企業内社会起業を通して東北の課題解決へ 人材を育成し、企業のビジネスチャンスを拡大する研修が2期終了

東北の被災地域の課題解決を軸に、優れたビジネスチャンスを見い出し、事業アイディアを具体的事業へと発展させる企業内社会起業家(ソーシャルイントラプレナー)を育てる研修「新興事業@東北!」が熱を帯びている。1月中旬、東京都内での第2期の成果発表会が行われ、受講生5人が4ヶ月かけて考えた練り上げた事業計画を、熱い気持ちのこもった言葉でそれぞれプレゼンテーションした。

研修を受ける若手社員も派遣企業にもメリット

研修は、一般社団法人新興事業創出機構(JEBDA)が本年度から始めたもので、新規事業の立ち上げに多く関わるソーシャルイノベーション・ラボ(スカイライト コンサルティング株式会社)がが全面協力している。前提として、「被災地の課題は今後、日本各地で顕在化する社会問題と重なる」と考え、復興の途上にある被災地を「課題解決先進地」と捉えている。大企業の若手社員が被災地の課題を知り、自社のリソースを活用して課題解決に向けたソーシャルビジネスのプランを立案することで、社員を派遣する企業にとっては、組織横断の流れを作り出す原動力を得たり、自社事業と結びつく「優れたビジネスの種」を見つけられるメリットがある。実際、5月から3ヶ月開かれた第1期で発表されたビジネスプランを基にした2案が、会社のサポートを得て、事業提案に向けて発展しているという。

第2期の研修は10月、宮城県名取市、塩竈市、女川町などの被災地を2泊3日で巡って現状に触れ、地域で活動する起業家や団体と交流することからスタート。地域の課題を知り、東北の起業家の講義、グループでのセッションを通して課題解決に向けてビジネスアイディアを組み立ててきた。

成果発表会では、5人の受講生がまとめたアイディアを発表。IT企業の強みを生かし、ウェアラブル端末を装着することで健康寿命を延長させるアイディアや、自社が既に行っている地域の商店街と一体化したイベントに学生の参加を促して産商学連携を図ることで、地域の活性化を図るアイディアなどが披露された。

自身の経験を元に「自分ごと」として捉えたプレゼンに「共感賞」

「自分ごと」として地域の課題を捉え、「共感賞」に選ばれた亀田さんの発表

「自分ごと」として地域の課題を捉え、「共感賞」に選ばれた亀田さんの発表

プレゼンテーション後は、参加者が1票ずつ投票する「共感賞」が発表され、孤立しがちな子育て問題をコミュニティの中で共有し、ワークショップなどを通して世代間をつなぐ方策を考えたSCSK株式会社の亀田健弘さんが選ばれた。ここでキーとなったのは、地域の課題を「自分ごと」として捉えられているかどうか。審査員からは、自身の子育て中の経験と思いを元に、被災地と現代社会で共通する悩みをあぶり出し、本当にこの課題に取り組みたいという強い意志が高く評価された。「周りの人を取り込む力になるその強い意志を忘れないで」という言葉に対して、亀田さんは「ライフワークと位置づけて、やり切りたい」と、決意を語った。

また、研修全体を振り返っての決意表明では、「自社のポテンシャルを考える中で、社会環境を整え、生活者の暮らしに役立つ家具を製造する自社に誇りを持って入社した時の気持ちを思い出した」と、入社当初の熱い志と“自社愛”を改めて確認し、社業の伸展に寄与したいとの思いを語った参加者に、温かい拍手が送られる一幕も。

オブザーバー(左)からのアドバイスとエールを受け、参加者は今後もプランについて考え続ける意欲を強めていた

オブザーバー(左)からのアドバイスとエールを受け、参加者は今後もプランについて考え続ける意欲を強めていた

研修全体を通して、受講生の成長の過程を目にしてきたJEBDAの鷹野秀征代表は「自分がやりたいことだけを考えるのではなく、世の中に対する位置づけを考えることが必要。マクロな視点を意識しつつ、大きな大義、ビッグアジェンダを持って地域の課題に対峙してほしい」とエールを贈った。講師として招かれた一般社団法人MAKOTOの竹井智宏代表理事は「復興が進みつつある今ある課題は、震災後、解決できずに残っている課題。仙台を拠点に活動している自分たちも、常に走りながら考え、動いて、やり直す繰り返し。ぜひ、実際に足を動かして取り組みを続けてほしい」と、今後のアクションへの期待を語った。

2月末には、サポーター企業を含めた約30社が参加する交流会が開かれ、共感賞受賞者らがさらに練り上げた事業案をプレゼンテーションする。

文/小畑 智恵