放射能と共に生きる 福島の農業【後編】

汚染農地でも汚染されていない農産物は生産できる

 そもそも、福島の農業を再生するためには、何が必要なのだろうか。

 福島における農業の再生を支援する福島大学うつくしまふくしま未来支援センターの小松知未特任助教によると、再生に向けた取り組みには4つのプロセスがある。①放射能による汚染実態の把握、②農地ごとの汚染実態に応じた生産段階での対応、③出荷前検査の拡充、④消費者に安全性を伝え風評被害を防ぐ消費段階での対応だ。

 小松助教は、4つのプロセスのなかでも特に①汚染実態の把握と②生産段階での対応が、本質的な問題解決に不可欠と指摘する。

実は、福島のように汚染物質が放射性セシウムの場合、農地の汚染実態を正確に把握し、適切な作物を生産することで、放射性物質をほとんど含まない作物を生産することが可能だ。これは、植物にはセシウムを土壌からよく吸い上げるものとそうでないものがあるという科学的知見によるものだ。汚染が比較的少ない農地では、きゅうりやキャベツなど、セシウムをあまり土壌から吸い上げない作物を生産するとよい。また、汚染された米も、酒として加工すれば市場に出すことは可能だという。セシウムは沸点が非常に高く、アルコール醸造の過程で蒸留すると、ほぼ100%除去できるからだ。

 先に挙げた小国地区の例をとると、放射線量マップの作成は①汚染実態の把握に、試験栽培は②生産段階での対応に、それぞれ該当する。地道に汚染状況を調査し、生産段階から放射能と闘う体制が整いつつある。

 科学的知見を活かした生産段階での対応は、放射能に汚染された農地での営農を強力に後押しする。もちろん、消費者を放射能から守るために入念な検査は必要だ。しかし、汚染状況を把握しないままに自由な作付けを行って出荷前検査を拡充しても、放射性物質を含む作物は生産されつづけるのだ。実態を把握し農地に適した対応をとることは、いわば「生産者を守る取り組み」。農家が自信を持って自身が生産した産品を市場に出荷できる体制が整わない限り、福島の農業が産業として再生することはありえない。

適切な対応と、正しい理解で再生の後押しを

 出荷前の検査だけが取り沙汰されることが多い福島県産の農産物だが、それだけでは、福島の農業が抱える問題の本質的な解決にはなりえない。科学的知見を利活用して放射性物質を含まない農産物を生産すること、農業を営む地域住民の組織的な努力、そして、消費者の放射能や放射性物質に対する正しい理解が噛み合って初めて、福島の農業は産業として成立することができる。

 小松助教は「津波と決定的に違う点は、放射能の影響は30年続くところ。だから、放射能とどう付き合っていくか、よく考えなくてはならない」と話す。農業生産者、全国の消費者が共に放射能を管理していくことは、農地が汚染されてしまった今、使命といっても過言ではない。

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