東北のいまvol.22 自然と笑顔で健康寿命を長く「北原ライフサポートクリニック東松島」

vol22

 ドアの向こう側で楽しげな笑い声がもれ聞こえる。

 …地域公民館の一室。温かい光が差すこの部屋で、6人の参加者が身体を動かしていた。「では、頭の上に両手を伸ばして、片腕ずつ、背泳ぎするみたいに後ろに回しましょう」と前に立った若い男性がお手本を見せ、6人がそれに習う。雑談交じりの楽しげな身体の運動だ。

 参加者の一人から「最近、足がつりやすくて」と声があがると。「じゃあ、ちょっと足指とふくらはぎを見てみましょうか」とその男性は一人ひとりの足の具合を見始める。彼は、リハビリテーションの専門家・理学療法士の喜屋武寛昌さん。北原ライフサポートクリニック東松島のスタッフとして、この日、集団運動教室の講師を務めた。「加齢とともにと身体のバランスが少しずつ取れなくなってきます。よろけやすくなるわけですが、本来であれば反射的に先に足が出て身体を支えます。この反射が衰えると転んで、それがケガにつながってしまいます」。喜屋武さんは、参加者と顔を合わせ、身体を動かし、雑談の一声から身体のシグナルを聞くと、参加者に合ったメニューを組み立てた。

 北原ライフサポートクリニック東松島は、東京に本院を構える医療法人社団KNIが、去年の2012年12月1日にオープンしたクリニック。同院が八王子で実践する医療を軸とするまちづくりを評価した東松島市が要請し、それに応えた。「東松島みらいとし機構・HOPE」の組織メンバーとしても医療をツールにしたまちづくりを模索している最中だ。

 クリニックには現在、看護師と理学療法士が1名ずつ常駐し、リハビリテーション支援事業や訪問看護、訪問リハビリテーションなどの事業を行っている。本院からドクターが派遣される土曜日には診療も行う。

 多くの方は「病院とは病気を治してくれる場所」と思うわけだが、同院が考える医療は、治療し、薬の処方を出すだけの場所ではない。この日の集団運動教室のように、日常の運動を促すだけでも、高齢者のケガや病気のリスクを下げ、健康寿命を長くすることができる。東松島の豊かな自然の中でからだやこころのメンテナンスにつながるプログラムを行い、自己免疫力を高め、笑顔で健康に過ごせる時間を増やし健康をより継続させることも役割の一つと考えている。

 同院は、強い理念を持ち明確な目標を掲げて、長い1年を過ごした。常駐の医師を確保できず、本院から医師が派遣される土曜日にしか診察ができない状況が続くなどの課題を抱えながらも、看護師や理学療法士でも担える医療を実践してきた。現地スタッフの努力の結果、顔なじみの人と交わす言葉が少しずつ増えてきた。常駐スタッフの理学療法士の野澤雅美さんは、しばらく東京に戻り、東松島に帰って来た時、「急に東京に帰っちゃって…」と声をかけられた。自分のことを気に留めてくれていたのだと思えるちょっとした一言。その一言の芽生えた関係を嬉しくも思うとともに、期待に身が引き締まるのだ。

写真・文=岐部淳一郎

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