地域産業いかに再建?巨大コミュニティのマネジメント術

[新しい東北]

被災地を単に元の状態に復旧するのではなく、復興を契機に人口減少・高齢化・産業の空洞化などの課題を解決し、他地域のモデルとなることを目指す復興庁の「新しい東北」事業。その先導モデル事例をご紹介します。

テーマ:コミュニティづくり
地域:福島県いわき市豊間地区
取り組み主体:ふるさと豊間復興協議会、NPO法人美しい街住まい倶楽部
事業名:600戸のコミュニティと産業の再生:合意形成と実証実験の推進
背景:
家業の継承が難しく、地域産業が衰退の危機に。
いわき市豊間区には51の隣組で構成される10の町会があり、震災前より相互扶助的な生活が営まれていた。沿岸、遠洋漁業、ウニやアワビの採集など漁業が盛んで、海水浴やサーフィンなどの海浜レジャーに訪れる人を対象とした民宿、飲食店も多かった。しかし、後継者不足などで家業継続が困難な家は多く、震災後は海浜の利用再開の見通しが立たないことから、地域において新たな産業、特産品の創出が必要だった。
取り組みのポイント:
●住民の意見を集約する「協議会」を設立
●地域ぐるみ産業化へまちづくり会社を設立
●外部専門家と連携して継続的なワークショップを開催

津波により、644戸のうち483戸が全壊する大きな被害を受けた福島県いわき市豊間地区。全戸が加入する区・町会の自治力の高さなどにより災害公営住宅へのスムーズな入居を実現したこの町で、地域一丸の産業再建の取り組みが進んでいる。

震災前のコミュニティを災害公営住宅でも維持

震災前より自治力の高かった豊間地区では、競技かいを通じてコミュニティ単位の住宅移転を実現した

震災前より自治力の高かった豊間地区では、競技かいを通じてコミュニティ単位の住宅移転を実現した

地域産業再生の取り組みが進んでいるこの地区のベースとして、「地域のつながり×専門家グループ」という構造がある。震災後、市が提案したまちづくり案に、集団での高台移転など被災者の希望が盛り込まれていないことに苦慮した豊間区は、震災直後からガレキ撤去の支援していた群馬県前橋市の市民団体に紹介された、千葉県船橋市でコミュニティ形成を重視した街づくりを行う「NPO法人美しい街住まい倶楽部」のアドバイスを受けて住民による復興計画作りを自ら行った。
住民側も、地域の意見を集約し、行政に対する窓口となる「ふるさと豊間復興協議会」(以下、協議会)を設立し、復興計画案について市との調整を進めた。翌年、協議会、美しい街住まい倶楽部、大学教授や建築士らによる支援グループ、それといわき市の建築士会メンバーが連携し、公営住宅と生活産業を考える計12回のワークショップを開催した。のべ300人を越す住民が「若い世代、子どもが戻れる街を創る」方策について協議を繰り返し、2013年1月には活動の方向性を示す「豊間 復興まちづくり宣言」をまとめている。
被災地においては、住宅移転に伴いコミュニティが分断するという課題があったが、頻繁なワークショップ、広報誌「ふるさと豊間だより」(月刊)発行、協議会役員が車で地区住民の借り住まいを訪問する「移動連絡所」での情報交換などを通して、コミュニティのつながりを維持してきた。災害公営住宅も、震災前の町会単位に基づくグループでの申し込みが奏功してスムーズに入居が決まり、2014年11月末までに192戸が入居。3年半ぶりに「地元の団地に地域単位で帰還」する目的を達成した。

まちづくり会社が家業を地域産業へ発展させる

こうして元々のコミュニティを維持して地元に戻ることを前提に、協議会はもうひとつの課題である産業再生に向けて、2013年から本格的に動き出した。1、2月の4回の住民ワークショップを経て、3月には震災前の事業者約50社による産業再生検討会議を協議会内に設置した。しかし事業再開の意向確認調査をしたところ、区画整理後のエリアで自力再建を希望したのは2社であり、高齢を理由に廃業を考える事業者が多く、共同での参画希望者も数社しかないことが明らかになった。そこで、個々の家業再生を諦め、地域で連携し助け合う仕組みをつくるため、まちづくり会社の設立を検討することとなった。

例えば、地域内に産業再生の拠点エリアを設定。共同加工所や共同販売所、飲食店などの産業・交流施設をつくる計画であるが、その開設は土地区画整理完了後の2017年となる。それまでの間、買い物利便性の確保のため、災害公営住宅の近くに仮設商店街を開設することとした。2014年12月下旬のオープン予定で、一度は再建をあきらめた震災前からの事業者4店舗が、家業を発展させるかたちで入居する。周辺地域との連携による地場野菜や地場魚の販売、郷土料理の提供、トレーラーハウスでの宿泊を試行する。将来的には、拠点エリアで、直売所や体験型加工所のある道の駅やB&B(ベッドアンドブレックファースト)民宿など、観光客の来訪にも対応できる施設に拡充整備する方針だ。

特産品をバージョンアップして起爆剤に

特産品づくりの切り札は、かーちゃんの力。婦人会メンバーが伝統の味の商品化へチャレンジ。

特産品づくりの切り札は、かーちゃんの力。婦人会メンバーが伝統の味の商品化へチャレンジ。

さらに、産業再生のキーとなる特産品を作るための動きも始まっている。協議会や美しい街住まい倶楽部が中心となり、住民ワークショップや道の駅の先進例視察などを実施。これらを通して、「小さな経済の集積が地域を元気にする」「一人ではできなくても、つながればできる」という思いを共有したことから、地域の女性たち、「かーちゃんの力」に着目した取り組みが始まった。

専門家や大学生なども参加するワークショップが地域の推進力となっている

専門家や大学生なども参加するワークショップが地域の推進力となっている

豊間区は地元で採れるウニやアワビが食卓に上がり、秋刀魚を佃煮、みりん干し、酢漬けなどの保存食として利用するなど、民宿や一般家庭で地元食材がさまざまなバリエーションで食されていた。そこで、民宿や飲食店で培った調理技術を生かし、伝統の味である「秋刀魚のポーポー焼き」(秋刀魚をつみれ状にして焼いたもの)をバージョンアップして起爆剤にしようと、婦人会メンバーはボランティアでたびたび訪れている福島大学の学生と共に試作ワークショップを開催した。小判形に焼く従来スタイルを、食べ歩きできるよう串揚げにするなどのバリエーションで商品化が進んでいる。さらに、ウニ入り茶わん蒸し、あさりご飯などを組み合わせたお弁当など、「かーちゃんの力」をフル活用したメニューがどんどん広がっている。
震災前のつながりを維持した「安心感のある地域」、そこに受け継いできた地元食材、技術。ここにワークショップを活用しながら外部の知恵が加わることで、家業が「地域の財産」に発展していく。豊間地区は、そんなステップを確実に歩んでいる。

記事提供:復興庁「新しい東北」