林業とエネルギーの明日を考える 岩手県住田町の挑戦【前編】

東日本大震災は、沿岸部にあった木材加工・流通施設の津波浸水など、主に東北3県の林業・木材産業にも大きな被害をもたらした。一方、原発事故によるエネルギー問題への感心の高まりも受け、木質バイオマスを中心としたエネルギー供給体制の構築への動きが高まっている。林業を基幹産業に据え、震災後は木材を利用した仮設住宅を建設、木質バイオマスの活用も進める岩手県住田町の取り組みを追った。

需要が頭打ちの林業と木質バイオマス活用への取り組み

 岩手県住田町は町面積の約9割にあたる3万ヘクタールが森林で、豊富な森林資源を誇る。人口約6千人の地域経済は、林業を中心に回っているという。

三陸木材高次加工行動組合の中川代表理事

 「林業をとりまく産業は裾野が広く、雇用効果は極めて高い」

 そう語るのは、地元産業を50年以上育て続けた三陸木材高次加工協同組合の代表理事・中川信夫さんだ。

 森林から木を伐採し、工場で製材した木を集成材工場で加工する。その後プレカット工場で必要な大きさや形に裁断した建材を、住宅メーカーや工務店等に出荷する。いくつもの過程を経て産業が形成されるため、その規模は最終売上の5倍にも及ぶという。

 この一大産業を地元で確立すべく、住田町は昭和57年に第3セクターとして住宅メーカーを設立。さらにプレカット工場、集積材工場、製材工場を順次設立し、川上から川下までの循環体制を築いた。

 しかし日本の木材需要は1973年をピークに減少傾向にある一方、大型インフラを必要とする装置産業である林業は、安定経営のために一定規模の需要を必要とする。そのうえ、海外からの輸入木材によりコスト競争は激化。「生産性向上やコスト削減の経営努力により、利益を創出している」と前出の中川さんが語る背景には、震災前からの厳しい業界環境が見て取れる。

 こうした中で国が推し進めているのが、森林資源をエネルギーに代える取組みだ。間伐や工場で生まれる残材や切粉、バークと呼ばれる木皮などの木質バイオマスをボイラーで燃やす等して熱や発電に活用する。例えば経済産業省はバイオマス発電、バイオマス熱利用等の導入を行う事業者に対する補助制度を行っており、林野庁も昨年から「地域材供給倍増事業」として木質バイオマスの利用拡大の取り組みを支援している。今年7月には再生エネルギー買取法も成立し、木質バイオマス発電に注目が集まってきている。

 事業者、NPO、行政に話を聞いた。

1.事業者 未活用木材を集めてエネルギー資源へ
「資源も風潮もある。活用先の拡大を」

有限会社松田林業 取締役 松田昇さん

 住田町で木材の伐採業を営んでいる松田林業。住田町は内陸部にあるため津波被害は免れたものの、その事業には大きな影響を受けた。岩手県では、県内素材生産量のうち約3割が合板用材として宮古市・大船渡市の合板工場3カ所に供給されていたが、これらの工場が津波被害により操業を停止、合板用材の流通が滞った。また製材工場については71カ所が被災、11年12月現在で31か所の製材工場が操業を停止している(平成23年度版「森林・林業白書」より)。松田林業の取引先も陸前高田などの沿岸部にあり、多くが再建を断念したことから売上は3〜4割ダウン。「時間が経つにつれ、ボディーブローのようにきいてきた」と取締役の松田昇さんは言う。

 そこで注目したのが、木質バイオマスだ。「震災後のエネルギークライシスで腹をくくりました」と語る松田さんは、未活用の森林資源を集めて木質バイオマス発電へ活用する取り組みを開始した。

 木材はその品質により、主に家の柱などに使われるA材、ベニヤや集成材などに加工されるB材、端材となるC、D材に分けられる。一般的に収入につながらず、文字通り「山に捨てられたまま」だったC、D材を山から町中へ運び、エネルギー源とするために乾燥・保管をしている。

 課題は、取引先の確保だ。これら木材を木屑に砕いて大型発電所やボイラー向きの燃料を生成することができるが、たとえば発電所をひとつ建設するにも数十億円単位のコストがかかることもあり、簡単に取引先は見つからないのだという。

 「木質エネルギービジネスは、震災前から取り組みたいと思っていたけれど、風潮がなかった。今は風潮は生まれたのに発電所などの大型取引先はまだない。まずはボイラーを保有する老人ホームやホテルなど、小規模事業所から開拓していこうと考えています」と松田さん。

 木質バイオマス用の木材は、既に600トンも確保している。現在含水率を下げるための乾燥行程で、秋から冬には出荷できるという。供給先も見えない中、町内6社あるという伐採業者でこの事業に取り組み始めたのは現状で松田林業のみ。林業の革新となる一歩を踏み出せるか。

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