[宮城県亘理町荒浜地区]新設商店街ににぎわいを生み出す商店主たちの底力

東北の各地で津波被害にあったまちの中心市街地計画が実現に向けて動き出している。その中には、商店街を核とするものも多い。
そんな中、2015年3月15日、宮城県亘理町に、新たな商店街が誕生した。他地域に比べても早く新設された商店街で、住民の集いの場となっている名物店舗を営む夫婦に話を聞いた。

佐藤さんと妻・ふき子さんの店には、商店主や地元住民が次々と訪れる

佐藤さんと妻・ふき子さんの店には、商店主や地元住民が続々と訪れる

飲食店、サーフショップなど8店舗が入居する、亘理町荒浜地区の「亘理町荒浜にぎわい回廊商店街(以下、「にぎわい回廊商店街」)」。この商店街は、行政やまちづくり会社ではなく、商店主による管理組合によって運営されている。2012年に亘理町からグループ補助金(「中小企業等グループ施設等復旧整備補助事業」)を活用した商店街の新設を提案された荒浜商店会を中心に、2年越しで計画を進めてきた。荒浜商店会会長で自転車店「サイクルショップサトウ」を営む佐藤敏さんは、「震災後、年齢も考えて商売を再開するのは諦めていたけど、商店会青年部がいち早く商売の再開に向けて動き出し、その情熱に打たれて荒浜でやろうと決心した。夜遅くまで書類を作ったりして大変だったけど、商店主同士が顔なじみだから、相談できるのがいい」という。
佐藤さんによれば、荒浜には昔から助け合う気風があり、住民が土地の買い上げにも協力的だったことが、早期のまちづくりに繋がっているという。また、商店会は震災以前から積極的に事業を行っており、震災直後は加入事業者に見舞金も出したという。求心力のある商店会の存在が、にぎわい回廊商店街の実現を後押ししたといえるだろう。

にぎわい回廊商店街の強みの一つは、周辺の施設や観光スポットと一体で地域の魅力をアピールができることだ。
徒歩数分の立地には、2014年10月に再開した町営の日帰り入浴施設「わたり温泉鳥の海」がある。海の見える温泉は東日本全体でも多くなく、震災前からの人気施設だ。テレビ番組で取り上げられたこともあり、再開後の1日の利用者目標500人に対し、最近では800人程が訪れるという。
以前は温泉の1階にあった産直施設「鳥の海ふれあい市場」が移転入居した水産センター「きずなぽーと“わたり”」も観光客に人気のスポット。目の前の荒浜漁港から水揚げされた魚は、パック詰めされて店頭に並んでも飛び跳ねてラップを破るほどくらい新鮮だと評判だ。

駐車場には平日でも次々と車が停められる

にぎわい回廊商店街の駐車場には平日でも次々と車が入ってくる

亘理には、はらこめし、ほっきめしといった海鮮を活かしたグルメ、さらに、いちごやりんごなどの果物など、季節ごとに食の魅力がある。また、春はいちご狩り、夏には潮干狩り、釣りやサーフィンといったアクティビティも楽しめる。そして何より、荒浜には美しい浜がある。
こうした地域の資産を活かしながら、それだけに甘んじることなく、「常にお客さんに関心を持ってもらえるように」と、佐藤さんらは集客のためのイベントを次々と打ち出している。
にぎわい回廊商店街オープンの際には「カレイフェスティバル」として、全長2mにもなるオヒョウガレイやマグロの解体ショーを実施。カレイフライの振る舞いも行い、3,000人以上の観光客が訪れた。今は、5月のゴールデンウイークに向けたイベントを企画中だ。そして、目指しているのは震災以前に開催されていた「わたりふるさと夏まつり」の復活。仙南最大規模の夏祭りで、仙台を中心に宮城県一帯から8万人が訪れるイベントだった。
こうした努力の甲斐もあり、にぎわい回廊商店街の客足は上々。荒浜地区の住民は4割程しか戻っていないが、4km圏内に住宅地があり、移住した住民が今でも立ち寄る。また、休日ともなれば、飲食店やイベント広場は観光客でごった返す。「もう商売はやめる」と言っていた事業主が、お客さんが集まっている様子をみて「にぎわい回廊商店街でやりたい」と言っているという。

67歳の佐藤さんは言う。「自転車屋はこの立地に向いた業態ではないけど、住民や元住民がお茶を飲んで話をする場所を提供したいから、ずっと続けたい。もうすぐ、海産物を加工したお土産の販売を始める予定です。近くには公園やサインクリングコースも整備されるから、レンタサイクルも始めようと考えています。楽しみながら、夢を持ってやりたいね」。
町の再興に取り組む商店主らの団結が、自ら楽しみながら、訪れる人を楽しませる原動力を生み出している。

文/畔柳理恵