高齢者を孤立させない コミュニティづくりは 『貯筋運動』で!

毎日の簡単な運動が健康と自立への近道

「狭い場所で動かない生活を続けることは、生死にかかわる問題です」と、被災地の高齢者の健康を危惧するのは、鹿屋体育大学学長の福永哲夫先生。

被災して自宅には住めなくなり、仮設住宅や民間借り上げ住宅などへ入居し生活をしている多くの人々。現場で指摘されているのが、慣れない環境で引きこもりがちになること、特に高齢者は運動不足が心配されている。孤立や、果ては孤独死を問題視する声はよく聞かれるが、実は侮れないのが、運動不足による老化の進行や骨折などの事故だ。だからこそ、早くから高齢者と一緒に歩む方法を模索するリーダーたちの姿もある。その中の一人が、福島県の南相馬で活動する、NPO法人・はらまちクラブ理事長、江本節子さん。昨年11月より定期的に市民を集め、集会場で福永哲夫先生が提唱する「貯筋運動教室」を開催している。

筋肉量は2日寝たら1%減少

「貯筋運動は、生きていくのに最低限必要な筋肉を減らさないための運動です。筋力低下は、骨折や、寝たきりになり入院するなど医療費の負担が増大する可能性も秘めている。そうならないよう、コツコツと続けることで筋力を貯めていこうというのがコンセプトです。特別な器具は不要、膝や腰に痛みがある人でも、出来る範囲で行うものですから、強度も自分で変えられます」と話す、貯筋運動の提唱者、福永哲夫先生は、とにかく身体を毎日、きちんと動かすことが大事、と力説する。人間が生きていくために最低限必要な大腿四頭筋(太ももの前側の筋肉)と腹筋は、寝たきりなら2日で1%、風邪で1週間寝込めば3~5%は減る。大腿四頭筋の筋量が10gを切ると、歩行困難になることが明らかになっているので、もともとの筋量をできるだけ多く『貯筋』しておくことが高齢者の健康維持に繋がる。また、震災前は農業や漁業で身体を動かしてきた人も、油断してはいけないと警鐘を鳴らす。そもそも50歳を過ぎると加齢に伴い1年で1%の筋量が減少するというデータもあり、長年の労働で貯えた筋力も、動かなければ確実に減り続けてしまうのだ。

運動で脳も活性化される

「ただ年齢のせいにしてはいけません。筋肉は70歳になっても増え続けます。少しずつでも毎日、身体を動かすことが、健康な身体作りの基本です」。さらに筋肉を意識して動かすことが大事とも。意識して動かすことで、筋肉内を張り巡らす神経が働き出し、神経の働きが活発なると、脳への信号も増えていく。つまり、脳の活性化にもなるのだ。『脳が活性されると、気持ちも前向きになる』効果が見込めるという。「自分の身体は自分で守り、元気な身体を維持しようという高齢者が増えれば、そのコミュニティ全体が活性化していくはずです」。

現在、貯筋運動指導者の養成と、運動教室の整備が各地で進んでいる。痛みや怪我を予防しながら、正しく安全に動くことを指導できる指導者についてもらうことが理想だ。健康・体力づくり事業財団では、おもに健康運動指導士を対象に2日間の貯筋運動指導者養成コースも設けている。福永先生からは、「私も今年は講演などで支援できればと考えています。ご要望があれば、遠慮せずご連絡ください」と、心強いお言葉も。寒くなる季節、皆で身体を動かすことを高齢者のコミュニティ作りに活かしてみてはどうだろう。

取材・文/坂本真理

貯筋運動

【問い合わせ】
貯筋運動について:財団法人健康・体力づくり事業財団 ℡03(6430)9114 URL:http://www.health-net.or.jp/tyousa/tyokin/douga.html
福永先生について:鹿屋体育大学総務課 ℡0994(46)4818・4819

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