東北のいまvol.18 福島市 協同型経営の牧場・ミネロファーム

7月下旬の朝6時。空は薄っすらと明るく、雨が白い糸を引くように降る中で、牧場・ミネロファームの朝が始まる。

牛舎から牛を順番にパーラー(搾乳施設)に移動させ、10頭ずつ2列に並べて筒状の搾乳機で乳をしぼる。裏の子牛牛舎では子牛への哺乳が始まり、牛が出払った牛舎の房では掃除と給餌の準備が進められる。緑深い、小高い山の中腹に牛の低い声が響き、土の薫りがわき立つ。

このミネロファームは、NPO法人FAR-Net(福島農業復興ネットワーク)が開いた牧場。ダノン社の支援を受け、2012年5月から準備を進め、2012年8月24日から酪農を開始した。今、飯舘村から2人、浪江町から2人の避難してきた酪農家が働いている。

場長の田中一正さんは、10年間飯舘村で酪農を営んできたが、震災により避難を余儀なくされた。避難先の山形県で牧場勤めをしている時に酪農組合から声がかかりミネロファームに参加。一連業務の立ち上げから関わっている。飼養頭数は7月中旬時点で149頭、うち搾乳しているのが128頭。この日は3人で酪農業務を進め、10時半ごろには終了。そして、夕方の6時から同じ流れをもう一回しする。

ミネロファームが目指すのは、福島の酪農の復興。震災と原発事故により76戸の酪農家が避難し、うち再開できたのは13戸。約1,600頭の乳牛が減少した。ミネロファームは、自社の運営を軌道に乗せ、被災した酪農家の雇用を生み出すのに加えて、後継者を育てる教育ファームとしての機能も重視している。「ハード面でだけ復興してもダメ。5年、10年を見すえてソフト面で、福島を支えていかないといけない。それには若い酪農家を増やし、その人が育つ環境を用意しないと」と田中さんは話す。

生き物を飼育する仕事に休みはないが、複数の酪農家による協同型の経営となれば、シフト制で休みを取ることができるようになる。たとえば、こういった運営ノウハウを伝えていくのも役割の一つ。他、牛乳の安全安心を担保するために輸入飼料のみを使い、県が週に1回行う放射性物質の検査でも、その他の自主検査でも常に「N/D(検出なし)」と良好な結果を指している。

「自分で決めた仕事ですから。納得いくところまではやりきりたい」と田中さん。最初45頭からスタートした牧場ももうすぐ1年を迎え、今、1日3,000キログラムの出荷乳量を達成している。休みのない仕事の中で、半年、1年と順調に育ててきた毎日を経ての今日があり、そしてこれから来るまた新たな日々を進んでの明日がある。ミネロファーム、彼ら酪農家は、新しい復興のレールを敷きながら進んでいく。

写真・文=岐部淳一郎

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です