復興支援員の活動を“意味づける”3つのキーワード[まちづくり釜石流]

「釜援隊」の活動報告会

「釜援隊」の活動報告会

2月18日、『復興と地方創生のあいだ』というタイトルで「釜石リージョナルコーディネーターコーディネーター(通称:釜援隊)」の活動報告会を都内で開催しました。「80%ルール」「テーマ軸×地域軸によるチーム構成」「集合体としてのビジョン・ミッション」など、“釜石流”ともいえる独自のマネジメントスタイルで、市内NPOや復興まちづくりを担う人・団体とともに、コミュニティ活性や産業振興を推進してきた半官半民のコーディネーター集団「釜援隊」も発足からまもなく2年が経過します(関連記事)。

「釜援隊」の財源となっている総務省「復興支援員」制度を活用した、被災地における人的支援は300名を越えます。各地によって支援員の業務は異なりますが、仮設住宅における地域住民の交流の場づくりや、観光プログラムの作成・実施、地場企業の販路拡大など、その活動領域は多岐にわたります。震災から5年目を迎えるにあたり、復興支援員らが担ってきた役割を改めて振り返り、経済的に価値換算しにくい活動領域も含め、その成果を意味づけていくことが、被災地内外への説明責任を果たすとともに、受入地域と支援員双方が良質なコミュニケーションを継続していく上でますます重要になっていくでしょう。本稿では、復興支援員の活動を俯瞰的に見る際に役立つ「生活復興感」「政治的有効性感覚」「希望」という3つのキーワードを紹介します。

キーワード1「生活復興感」~どうしたら復興したと言えるのか~

図2 「阪神・淡路大震災からの生活復興2005-生活復興調査結果報告書-」より作成

図2 「阪神・淡路大震災からの生活復興2005-生活復興調査結果報告書-」より作成

1つめのキーワードは「生活復興感」です。釜石市では、昨年末に約1,300戸の建設を予定している災害公営住宅への入居者申し込みが完了し、復興事業における最優先課題であった住宅再建に一定の目途が立ちました。しかし、インフラ整備や住まいの再建を中心とする災害復旧に加え、震災前からの少子高齢化や産業空洞化が進展する三陸沿岸地域では、“どうしたら復興したと言えるのか”という難しい問いと向き合わなければなりません。

この問いを紐解く1つのヒントが、阪神・淡路大震災からの復興過程を「人々の意識」から分析した『兵庫県生活復興調査』にあります。図2は、1999年・2003年に神戸で開かれた市民ワークショップの中で、“生活再建を進めるにあたって重要だと思う要素”として挙がった意見をグラフにしたものです。1999年に回答の集中した「すまい(の再建)」が2003年には回答者がゼロとなり、「(人との)つながり」や「まち(との関わり)」といった要素を挙げる人の割合が増えています。

図3 「復興の教科書(http://fukko.org/)」より転載

図3 「復興の教科書(http://fukko.org/)」より転載

図3は、生活復興感(=人々の“復興した”という実感)に影響を及ぼす7つの要素の関係性をモデル化したもので、実線は正の関係(一方が高まると他方も高まる)、点線は負の関係(一方が高まると他方は低まる)を表しています。この図は、「生活復興感」を高めるには、「震災の影響度」を低下させる、「震災体験の評価」を高めるという2つの道筋があることを示しています。前者は「こころとからだ」「くらしむき」「すまい」という3つの要素で構成され、被災した店舗や住宅再建といった行政が中心となって進めていくハード面での復興と密接な関係があります。一方、後者は「人と人とのつながり」「まち(地域活動への参加)」「重要他者(自分の人生を肯定的にとらえ直すきっかけとなった人)との出会い」といった、市民・NPO・外部支援者など、より多くの主体によって構成されるソフト面の復興という要素を含んでいます。地域住民間で交流する場をつくる、地域住民と地域外の応援者との間で良質なコミュニケーションが生まれるコミュニティをつくる、といった復興支援員らの活動は、この文脈においてその意義を捉えることができるでしょう。

キーワード2「政治的有効性感覚」~まちをつくるのは誰か~

2つのキーワードは「政治的有効性感覚」です。これは“自分の行動がどれだけ政治や社会に影響を与えることができると思うか”という主観的な感覚を表すもので、市民による自発的な政治参加を前提とする民主主義の熟度を図る指標の1つとされてきました。分かりやすい事例でいえば、有効性感覚は選挙投票率と正の相関関係があります。

図4 「社会意識に関する世論調査(平成24年1月)」より作成

図4 「社会意識に関する世論調査(平成24年1月)」より作成

政治制度や歴史的背景が異なるため、一概に国際比較はできませんが、図4が示すように、日本人の政治的有効性感覚は一般的に高いとはいえません。政治の役割が“富の分配”から“負担の分配”へシフトしつつある日本社会において、主権者である市民一人ひとりの有効性感覚を高め、より多くの納得感の得られる意思決定を行う仕組みづくりは喫緊の課題といえるでしょう。
この考え方は国という単位ではなく、自治体やコミュニティという単位にも当てはまります。市民の有効性感覚を高める、つまり“自分たちが行動すれば、まちが変わる”と思える市民を増やすという発想は、行政と住民間におけるコミュニケーション改善を目的とする復興支援員の活動を見る1つの切り口となります。

たとえば、箱崎半島を拠点とするNPOの事務局運営や、漁業後継者育成に向けたプログラム開発をサポートする釜援隊の1人は、NPOが行政に提出する要望書の内容を事前に担当部署と調整しています。“空中戦”(パフォーマンスとしての要望活動)ではなく、所与の条件下で実現可能な選択肢を丁寧に議論する場をつくる。できること、できないことを整理し、NPOの役割を関係者間で再認識するといった、きめ細やかなコーディネート活動が物事を前に進め、地域に“やればできる”という前向きな空気を醸成します。
“citizen(市民)”の語源となった“citoyan(シトワイヤン)”は、もともとフランス・セーヌ川流域のシテ島で暮らす、自治活動の盛んな人々“cité(シテ)”から派生した言葉です。地域に散在する“やりたい”という気持ちを形にし、まちづくりに関わるキッカケを提供していくことは、どんな地域でも共通する復興支援員の大切なミッションの1つといえるでしょう。

キーワード3「希望」~希望はどこにあるのか~

最後のキーワードは「希望」です。釜石は「希望学」という新しい学問が生まれた地でもあります。2005年に東京大学社会科学研究所が“希望を社会科学する”というコンセプトで始めた「希望学プロジェクト」では、釜石関係者らを含む数多くのインタビューや意識調査から“希望”を下記のように定義しました。

“Hope is Wish for Something to Come True by Action”

「wish」「something」「come true」「action」という4つの要素で構成されるこの一節について、希望学プロジェクトリーダーの玄田有史氏は著書の中でこう述べています。

希望について、多くの仲間と研究をしてきましたが、最初は希望とは何なのか、よくわかりませんでした。それがいろいろ考えるうち、どうやら希望というのは、四つの柱から成り立っていることがわかってきました。その四つをこれから紹介します。
一つはウイッシュ(wish)、日本語にすれば「気持ち」とか「思い」「願い」と呼ばれるものです。オリンピックやワールドカップなどのスポーツで、決戦を前にした選手がよくこんなことを言います。「こうなったら、もう技術がどうのこうのということじゃない。最後は気持ちの問題。気持ちで勝つか、負けるかです」。この「気持ち」というのが、希望にはまず必要です。
二つ目の柱は、あなたによって大切な「何か」、英語でサムシング(something)です。将来、こうありたい、ああなってほしいという、何か具体的なことがある。その何かが、世界平和という人もいれば、毎日三回ご飯が食べられることという人もいる。でも、希望に大きいも小さいもない。重要なのは、何とかしたいという自分にとっての大切な「何か」を見定めることです。何でもいいから、なんとかなってほしいということは、だいたい何ともなりません。
三つ目の柱は、カム・トゥルー(come true)、「実現」です。ドリームズ・カム・トゥルーは「夢が実現する」という意味です。どうすれば、実現する方向に近づいていくのか。そのための道すじとか、踏むべき段取りを考えることです。たとえ実現がむずかしかったとしても、近づくことはできる。どうすれば望みがかなえられる可能性が高まるか。学習したり、情報を集めたりすることも大切です。
最後の四つ目の柱はアクション(action)、つまり「行動」です。どんなに目標を定めて、すばらしい作戦を立てたとしても、そのための行動をしなければ、希望をかなえることはできません。行動を起こすことは、ときに勇気が必要だったり、不安や苦しいこともあります。でも行動を起こさない限り、状況を変えることはできないんです。(注)

被災地に限らず、長期間にわたって経済活動が停滞し、人口減少・少子高齢化の進展する日本では、“昨日よりも生活や社会がよくなっていく”と実感することが難しくなっています。現代は、ただ待っているだけでは、誰にも希望が与えられるような時代ではないのかもしれません。希望学は、そんな時代を生きる私たちに、自身が大切にする何かを思い、実現に向けて行動を起こすことの大切さを教えてくれていますし、「wish」「something」「come true」「action」という4つの要素は復興支援員の活動を見つめ直すための示唆となるでしょう。

連載コラム「まちづくり釜石流」では企業連携や外部人材活用を推進する釜石の復興プロセスを共有し、人口減少時代のまちづくりの未来を綴ります。

文/石井 重成 釜石市復興推進本部事務局兼総合政策課 係長(官民連携推進担当)

【お知らせ】「釜援隊」では4期メンバーを若干名募集しています。
釜石には“支援する側”と“支援される側”を二分することなく、フラットな関係性を尊ぶ自由な風土があります。行政・企業・NPOをつなぐ地域コーディネーターとして、釜石の復興まちづくりや地方創生プロジェクトで一緒に汗を流しませんか。みなさまのご応募を心よりお待ちしております。
活動報告会配布資料:http://www.slideshare.net/kamaentai/20150218-4
エントリー方法:http://www.city.kamaishi.iwate.jp/index.cfm/7,33610,118,1,html

注 『希望のつくり方(玄田有史著)』p.38-39より引用