区域再編に揺れるまちの今 交流人口増加を目指す南相馬市の挑戦【後編】

農家民泊を通じて、地域の資産である「人」の良さを伝える

地域にとって「人」はなくてはならないもの

南相馬市道の駅内にある「ふるさと回帰支援センター」。事務局職員の高野智子さん

 南相馬市ふるさと回帰支援センターは、二地域居住や田舎暮らしを希望する人々の誘致活動を目的に、09年に設立された。南相馬に人を呼び込むため、当時注力した施策は「民泊」。農家が行う民宿「農家民宿」に泊まりながら農家体験などを行うもので、震災直前には予約が取れないほどの人気を誇っていた。

 当時市内に14軒あった農家民宿は、津波被害等で7軒に減ったが、センターはいまも農家民宿を交流人口増の中心施策としている。わずか7軒のキャパシティを考えると非効率に思えるが、その理由を南相馬市ふるさと回帰支援センター事務局職員の鈴木里加子さんはこう話す。

「震災によってたくさんのものを失いました。でもその結果、南相馬の資産は人だと分かった。その良さを伝えるため、民泊を選びました」。

 なぜ民泊が有効なのか。実は農家民宿は農業従事者が収入を安定させるためにはじめた、いわゆる副業だ。宿泊施設は一般的な民家だし、農家体験などはできるものの、施設面・サービス面共に特別なものはない。だからこそ、売りである「人」の良さがストレートに伝わるのだという。

 「震災直後は、農家体験もできませんでしたし、料理もカレーくらいしか出せなかった。でも売りである『人』がお客さんを魅了し、新たなお客さんを連れてくるという現象が起きたのです」。(鈴木さん)

工事関係者ではなくあえてボランティアを誘致

農家民泊の一例

 その良質なスパイラルをつくるべく、センターは2つの工夫をした。ひとつは、工事関係者ではなくボランティアを誘致したことだ。工事関係者の宿泊は農家民宿にとって安定収入につながるが、地元に戻って南相馬での体験を広め、さらに友達を連れてリピートするのはボランティアの方だと考えた。

 加えてPR方法もユニークだ。ホームページ等での情報発信は最小限にとどめ、あえて口コミでの広がりに委ねている。その方が、「人」という無形資産を売りにする農家民宿の良さが伝わりやすいと考えた。

 「震災直後、ボランティアの方はリュックにご飯をつめてやってきた。外に寝泊まりをしながら、支援を続けてくれた。絶対になくしてはならないものは『人』だということが分かったのです」。

 農家民宿で出会ったボランティアから復興支援団体が生まれたり、都心から移住して農家民宿を始める夫婦が出るなどの事例も生まれている。人口減が懸念される一方で、残された「人」の価値が浮き彫りになっているのも、南相馬の特徴なのかもしれない。

南相馬に足跡を残してほしい
NPO法人 フロンティア南相馬 伊藤孝介さん

 先日、淡路島に行ったときのこと。島民の方に南相馬に住んでいることを伝えると、「南相馬に人がいるの?」と聞かれました。南相馬には、もう誰も住んでいないと思っていたようです。

 でも住民の生活は続いています。仕事もしていますし、結婚する人も出産する人もいます。南相馬の住民はもともと内向的で、市外からの訪問者に少しアレルギーがありますが、私はもっとたくさんの人に足を運んでもらいたいと思っています。まちの現状を知ってほしいんです。

 交流人口を増やすため、当団体では企業のボランティアチームなどさまざまな団体の受入れをしています。行うのは花壇に花を植えるなどシンプルな作業も多いのですが、ぜひ南相馬に足跡を残してほしい。自分が草刈りした場所はその後の変化が気になるように、関わった場所にはもう一度足を運びたいと思えるからです。

 一方で、人口流出を止める施策も必要です。原発への不安もさることながら、いまの南相馬には、仕事面、結婚・育児環境面等で若者を引きつける魅力に欠けているとも思います。これらの魅力を作りながらも、語り部の組織化等で情報発信を強化し、南相馬の新たな一歩に寄与できたらと思っています。

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