宮城県気仙沼市 市長に聞く 人口減に立ち向かうまちづくりの未来図

地方都市ならではの新しいまちづくりを。ビジョンを語る菅原市長

地方都市ならではの新しいまちづくりを。ビジョンを語る菅原市長

震災から時間が経過し、東北各地の政策はハード中心の復旧事業から新しい町のあり方を模索する復興、新興事業へと移っている。こうした中、産業面を中心に積極的な施策を展開する宮城県気仙沼市。菅原茂・気仙沼市長に話を聞いた。

経営者育成を軸に取り組む魅力ある仕事づくり

現在、気仙沼市の人口は約6万7千人。毎年約800~900人の人口が減っている状況にあり、他市町村同様、人口減を見据えた政策が求められている。

菅原市長が注目するのは、昨年12月に市内の高校生を対象に実施したアンケート結果だ。6割近い学生が進学後も気仙沼市への帰郷、定住したいと答えている。そのために必要な要素として、1番に「職種の幅、給料」、2番に「娯楽施設、ショッピング」、3番に「交通網の整備」が挙げられている。「これが基本的には、政策の指針となります。まずは、市内に魅力的な仕事をつくることが第一です」と菅原市長は話す。

高度衛生処理魚市場や新造船施設の建設や、起業支援など、市が行ってきたさまざまな産業施策の中でも特徴的なのが、民間と連携した人材育成施策だ。経済同友会を後ろ盾に中央の民間大手企業が運営に関わる支援組織「東北未来創造イニシアティブ」が行う人材育成プログラム「経営未来塾」を既に2期開催、計35名の地域の企業経営者が参加した。

「意志を持ったリーダーを町の中になるべく多く作っていくことが、町に光をもたらす大きな要素になる。」と菅原市長。3期の募集も行われており、経営者育成の重要性を強調した。

1人の人口減を26人の交流人口で補う第二市民構想

もう1つ力を入れているのが、観光施策だ。観光庁が発表した旅行消費額の統計データによると、定住人口が1人減ることにより失う年間消費額は国内宿泊旅行者26人と同じと計算される。つまり経済効果の観点では、毎年2万6000人の宿泊観光客が増加すれば1000人の人口減もカバーすることができる。

市では2012年3月より1年間にわたって観光戦略会議を開催し、観光戦略提言を作成。水産と観光を融合した新しい観光戦略にのりだした。震災前に年間21万人だった宿泊者数について、今後3年で30万人、6年で39万人、10年後までには62万人という数値目標も立てた。

新たな施策として、外部から出向者を受入れ民間人材で構成する新組織「リアス観光創造プラットホーム」を発足。港町文化、海の幸、海で働く人たちとの交流、水産物の成分機能に着目した商品開発や震災遺構など気仙沼ならではの観光コンテンツ開発に取り組み、すでに「漁師カレンダー」の出版、「気仙沼じゃらん」発行などの成果を挙げている。2014年7月には海鮮市場「海の市」が3年4ヶ月ぶりに全面再開。水産業における物販・飲食の新しい6次産業化拠点であり、観光客誘致効果への期待も高い。

観光客に加え、長期滞在が見込める都会の高齢者もターゲットとしている。高水準の年金を受け取る彼らに第二の故郷として選ばれることで、大きな経済効果を生むという考えだ。将来的には災害公営住宅にも空きが出るため、これをI・Uターン者の住宅や長期滞在者の宿泊先として活用することもできる。これが気仙沼市の「第二市民構想」だ。図書館など文化施設や娯楽施設のブラッシュアップを行い、長期滞在者に選ばれる町をめざしている。

「ミニ東京、ミニ仙台を目指すだけが地域の生き方ではない。」と菅原市長は話す。水産と観光、市内と市外、官と民、さまざまな垣根を越えた取り組みが実を結んだ先に、本当の意味での創造的復興があるのだろう。