子どもたちに体操着を。 薬剤師の想いを目に見える形にした「ハートプロジェクト」

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岩手県・宮城県で26店舗を運営。地域に根付いた「医療コーディネーター薬局」を目指しています。5つの小学校の新入生へ体操着を贈る“ハートプロジェクト”は、震災半年後の2011年9月に始まりました。社員がデザインしたオリジナルのマグカップとタオルを販売し、平成28年3月末時点までに388人の生徒へ体操着を贈っています。(写真左:つくし薬局 顧問 千田 恭治さん。右:原 典子さん)

震災時、薬剤師としてのプロ意識が身体を動かした

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「どんな場面でもとことん人の役に立とうとする。スタッフのその姿勢には頭が下がります」と千田さん。

つくし薬局は、地域に根付いた薬局として、岩手・宮城で26店舗を展開しています。震災では、当時20あった店舗のうち、4つが全壊、7つが半壊。「もうおしまいかな、と思いました」と語るのは、顧問の千田恭治さんです。

しかし、つくし薬局の社員である薬剤師たちは、震災の一週間後にはもう動き始めていました。避難所へ出向き、薬の相談等の薬局活動を行っていたのです。「自分たちも被災しているのに、それよりも『助けたい』という気持ちが勝ったのでしょう。私はおろおろするばかりだったのですが、つくし薬局のスタッフはすごい、と思わされました」

1週間後には避難所で薬に関する相談を受け付けるようになっていました。薬を飲まなければならないのに、何という薬だったかわからない、という人がほとんど。一人一人の声に耳を傾け、調剤と投薬を続けていきました。

全国からの支援に何か恩返しを

震災後まもなく、全国からの支援が始まりました。支援物資や薬がどんどん届くようになり、薬局としての機能を取り戻すまでは思ったほど時間がかからなかったといいます。

そうして初期の慌ただしさが一段落ついた頃、社内から声が上がり始めました。「助けられっぱなしでいいのだろうか?」「応援された分、何かで返したい」というものです。そこで立ち上げたのが、“ハートプロジェクト”でした。千田さんは、このプロジェクトの代表を務めています。

プロジェクトは、「小学校1年生になる子どもたちに体操着を贈る」という内容に決まりました。「震災の影響を一番受けて、一番我慢しているのは子どもではないか、と思ったのです。何か子どもたちに贈りたい、ということで体操着に決まりました」。学校指定の体操着は、継続した復興支援につなげる意味も込めて、地元の業者の方にお願いすることにしました。

一人一人のハートを一つにして、被災地に届ける。このデザインにはそんな気持ちが詰まっています。

一人一人のハートを一つにして、被災地に届ける。このデザインにはそんな気持ちが詰まっています。

こうしてプロジェクトが動き出したのは、震災からわずか半年後の9月のことでした。

デザインも、イベントも、すべて自分たちで

資金を集めるため、オリジナルのマグカップとタオルを販売することにしました。販売額のちょうど半分が体操着になります。社内公募で決まったキャッチフレーズは、「いつも一緒。ずっと一緒。」ハートがあしらわれたデザインも、社員がつくったものです。

ハートに詰まったたくさんの花のうちの一つは、一人の薬剤師を表しています。彼女は震災後、今に至るまで、行方不明のままです。彼女を想う気持ち、そして復興への願い…。このマグカップには、そんな一人一人の想いが込められています。

毎年3月に、小学校で社員から保護者へ体操着を手渡しするセレモニーを行っています。

毎年3月に、小学校で社員から保護者へ体操着を手渡しするセレモニーを行っています。

薬局での店頭販売のほか、色々な地域のコンサートや地元のマラソン大会などのイベントに参加して支援を訴えました。「イベントボランティアもすべて社員たちで行っています。メンバーは各地の店舗に所属しているので、日ごろの打ち合わせなどは電話やメールなどを使い、仕事が終わった後に準備を行います。イベントには休日の日曜日・祝日を使って活動しています。社員たちの志の高さには頭が下がります」と千田さんは語ります。

こうした活動の甲斐あって、活動を始めて6カ月となる2012年3月、5つの小学校合わせて79人の新1年生に体操着を贈ることができました。

「10年間」の支援を目指して

2012年3月から毎年欠かさず80人前後の子どもたちに体操着を贈り続け、現在までの総数は388人。薬局に来る患者さんからお礼を言われたこともあれば、社員の子どもが体操着を受け取ったこともあるといいます。

少しずつ復興が進んできたとはいえ、まだまだ町は元の姿を取り戻してはいません。目標の10年まで、ハートプロジェクトは続きます。

少しずつ復興が進んできたとはいえ、まだまだ町は元の姿を取り戻してはいません。目標の10年まで、ハートプロジェクトは続きます。

プロジェクトは6年目を迎えています。年数を重ねるごとに、寄付が集まりづらくなっているのは事実です。ただ、どんな逆風の中でも、社員たちは前向きな気持ちを持ち続けています。逆に、ますますボランティアの気持ちが育ってきているとさえ千田さんは感じています。「毎年12月になると、まだ学校も人数をはっきり把握していないうちから『来年4月の入学生は何人ですか?』と社員から聞かれるのです。『体操着』という目に見える目標があるので、モチベーションが保てるのかもしれませんね」社員たちの想いが風化することはありません。

ハートプロジェクトは、「10年続けよう」という志を持って始まりました。自分たちの住む、愛する町を元の姿に戻したい――。その一心で、つくし薬局は今年も体操着を贈るために尽力しています。

インターネットでもマグカップの購入をすることができます。子どもたちへの支援は、下記のリンクからどうぞ。
http://www.294ph.com/heartproject/

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岩手県上閉伊郡大槌町末広町6番40号
URL:http://www.294ph.com/heartproject/