町中を子どもたちが大暴れ。”遊び”がつなぐ地域の絆

被災地を単に元の状態に復旧するのではなく、復興を契機に人口減少・高齢化・産業の空洞化などの課題を解決し、他地域のモデルとなることを目指す復興庁の「新しい東北」事業。その先導モデル事例をご紹介します。

テーマ:コミュニティづくり
地域:宮城県仙台市・岩沼市
取り組み主体:一般社団法人日本公園緑地協会、NPO法人冒険あそび場-せんだい・みやぎネットワーク
事業名:どもの健やかな成長を育み、地域をつなぐ遊び場づくり
背景:
地域が分断され、子どもがのびのびと遊べる場所が少ない。
多くの公園や学校が仮設住宅として利用されるなどで閉鎖され、子どもたちの遊び場が失われてしまった。仙台市若林区で行ったアンケートでは、約3割の住民が震災後に子どもの外遊びが減ったと回答。住民の多くが外遊びの大切さを認識する一方で、子どもの声を「騒音」と感じる住民や、共働きで子どもを外に連れ出す余裕のない家庭もある。子育て世代だけでなく、子どもを見守る地域の機能回復が求められている。
取り組みのポイント:
●「公園」という場がないところに「遊び」のソフトを提供
●子ども以外の他世代、住民ボランティアにも波及効果
●仮設や復興住宅のコミュニティ形成にも寄与

心のケアを含め、子どもたちの健やかな成長には遊び場が欠かせない。子どもの場づくりから大人同士のネットワークも生まれ、地域の復興にもつながっている。

”プレーリーダー”がつくる巡回型の遊び場

冒険あそび場-せんだい・みやぎネットワークは震災前から、仙台市若林区の海沿いにある「海岸公園冒険広場」の指定管理者として、子どもの成長に欠かせない「遊び」の拠点を提供し、年間延べ17〜18万人が利用していた。しかし震災で冒険広場は長期休園し、再開は2018年とまだまだ先だ。そこで、それまでの経験を活かして巡回型の遊び場づくりを始めた。

プレイリーダーが素材を提供すると、子どもたちは自由にそれぞれ遊び出す

プレイリーダーが素材を提供すると、子どもたちは自由にそれぞれ遊び出す

車体をカラフルにペイントしたクルマに遊び道具を積み、小学校の校庭、仮設住宅の敷地内、小さな公園など、主に若林区の9カ所に、「プレーリーダー」と呼ばれるスタッフが週1回〜月1回程度出向いて、のびのびと遊べる機会を提供している。決められたプログラムに一斉に参加してもらうのではなく、スタッフが提供するのはあくまで遊びの「素材」だ。かなづちなどの工作道具、ロープ、チョークなどがあれば、子どもたちはそれぞれ工夫して遊びをつくる。ビニール袋を凧に見立てて凧揚げをしたり、将棋に興じる子どももいる。よほどの悪天候でなければ雨天決行。ブルーシートで即席の屋根をつくるのも、子どもたちにとってはちょっとした冒険だ。

子どもの居場所をあらかじめ定められた「公園」だけに限定するのではなく、生活空間の中で近隣住民の目に留まる場を設けることで、大人が他人の子どもにも自然に声をかけ、地域全体で子どもの成長を見守る風景が戻る兆しを見せている。それにつれて、震災後のストレスを抱える大人の顔色を伺うことの多かった子どもにも、無邪気な子どもらしい笑顔が戻ってきた。遊び場の確保が心のケアにもつながっている。

他世代の住民をつなぎ、仮設・復興住宅のコミュニティ形成に寄与

子どもの遊び場が、大人も惹きつける地域コミュニティの場となる

子どもの遊び場が、大人も惹きつける地域コミュニティの場となる

仙台のような都市部の場合、仮設住宅の住民は、市内外の地域から移り住んでいるため、ヨコのつながりが希薄という課題がある。敷地内に「遊び場」を設けても、当初は周辺住民の子どもが遊びに来ることは少なかったが、この巡回型の遊び場づくりの結果、やがて仮設住宅内外の子どもたちが集まるようになってきた。 2014年9月からは、復興公営住宅(荒井東)でもプログラムが始まった。4月から本格入居が始まったが、半年経ってようやく自治会が設立されたという状況のなか、子どもの場づくりを通して、大人同士が顔の見える関係を築けることを視野に入れている。

11月に実施した際には、他地区でも行ってきた大人向けの「縁側倶楽部」も同時開催。外遊びに興じる子どもの気配を感じながら、集会場では大人がフラワーアレンジメントを楽しみ、交流する機会を設けた。子どもを見守る地域全体の活性化につなげたいとの思いから、親世代、さらに高齢者まで、他世代に対する働きかけを行っている。

住民ボランティアによる多様なかかわりが生まれている

活動の場は仙台市以外にも広がっている。岩沼市の社会福祉協議会や仮設住宅の入居者を包括的に支援する「里の杜サポートセンター」と連携しながら実施している「里の杜あそび場」では、「子どもの遊び場にかかわる大人のためのボランティア養成講座」を実施。参加者の中には、自宅敷地の市民農園を遊び場に解放する人も現れた。
その後、有志が集まり住民ボランティアのグループ「いわぬまあそび場の会」が発足し、2014年4月から毎月ミーティングを重ねている。高齢のメンバーからは当初、「若いプレーリーダーのように、子どもたちと走り回ったりはできない」と躊躇する声もあったが、高齢者は自ら身体を動かさなくても旗振り役を務めればいいなど、地域住民の世代や生活スタイルに応じた多様なかかわり方について協議している。
こうした現場密着型の活動を地道に重ねる一方、2014年度は域外への広報活動にも注力している。全国の公園緑地事業を推進する日本公園緑地協会のネットワークを生かし、仙台および周辺における取り組みから、「健やかな子どもの成長を育む身近な遊び場のあり方」モデル像を構築するため、6名の有識者にヒアリングを実施。現場の取り組みとヒアリングで得られた知見を元に、外遊びの普及啓発用パンフレットを作成して、全国の自治体などに配布。遊び場づくりが人づくり・地域づくりにつながることをアピールしていく。

記事提供:復興庁「新しい東北」