住民が語る福島のいま 対話の場「ポジティブカフェ」エリア・対象拡大へ

 原発事故の影響がいまなお残る福島県では、県外避難者4万7000人を含む約12万人が避難生活を送っている。そうした中、除染や放射線に関する住民の不安や疑問に応えるため、対話型の活動が平成25年度から行われてきた。

 「ポジティブカフェ」と呼ばれるこの取り組みは、福島県と環境省福島環境再生事務所が協働運営する「除染情報プラザ」が主催する。「福島で生活し続けて大丈夫なのか?」「子どもたちにどう伝えればいいのか?」など、さまざまな不安や疑問、立場によってわかれる意見を地域住民が率直に話し合い、自分たちで調べ、その経験を共有することをめざしている。

 2014年度は、現在の課題と解決の方向性を検討する準備会合の段階から、地域のNPOや住民などで対話を重ねてきた。ポジティブカフェで重視しているのは、生活者、とくに子どもや母親の視点から、放射線に関する情報をわかりやすく共有し、知見を高めること、さらに直接的なコミュニケーションを通して、生活上の不安を解消することだ。そこで、具体的に解決策を深めるサブテーマとして、内部被ばくに関する課題と対策を考える「食・農」、外部被ばくに関する「こども・はかる」の2本柱を設定。これまでサブテーマに分かれたワークショップなどを4回にわたり実施してきた。

左からゲストレポーターのなすびさん、医療法人相馬中央病院内科診療科長の越智小枝さん、一般社団法人ふくしま連携復興センター事務局長の山崎庸貴さん、詩人の和合亮一さん、福島大学うつくしまふくしま未来支援センター特任研究員の開沼博さん、特定非営利活動法人ビーンズふくしまの三浦恵美里さん、福島大学経済経営学類教授の小山良太さん、山形避難者母の会代表 中村美紀さん

左からゲストレポーターのなすびさん、医療法人相馬中央病院内科診療科長の越智小枝さん、一般社団法人ふくしま連携復興センター事務局長の山崎庸貴さん、詩人の和合亮一さん、福島大学うつくしまふくしま未来支援センター特任研究員の開沼博さん、特定非営利活動法人ビーンズふくしまの三浦恵美里さん、福島大学経済経営学類教授の小山良太さん、山形避難者母の会代表 中村美紀さん

 26年度のこうした取り組みの集大成として、福島市内で2月11日、「みんなでこれからを考える『ポジティブカフェ』」が開かれ、地域住民ら約100名が参加した。過去のワークショップの成果を広く伝え、プロジェクト参加者の思いや経験を、より多くの人と分かち合うために企画された。

 登壇者の一人、特定非営利活動法人ビーンズふくしまの三浦恵美里さんは去る1月、「こども・はかる」の活動の一環で、個人線量計を使って、日ごろの生活を続けながら丸5日間の行動記録と1分ごとの放射線量を記録した。「日常生活の行動範囲で、線量の高いところは避けて通ればいいことがわかり、何より自分で測ることで納得感が得られた」という。人によって放射線に対する不安の感じ方は違う。だからこそ、行政など他人任せにせず、住民自身で測ることに意味がある。

 「食・農」のサブテーマに参加していた中村美紀さんは、山形に避難した経緯から「山形避難者母の会」の代表を務める。自身はすでに福島に戻り、カフェの活動では2日間の食事に含まれる放射性物質を計測。心配になるような数値が出ないことを確認できた。だが、山形に避難している母親のなかには、福島県産の食材を避ける人が今もいるという。中村さんは「お母さんたちは放射線に対して無知だったことを悔やみ、福島に戻ろうか県外に留まろうか、みんな悩んでいる」と語る。共通するのは福島の本当の情報を知りたいという思いだ。それに応えるため、福島に戻った人から直接、生活の様子を丁寧に伝える活動を続けている。

 この日の登壇者の発言からは、まだ解決していない問題が山積するなかで、福島に残っている人、あるいは県外に避難している人の不安や迷いが感じられた。詩人であり福島県立本宮高校で教諭を務める和合亮一さんは、「実は何も解決していない」現実に対する悔しさを自身の詩に託し、福島の問題を日本全体、そして世界の問題と捉えて語り続けようと呼びかけた。

 除染情報プラザでは27年度、ポジティブカフェの活動エリアを、従来の中通りだけでなく浜通り(いわき・広野、相馬・南相馬)にも広げ、とくに高校生や大学生など、若い世代にも働きかけていきたいと考えている。震災から4年。福島から離れて暮らす人も含めて、いま一度、福島を自分事として捉え直したい。
文/小島和子