NIRA 復旧・復興インデックス発表 ―生活基盤は概ね改善 産業基盤の復旧・復興を―

公益財団法人総合研究開発機構(以下NIRA)は8月、東日本大震災の復旧・復興状況を表す「東日本大震災復旧・ 復興インデックス」を発表した。本インデックスは、生活インフラの復旧度を示す「生活基盤の復旧状況」指数と、被災した人々や地域の生産・ 消費・流通状況を示す「人々の活動状況」指数で構成され、3カ月ごとに更新・発表されてきた。今回発表された3月段階での指数をもとに、現状と今後の課題を伺った。

一部指標に 1年間改善なし

生活インフラの復旧度を示す「生活基盤の復旧状況」は、震災前を100として岩手県で84・3、宮城県で8・9、福島県で77・3と、福島第一原子力発電所事故の影響で復旧活動に制約がある福島県を除いては、8割以上改善している。同指数を構成する17の指標を見ると、「避難所避難者数」「電力復旧度」「ガス復旧度」は3県とも100に、「道路復旧度」「他自治体からの支援」「コンビニ店舗数」も90以上となっており、生活を支える最低限のインフラは整いつつあることを示している。

一方、低調な指標もある。企業の被害額に対する民間金融機関の貸出金を表す「貸出金」は岩手県で31・4、宮城県で29・0、福島県で20・8と、この1年間で最も伸びた宮城県でも7・9ポイントしか改善していない。

もちろん、電気・水道などの生活インフラがほぼ整備されたいま、本格復興に先だつ本インデックスが多少ながらも改善している点には、一定の評価と期待もできる。しかし、同じく低調に推移する「瓦礫処理率(三県とも10未満)」や「鉄道復旧度(県により5割から7割程度)」は、処理施設の建設や地域のグランドデザインに伴った改善が見込める一方で、「貸出金」を大きく伸ばす要因や施策は現状見いだせていない。江川暁夫主任研究員は「数値の低さより、この1年で大きな改善が見られないことが問題」とする。

公共投資が消費を牽引 生産活動の底上げが必要

「人々の活動状況」指数は、被災した人々やその地域の生産・ 消費・流通状況を示す12の指標で構成される。本指数はこの1年で緩やかに改善しつつあるが、同じく背景には課題も見える。

消費活動を示す指標のひとつである「青果物卸売市場取引量」は昨年段階で震災前水準を回復、また同じく「大型小売店販売額」も岩手県で横ばいの動きが続いているものの、宮城県・福島県では震災前水準に戻っている。2指標からの限定的な判断ではあるが、消費水準は概ね震災前の水準に回復しつつあると言える。

NIRAはこの背景を「公共投資の増加にある」と分析する。「公共工事請負金額」は3県とも震災前水準に回復しており、連動して「有効求職者数」も改善している。これが地域の消費を押し上げたと推察する。

「人々の活動状況」指数を構成する個別指標の状況

課題は生産面にある。製造業の生産活動を表す「鉱工業生産指数」、そして沿岸部の主力産業である水産業の活況度を示す「水揚量」ともに、依然として震災前水準を満たしていない。さらに、東北にあった大手生産拠点の移転や閉鎖、さらには福島第一原発事故の影響で福島県では近海漁業が再開できておらず、その先行きはいまだ不透明と言わざるを得ない。つまり、一見回復しつつある消費動向は公共投資による一時的な雇用に支えられており、生産活動が支える割合はまだまだ低いと言える。

NIRAは、復興予算で行われた事業に対する評価の重要性を唱える。また評価の観点として斉藤徹史主任は「予算の消化率など「事業が実施されたか」ではなく、「事業の目的が果たされたのか」「効果があったのか」というアウトカムを重視している。」という。まちおこしや人材育成など、事業によっては効果を測りづらいものもあるが、たとえば地域住民の満足度調査など踏み込んだ評価を行うことで、次年度予算の効率的配分と執行につながる可能性も高い。事業の適正な評価が、地域の総合的な復興につながることを期待したい。

記事=斎藤麻紀子

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