福島県浪江町の事例に学ぶ 自治体のマンパワー不足 解消へ向けた民間人員の活用【前編】

震災以降、被災自治体ではマンパワー不足が続いている。これまで全国の自治体からの応援職員をはじめとしてさまざまな人的支援が行われてきたが、未だに充足に届いていない。
こうした中、国や民間企業、NPO等の働きかけにより、被災自治体による民間人材の活用が進み始めている。積極的に採用を進めている福島県浪江町の事例とともに、制度の概要を整理する。

人的支援を支える各種制度

総務省、復興庁が受け皿づくり

 総務省の発表によると、今年4月1日現在で全国の自治体から1980人の職員が被災県および市町村に派遣された(図説①)。うち約300人は各自治体が任期付職員として採用した民間の人材だ。加えて、被災市町村もそれぞれ任期付職員採用を進めている。総務省「復興支援員制度」などで財源を確保、また民間企業からの社員派遣も開始されている(図説②、③)。さらに復興庁職員が現地に駐在する施策も開始しており(図説④、⑤)、さまざまな形で民間人員による人的支援が進んでいる。しかし依然として人材の不足は続いている(4月1日時点で431人が不足)。不足人員の多くは土木建築等の技術職だが、産業振興や観光、広報関連などの人員も不足しており、更なる民間人材の活用が期待されている。

 企業や第3セクターからの人員派遣の促進へ向けては、今年3月に総務省が制度整備を行っている。民間企業等の従業員の身分を持ったまま任期付で被災自治体職員として採用ができるようにするもので、被災市町村が負担する給与等の受け入れ経費についても復興特別交付税による財源措置がとられた。

 さらに復興庁では、復興庁職員として民間人材を採用し、市町村に駐在させる形で人員支援を行っている。主な対象は企業からの派遣社員に加えて青年海外協力隊帰国隊員や公務員OBなど。5月時点で51名の職員を現地に送っている。

 総務省や復興庁ではこれらの制度をテコに、日本経済団体連合会、経済同友会、日本商工会議所などの経済団体へ人員派遣の打診を行っている。


制度以外でも取組みが必要

 被災自治体が民間人員を雇用、受け入れにあたっての制度の整備は進んでいるが、制度だけでは十分ではない。まずは必要な人員を確保するための広報が重要だ。例えば民間企業が社員派遣を行うにあたっては、相応の提案や自治体側も含めたニーズマッチングを行う必要がある。派遣後の受け入れ自治体における事務負担も課題となる。

 こうした課題の解決へ向け、市町村を越えて取り組む「復興人材プラットフォーム」といった構想も日本財団などの民間団体により進められている。人材の発掘やニーズマッチングなどのコンサルティング・コーディネートを担う専門チームを新たに構成するもので、早ければ今年度中にも実現する見込みだ。

【事例】浪江町の人材活用

受け身ではない人材獲得を

浪江町 復興推進課係長 蒲原文崇さん

 多くの自治体が人員不足に悩まされる中、制度を積極的に活用して民間人員の採用を進めているのが、福島県浪江町だ。原発事故の影響で避難している住民の避難先が、実に全国600の自治体になるという同町は、通常業務に加えて膨大な復興関連業務が職員にのしかかっている。東京のNPOと協働しながら、2名の民間人材の採用に成功している。

 「欲しいのは、共に考え、共に創り出せる人」。こう話すのは、復興推進課の蒲原係長。直面している復興業務は、もちろん前例が無いもの。一緒に町をつくっていく上で、専門性を持った仲間が必要だと言う。たとえば不足しているのは、対話を通じた合意形成を進められる人材や、プロジェクトマネジメントができるような人材。同町はNPO法人ETIC.の支援を受ける形で「攻めの人材募集」を行い、それぞれ1名ずつの採用に成功した。制度として1名は総務省の「復興支援員」を、もう1名は復興庁職員が現地駐在する仕組みを活用した。

民間の力を多方面で活かす

 民間人員の採用について、いかに課題抽出をするかがポイントになると蒲原さんは話す。例えば求人票づくりにおいても職種名を書くだけでは人は集まらない。いま町がどういう状況でどのような課題があるのか、何を目指しているのか、しっかり説明することが必要だと言う。このことについて、募集から採用プロセスを共に行ったETIC.の山内幸治氏は次のように表現する。「課題や期待役割を具体的にすることで『自分の出番だ』と思う人が出てくるのです。たとえマニアックな業務でも、そうすれば1人は自分だと言う人がいるはずです」。東京における採用説明会なども功を奏し、募集枠を大きく上回る応募が得られたと言う。

 着任後も、民間の視点は役場の現場に新たな視点を提供している。「たとえば復興計画の進行管理。行政的には決めた通りいったか・いかないかを確認するような形で行いますが、一つひとつの成果を見える化し、フィードバックを与えながらモチベーションを高めるやり方を提案してもらいました」(蒲原さん)。

今後は広報担当も募集

 浪江町では、今後さらに民間人材を採用していきたい考えだ。募集準備に入っているのが広報担当。現在は月2回の広報誌発行や、ウェブサイトやフォトビジョンを通じた情報の発信を行っているが、住民からは情報が少ないと言われていると言う。「住民が求める情報と町が出している情報にミスマッチが起きている。全国に避難している町民とのコミュニケーションは重要課題。強化が必要です」。広報の他の業種も、今後復興計画を進めて行く上でニーズや課題を吸い上げ、さらなる募集を検討している。ETIC.のような民間NPOと協業しての採用や、復興庁を介した企業人材の受入など、自治体として新たな事例をつくってきた浪江町。これを土台として今後の展開を加速させたい考えだ。

→→【後編】職員インタビューへ

2件のコメント

  1. 谷村智康 返信

    浪江町の広報コーディネーターに関心があります。

    浪江町の広報戦略と職務内容について伺いたいと思いますが、あいにく15日は別の予定でふさがっております。別の日にお伺いしたく思いますが、お時間と機会をいただけないでしょうか。

    1. admin-hug 返信

      谷村さま、コメントありがとうございます。幣紙では直接ご説明が難しいのですが、別途メールにてご連絡させて頂きます。よろしくお願いいたします。

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