区域再編に揺れるまちの今 交流人口増加を目指す南相馬市の挑戦【前編】

温暖で暮らしやすい気候や美しい自然、相馬野馬追(のまおい)を代表とする文化遺産など、多くの魅力をもった福島県南相馬市。しかし津波被害と原発事故による放射能被害に見舞われ、観光客誘致には難易度が高い地域となってしまった。一方、原発の避難区域再編による視察ツアーなどで市外からの訪問者が増加している。今なお続く放射能被害や区域再編に揺れる同市における、交流人口増加へ向けた取り組みを追った。

復興支援ツアーで南相馬の「ありのまま」の姿を伝える

復興支援ツアーに半年で800人が参加

沿岸部は手つかずで震災の爪痕が今も残る

 福島県南相馬市は福島県の東部に位置する、人口6万5千人の小さな町だ。夏には国の重要無形民俗文化財に指定されている相馬野馬追(武者の乗った騎馬が疾駆する神事及び祭りで、平将門が野生馬を敵兵に見立てて軍事訓練をした事に始まると言われている)が行われるなど、古くから独自の文化を育んできた。しかし原発事故によって市の一部が警戒区域となり、現在は解除されているものの、いまも多くの住民は避難先で生活。人口減が町の深刻な課題となっている。

 交流人口を増やすために観光協会が取り組んでいるのが、復興支援ツアーの誘致事業だ。本事業は南相馬市から観光協会に委託され、一定の要件を満たしたツアーに一人あたり2千円を助成する。年度目標千人のところ約半年で8百人あまりを集客、目標値達成は間違いないと観光協会も手応えを感じている。

 ツアーの要件には、観光地2カ所の訪問が含まれる。歴史的建造物である「銘醸館」や博物館などの中から旅行代理店が選ぶのだが、観光地とは別に視察の要望が多いのが、いまだ震災の爪痕が残る小高地区だ。

 小高地区は全域が原発から20キロ圏内の地域で、一時は住民全員が避難したものの、今年になって警戒区域が一部解除された。しかし立ち入りはできるものの宿泊はできず、水道も復旧していない。スーパーやコンビニなど、町に必要な機能は ”一見“あるものの、ほぼ全ては閉鎖しており、窓が割れた家やなぎ倒された木々も残る。

 「いまなお、震災直後に近い状態が残っている。『ありのまま』の南相馬を感じられることが、訪問者の増加につながっている」と原町観光協会の古関宣治事務局長は言う。

 地道ながらも復旧・復興が進む他の被災地に比べ、ある意味手つかずの地域が残っていることから、視察等のニーズが高い。地元住民の心情もあり難しい一面は残るが、訪問者の興味は高い。ありのままの姿がより深刻さを伝え、「まだこのレベルなのか」と落胆する訪問者も多いという。

悲惨さだけでなく住民の無念さも伝える

駅前商店街も人通りが少ない

 再生にはまだ遠い町と、それを見にくる訪問者。この現状を住民はどう思っているのだろうか。古関さんは「外から人を呼び込むより、中から地域活性化をしたいという声も多い」という。交流人口を増やそうとする市の方針に、地元住民は少し複雑なようだ。

 しかし市は、その複雑さも含めた「ありのまま」を伝えることにこだわっている。たとえばツアーバスには、市が組織したボランティアガイドが同乗している。観光ガイド役として震災前に市が育成したもので、現在は津波被害の体験や原発への思いなどを語っている。語る内容は統一しておらず、ガイドの問題意識や思いに委ねる。

 また市内にある博物館では、市のPR映像を見ることができる。06年の合併に伴い作成されたもので、震災から数年前のまちの様子を見ることができる。この映像と現在の両方を体感することで、「悲惨さだけでなく、住民の方の無念さも理解できた」という訪問者もいるという。

 「避難者が全員戻ったときが、南相馬にとって真のスタートになる。スタートのための準備が、いまの活動なのではないか」。(古関さん)

 震災から2度目のお正月を迎えようとする町には、いまも「求人募集」の張り紙が目立つ。でも住民がいないため店員も雇えず、店を開くこともできない。まだ前だけを向くことができない複雑な状況ではあるが、町は一歩ずつ前に進んでいる。

ぜひ見ておきたい南相馬市の“いま”

相馬野馬追

毎年7月に行われる神事で、国の重要無形民俗文化財に指定されている。震災前までは積極的な集客をしてこなかったが、今年はフォトコンテストを実施し、対外的なPRにつなげた。

野馬追通り銘醸館

明治・大正・昭和の時代変遷を伝える歴史的建造物「旧松本銘醸」を再生。3つの展示室と酒蔵を改装した大小2つのギャラリー蔵を備えるなど、町の情報発信拠点として利用されている。

小高地区

原発から20キロ圏内のため、地震直後に圏外退避とされた地区。12年4月に警戒区域解除となって以降、はじめてガレキ撤去や泥だし作業が始まった。いまも多くの住民は戻っておらず、町は静まりかえっている。

※小高地区の視察を含む都内発のバスツアーも各種開催されている。福島交通観光では、1月末、2月初旬にモニターツアー「ふくしま復興かけはしツアー」を実施予定。小高地区の他にも、市内の商店主との交流などを行う。

→後編へ

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です