大きな目標を掲げて、気仙沼に新しい仕事と人の流れを創りだす

[みちのく仕事]

震災以降立ち上がった東北の団体のリーダーの元に、若手経営人材「右腕」を3年間で約200人派遣してきた「右腕派遣プログラム」。東北で活躍する「右腕」とリーダーのインタビューを紹介します。

津波で全ての工場が被災した気仙沼の八葉水産。創業50年という歴史は、気仙沼の中では比較的新しい部類に入る。代表取締役社長の清水敏也さんは、祖父の代に、和歌山から気仙沼に移住したという。だからだろうか。清水さんとお話をしていると、気仙沼への愛情とともに、どこか俯瞰的な視点をいつも感じる。その清水さんが今回仕掛ける「リアスフードを食卓に」という新しいプロジェクトについて、お話を伺った。

-震災後、気仙沼の中でもいち早く工場を再開されましたが、いまどのくらいまで回復されたのでしょうか?

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津波で工場が全て流されてしまって、一度は社員を全員解雇せざるを得なかったです。そこから工場を一つずつ建て直して、今は社員100人をちょっと超えましたかね。震災前は170~180人でしたから、まだまだこれからですね。

-今回、組合(気仙沼水産食品事業協同組合)の4社からスタートして、新しい商品開発・販路開拓のプラットフォームづくりを始められますが、そもそもなぜこのプロジェクトを始めようと思われたのですか?

この組合は、もともと震災前からあった組合で、共同での原材料の仕入れや研修生の受入などをやっていました。今回震災があって、それぞれの会社も被災をしたわけだけど、ただ元に戻すだけでなく、新しい商品開発や他の地域への販路開拓をやってみたいという思いが、この4社の中にありました。

そのためには、マーケティング含めたスキルを持った人たちと、新しくチームを作っていかなければならない。気仙沼以外の人たちの力も借りていかなければならない。多くの人たちの力を借りるためには、大きな風呂敷があった方がいい。そう思って、「リアスフードを食卓に」という、このプロジェクトを立ち上げました。

お陰様で、飲料品メーカーさんから初期投資にかかる費用の支援をいただくことも決定し、これから商品開発を進めていくところです。料理人との商品開発や、地元や首都圏の高校生たちによるフードグランプリでの商品開発なども、この夏にかけて実施します。秋には試食会などを様々な企業とコラボして実施し、今年の11月には店頭での販売開始を目指しています。

-中長期的な売上目標が50億円と、確かに大きな目標ですよね。

最初は気仙沼の組合4社でやるけど、これを釜石、大船渡、南三陸まで含めた横軸の連携をつくりながら、将来的には50億円を目指したい。業務筋やスーパーマーケットなどの中から500億円ぐらいのマーケットを掴みにいって、その10%をリアスの食材にしていきたいんですよね。

つながりを広げていかないと、地域は衰退していきます。地域が外につながる道というか、例えば販路にしても、それが一本ではダメ。道路いっぱいないとダメ。道がいっぱいできることで、町に人がやってきます。仕事と人と町は一体だと思っていて、仕事というか事業が広がっていくと、そこに関わっていく人が広がっていき、町にとってもプラスになっていきます。

道の出口はマーケット。まずここを掴んでいかないと、プロダクトは作っていけない。出口がない中でモノづくりだけやると、どこかに滞留し続けてしまう。それをどこからはじめるか、そこが大切です。

-たしかに。東北に限らず、モノづくりはやったけど売り先に困っているという話は、全国どこでも耳にしますね。

そう。だから、あえて最初から50億円という目標を掲げました。金額を出したことで、みなさん、そのぐらいの規模感で考えているんだなということで、集まってくる人も変わってきました。今回は色々な道を作っていくチャンスだと思っています。支援いただいているメーカーさんのルートもあるし、都内のホテルや多くの企業様との連携の話も具体的に進んでいます。これだけの規模感を出したから、皆さん手を上げてくれました。実際に、これだけの規模感をコーディネートしていくのは、結構大変なことなんですけどね。

-都内の料理人、高校生、ホテル、飲料品メーカー、食品メーカー、ホテルなど、本当に多様な方々をコーディネートしていかないといけませんね。とてもやりがいがある一方でご苦労も多いと思うのですが、何が清水さんのエネルギーなのでしょうか?

あまり頑張ってきてないんですよね、俺(笑)。みんなと一緒に仕事をするのが楽しいんですよ。ただそれだけ。それをもっと作って、みんなの生活が豊かになれば、それが嬉しい。気仙沼がよくならなければならないって、よく言うけど、自分たちや一緒にやっている人たちが楽しくやっていなければ意味がないんです。

うちの原点は「人づくり」なんです。55年前、祖父の代に和歌山から気仙沼にやってきて、うちの親父もおふくろも、何もないところからリヤカー一台で今の会社をスタートしました。裸一貫でなぜできたのか。それは、人に対する優しさというか、人と人とのつながりを育ててきた。だからやって来られたと思っています。

学校で勉強するだけでなく、企業も学習の場、人が育つ場だと思っています。そうした人が育つ場をどんどん創ることが大事です。単にうちの会社が大きくなるだけでなくて、小さな企業がたくさん生まれて、そこで10人20人の雇用を作って、育つ機会が増えていく。もしかしたらそうした企業が大きくなって、僕たちの仕事を助けてくれるかも知れない。そういったネットワークが広がっていくことがこの町にとって大事だと思っています。

-震災直後には、GANBAARE(ガンバーレ)という会社も立ち上げられ、地元の女性たちが地元の帆前掛けを素材にした商品開発のビジネスにも取り組まれてきましたね。

女性がお仕事できる受け皿というか、そういうものを作っていかないと、気仙沼の明日はないと思っています。GANBAAREもその一つだけど、今回のプロジェクトもそうした機会の一つにしていきたいと思っています。

最近、このプロジェクトのために一人女性を採用しました。あと2~3人ぐらいは女性を入れたいと思っています。そうして、新しいチームを作っていきたい。今回のプロジェクトは、今までイカの塩辛を作ってきた自分たちがやるんではなく、新しく関わってくれる人たちで作っていきたいと思っています。

最終的にはこのチームの中から新しい会社が立ち上がっていくといいなと思います。気仙沼、大船渡、釜石、南三陸とリアスでつながって、新しいビジネスを作りたい。気仙沼には、色々と利用できる資源があります。うちの会社もそう。それを活用して、自分も社会に貢献したい、雇用を作っていきたい。そんな人と出会えると嬉しいです。一緒にやってみて楽しいと思えるのが大事。

-今回、右腕の募集という形で、このチームの仲間を増やそうとお考えですが、なぜ地域の外から人材を募ろうと思われたのですか?

右腕として活動していた小林峻さんと

右腕として活動していた小林峻さんと

この地域にとっての、人材雇用の玄関を広げたいと思っています。今までは入ってくる人も、入り方も決まっていた。そうではなく、裏口から入る人もいれば、表から入る人もいる。誰かの紹介でくる人もいるかも知れない。受け皿としての柔軟性がこれからの我々には必要になってくると思うんです。

55年前、気仙沼の人たちは自分たち家族を受け入れてくれました。それはなぜだったのか。働き手が必要な中で、祖父は船に乗ることができました。漁に出てお金を稼ぎ、それから、秋刀魚の開きやみりん干しをやり始めて、それを山形や秋田に持っていった。それが加工の最初です。僕らの小さい頃の仕事は、秋刀魚にごまを撒いたり、干場の隣が遊び場だったたから、そこで働いている人たちの子供たちの面倒を見ることでした。こうやって少しずつ地域の中での役割を広げていきました。役割を担えば受け入れてもらえる。気仙沼はそういう風土もあるんです。

-清水さんのご家族も最初はよそ者だったわけですよね。そうした外からやってくる人材に期待したいことは何でしょうか?

我々だと頭が固まっているんです。答えはこうしようというのが、何となくイメージされてしまっている。手法が決まってきるというか、前の手法というか。違った形で広がりを持たせていくためには、新しさが必要です。

気仙沼にこだわってはいません。東京には東京のネットワーク、コネクションがある。こちらにもこちらのものがある。それをつなげて大きくしていく。メーカー、飲食店、ホテル。いまこうしたところとの関係が始まってきている。それらをタイムリーに進めていく必要があります。

-具体的な役割はどのようなイメージでしょうか?

つなぎ役というのかな。いわゆる。こちらの部分のモノづくりと、いまやろうとしているプロジェクトの中のコーディネーター。色々な部分で人とのつながりを作っていくような役割を担って欲しいと思っています。

高校生たちとのフードグランプリや、今後は料理人たちとの商品開発も始まっていきます。作った商品を試食会でモニタリングをしたり、今後の商品開発につなげていくためのデータ収集も必要になってきます。

スキルや経験は確かに大事です。でも、新しい取組みには人間性と情熱が第一ですね。流通で商品開発をするようなポジションの仕事ですが、その経験がなければダメだということはないです。一番大事なことは楽しくやること。一緒に仕事をしたいと思える人とやりたいですね。

ありがとうございました。清水さんとは震災直後から交流がはじまり、今回こうして、右腕派遣でご一緒できることが、私たちも楽しみです。

記事提供:みちのく仕事(NPO法人ETIC.)