震災前より 医療レベル向上へ 医療者派遣で生まれる価値

震災前より 医療レベル向上へ被災3県沿岸部では、現在、被災した医療機関(病院、医科・歯科診療所)の約9割が診療を再開した。しかし、甚大な被害を受けた機関は数多く、例えば施設が全壊した岩手県立大槌病院や宮城県石巻市立雄勝病院などは仮設診療所で外来のみ再開し、入院機能再開は未定だ。また福島県第一原発の警戒区域内の病院はすべて休止、近隣の病院も医師や看護師の退職・休職によって、休止または病床数を縮小して再開せざるを得ない状況。福島県双葉郡8町村・南相馬市などの相双医療圏については、他の地域よりも著しく再開が遅れている。

沿岸部地域は震災前から医師不足の課題を抱えていたが、震災後の規模・機能縮小により、自宅での医療提供や仮設団地への訪問診療などへのニーズが高まり、地元医療者にはさらなる負担がかかっている。震災前の医療機能レベルに回復するためには、今後も医療従事者の派遣等による継続した支援が欠かせない。

震災後、医療従事者派遣として主に2つの組織が活動した。「災害医療派遣チーム(DMAT)」と「日本医師会災害医療チーム(JMAT)」だ。DMATは災害発生後48時間以内の災害急性期への対応で主な役割を果たし、JMATはDMATの活動後、現地の状況にあわせて救護所・避難所における医療等を受け持ち、病院・診療所の日常診療への支援を行った。そして被災地の医療機関が自立するまでの中長期的支援として現在JMATⅡが活動を続けている。また、多くの医療支援ボランティア団体も継続して被災地に足を運び支援活動を行なっている。

医療従事者派遣が、被災地医療機関の負担軽減だけでなく、地域医療体制の見直しに貢献した事例もある。宮城県気仙沼市で発足した「気仙沼巡回療養支援隊(JRS)」がその一つだ。

震災後、被災を免れた地域に暮らす医療や介護が必要な高齢者が、交通網の寸断によって通院ができず重度の褥瘡(床ずれ)を発症させていた。そこで地元病院の医師と、JMATより派遣された在宅医療を専門とする医師らが中心となってJRSを立ち上げ、高まる在宅医療のニーズ調査や訪問診療を5ヶ月ほど実施した。結果、JRSの活動に接した地元の病院・診療所の医師や住民に、在宅医療への理解が深まり、JRS撤退後も地域ぐるみで在宅医療の充実のための体制づくりを進めている。

大きな被害を受けた地域医療が、県内外から派遣された医療者との協働によって、震災前よりも充実した医療レベルを築く。これは被災地の地域医療復興の大きな進歩というだけでなく、日本全国の多くの医療過疎地域にとっても、貴重な見本となっていくことだろう。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です