自立した産業の創出を目指し地域づくりのメンバーとして求められる支援を行う

[日本財団 WORK FOR 東北]

「WORK FOR 東北」は、被災地の自治体等への民間企業による社員派遣、個人による就業を支援し、人材の面から復興を後押しするプロジェクトです。
復興の現場に社員を派遣している企業、および、赴任した方々のインタビューを紹介します。

head

2012年以降、被災した4自治体で、専門のICT領域を超え地域のニーズに合わせた業務を行う4人の出向社員の様子と、企業としての手応えを伺いました。

復興支援室が現地で自治体のニーズを学ぶ

震災発生後から復興支援活動や被災自治体に対するICT関連のサービスによる支援提案を行っていたKDDI株式会社は2012年7月に社長直属の組織として「復興支援室」を立ち上げた。
それまでの支援活動を通じて、被災地の復興を後押しするには、復旧復興関連業務に人手が割かれている自治体の「自立支援」こそが必要と判断したからだ。ICT関連業務にこだわらず「自治体が望むことを支援する」という方向性に舵を切り、復興支援室が自治体に人材を派遣し継続的な支援を行うことにした。
震災から1年という比較的早い時期に人材面からの支援にフォーカスし、長期的に複数の社員を現地に派遣することは、大きな決断だったといえるだろう。

派遣する人材は通常の出向時のように社内推薦ではなく、一般公募で選考。厳しい現地の状況、加えて行政という慣れない枠組みでの活動となるため、「地域や復興への思いの強さ」が大きく影響すると考えたからだ。「東北で生活した経験があること、コンサルタント業務やソリューションの領域で仕事ができるなどの条件を設けたにも関わらず、30代から50代までの志の高い25人もの人が手を挙げたことに、支援に向けた熱い意欲が感じられた。中でもモチベーションの高い4人を選びました」と菅野総支社長は言う。

4人は2012年10月の岩手県釜石市を皮切りに、宮城県の気仙沼市、東松島市、仙台市へと順次出向配属された。釜石市では公聴広報課に所属し、市保有の光ファイバー回線の保守・管理や町内情報システムの管理を担当。気仙沼市では秘書広報課において、膨大な情報を処理しきれなくなっていたホームページやフェイスブックのカテゴリー見直しや掲載情報の整理などを実施。東松島市では復興政策部において、市民、市役所、商工会、企業をつないで産業活性化を図り、女性の手仕事を地域産業に育て上げる活動などを手がけている。復興が先行している仙台市役所では、平時のエネルギー効率化と非常時にも電力供給が可能となる「省エネ・新エネプロジェクト」を担当している。

「受け入れていただく上では、自治体職員の気持ちを理解し、配属された部署の仕事を全うする姿勢が大事。しかし職員の皆さんも忙しいので、仕事を自分で見つけ出すことや、人間関係を築いていくのは難しい場面もあるはず」と、社員を気づかう阿部室長。定期的に現地を訪問して出向社員との面談を行うなど、フォロー体制を整えている。

東北での知見を、全国の共通課題解決に生かす

東北への人材派遣の意義について話す菅野総支社長

東北への人材派遣の意義について話す菅野総支社長

4人は毎月1回、KDDIの仙台拠点に集まり、自治体が抱える課題や情報を共有し、解決策について議論を重ねている。当初は「現地ニーズをつかむ難しさがある。信頼され、本音を聞き、ニーズを引き出すには、地道な努力が必要」といった声が聞かれた。
しかし時間の経過とともに、自治体や住民が抱える課題をリアルに把握する機会を得ている様子に、菅野総支社長は手応えを感じている。「出向中の社員たちは仮設住宅などで暮らしながら、地域に入り込んで身近に接して一緒に汗をかくことで、若手ながら物事の捉え方や話し振りが変化しています。一般的な若手社員よりも成長が早いのでは。社内では得られない経験を通して、やりがいを感じていることは想定外のメリット。社内で横断的な取り組みをする時も、彼らは自信を持って取り組み、臨場感のあるマネジメントができるはずです」

出向社員は、シニア向けタブレット体験教室、市民や自治体職員のICTリテラシー向上などにも取り組んでおり、東松島市ではICTで“武装”した女性たちと手仕事を地域産業に育て上げる活動も着実に進めている。
自治体との関係性が深まる中、釜石市では自治体からの情報提供、市民間での情報共有などを進める「釜石市情報配信基盤整備事業」が総務省の補助金交付と市議会の承認を受け、KDDIも構築事業に参画している。自治体業務を本業のICT技術で支える企画が実現した例として、社内でも注目されている。

「目指すゴールは、現地で自立した産業を創出する仕組みを作り上げること。被災地の皆さんが再び自分の足で歩けるよう、地域作りのメンバーとして、当社が持つICTや関連するノウハウの提供を行いながら、具体的な後押しを続けていきたい」と菅野総支社長。出向社員の活動が、本業であるICTの事業にもつながる可能性も感じているという。
阿部室長も「出向を経験した社員にはいずれ自治体の窓口的な役割を担わせたいと考えている。培った経験や知見は弊社の信頼感となり、一層スムーズな自治体との連携が見込める。更に自治体の内情を理解した上で進めるCSR活動は、単なる支援を超えた新しい事業創成にも繋がるのでは」と、今後の展開に期待を寄せる。

被災地が抱える人口減少や少子高齢化などは、将来の日本においてどの地域でも抱える社会的課題といえる。KDDIでは、継続的に複数自治体における出向社員の経験を集めることで、一自治体との関係性だけでは見えにくい、地域課題の解決に結びつく「共通項」が見えてくるのではないか、と考えている。
東北の4自治体を通して見えた課題などに対する知見は、地方創生、地域活性化のニーズが高まる中で、今後、全国各地で生かされることが期待される。

(取材日:2015年1月27日)

記事提供:日本財団「WORK FOR 東北」