしく生きていく力をもなくしてしまうことも。東北ロクプロジェクトでは、震災からの復興には雇用の創出、とりわけ社会的に弱者とされる人々に働く場を提供することが欠かせないと考え、中心的なコンセプトの1つとして障害者雇用に力を入れている。オープン当初のスタッフ約70名のうち40名弱が障害とともに生きる人々だ。調理補助や施設の清掃、ガーデンの手入れなどをローテンションで担当している。

 創業メンバーのなかでも渡部さんは、障害者雇用の分野で豊富な経験を持つ。東北復興プロジェクトの代表理事であると同時に、仙台市内にあるビュッフェレストラン「六丁目農園」を経営し、これまで延べ200人以上の障害者を雇用してきた。

 「私たちは日頃、他人のできない部分に目が行きがちですが、障害者がいることで、できる部分を認め合う社風が生まれます」と、渡部さんは障害者雇用のメリットをあげる。さらに、障害を持った人が日々頑張る姿を見ると、一人ひとりが生き生きと働ける雇用を創りたいという理念がぶれないのだという。

6次産業化の成功の秘訣は販路の確保

 2つめのコンセプトである1次産業の支援については、生産(1次)、加工(2次)、販売(3次)を一体化させた6次産業化が肝となる。被災地に限らず、各地で農水産業が衰退の危機にある中、6次産業化に向けたさまざまな取り組みが進められている。しかし、肝心の売り先が確保しきれず、立ちゆかなくなるケースも少なくない。その点、レストランという確実な出口を持つアタラタでは、継続的な販売力を提供できるのが強みだ。

 例えばレストランで使われる牡蠣は、石巻市の「宮城県狐崎水産6次化販売」と直取り引きしている。ここは震災後に浜の漁師たちが新しく設立した会社だ。震災で漁具などをすべて失い、あきらめかけていたところに東北ロクプロジェクトのメンバーが入り、消費者の生の声を伝え、ほかの産地の牡蠣と食べ比べるなどの働きかけを行った。以前であれば、「自分たちの仕事は漁協に卸すだけ」と考えていたような漁師たちが、毎日のように仲間たちと議論を重ね、浜の将来や後継者の育成を考え、新たに漁師中心の会社を設立し、本格的な6次産業化に取り組んでいる。

 ほかにも、そばの実は山形県大蔵村の農家から直接仕入れ、宮城県東松島市の「よつばファーム」とは提携農家として直取引をしている。同県角田市の養鶏農家「KIファーム」ではアタラタ専用のケージを用意してもらい、オリジナルの卵を仕入れているという。「口では立派なことを言うが、やっていることはただの商業施設」などといわれないよう、6次産業のモデルファームとして、1次産業従事者の地位や収入向上、後継者問題の解決など、本質的な点を具現化することを目指している。

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文:小島和子

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