福島の高齢者施設 現場主導で活かす震災の教訓

独自で連絡先確認、避難用バス手配

災害協定について会議で説明する県社協の 復興委員会事務局担当者(12 月13 日午前、福島県福島市で)

災害協定について会議で説明する県社協の 復興委員会事務局担当者(12 月13 日午前、福島県福島市で)

国や自治体が原発事故の際の避難に対する具体的な防災指針を未だ示せていない中、福島県内の介護施設では震災の教訓を活かそうと独自で様々な取り組みをはじめている。またこれらの高齢者施設が、緊急時に迅速に避難先が確保できるよう福島県老人福祉施設協議会が中心となり、施設間で協定を結ぶ議論が12月13日に始まった。

11年の震災において、岩手、宮城、福島県の沿岸部では、病院の全入院患者や介護施設の全利用者が短時間に一斉に避難しなくてはならない事態が生じた。特に福島県では、入院患者や介護施設利用者などの要援護者が、原発事故による避難の際に最後まで取り残され、多くの病院や施設が独自で避難手段や受け入れ施設を確保しなくてはならなかった。結果、取り残された高齢者の多くが避難途中に容体を悪化させ、入院患者を中心に避難の過程で少なくとも60人が亡くなっている。

このような避難の教訓は、政府、民間、国会の事故調査委員会や各メディアにて部分的に取り上げられているほか、行政も聞き取り調査は行っているものの具体的な政策は打ち出されていない。避難を経験した特別養護老人ホームでは、自分の身は自分で守ろうと独自で対策を考えだした施設もある。

南相馬市の原町の特別養護老人ホーム「長寿荘」では、被災前に用意していた入所者の家族への緊急連絡先のほとんどが自宅にある固定電話だけだったため、緊急時に家族と連絡がとれず苦労した。このため同施設では、利用者の緊急連絡先を更新。中川正勝施設長は不測の事態に備え、緊急連絡先などの資料を常に持ち歩くことにしている。

広野町の特別養護老人ホーム「花ぶさ苑」では、緊急時に独自で避難ができるよう新たにバスを2台手配。また運転手の確保のために職員に大型免許を取得させた。

高齢者施設間の災害協定も

また、福島県社会福祉協議会・老人福祉施設協議会が中心となり、緊急時に災害の規模に合わせて高齢者施設の利用者を県内外に迅速かつ安全に避難できるよう施設間の災害協定を結ぶ計画を作成している。通信手段もなく行政からの支援も手薄になる大規模災害では、被災した施設が独自で受け入れ先の確保をしなければならない。今回の震災や原発事故により10時間以上にわたる移動を強いられたり、5回以上避難先を転々としなくてはならない施設もあった。災害協定は、このような問題を解消することが目的で、年度内を目処にその内容を作成する方針だ。13日に福島市内で行われた会議では同協議会会長三瓶政美ほか役員約20人が出席し、協定の素案が協議された。電話回線が機能しない災害下では、状況報告を携帯メールを含め柔軟に行うことや、職員の応援や利用者の受け入れなどの対策について説明があった。素案の取りまとめを行った県社会福祉協議会・老人福祉施設協議会事務局の担当者は「本当に使えるものを作らないと意味がない。ぜひ各施設の意見を聞きながら災害に対応できるものを作っていきたい」と話している。

文/相川祐里奈

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です