【インタビュー】立場を越える。~被災自治体との協働~

ビジョンを持った人ともっと連携したい

―今、復興の現場で、解を出しつつある個人や企業、NPOなどはありますか?

それが難しい問いなんですよね。地域はこの人が全部わかっている、みたいなことがなかなかないんです。すばらしい人たちはもちろんいますが、団体は持っていても、地域を押さえられているわけではない。話が団体単位になっていることが多くて、この地域の課題はこうで、と説明できない。ある地域で何かやりたいときは、まずこの人、という方が少ない、と感じています。

その少ない例で、RCFもお世話になっているのは、この3月まで浪江町役場で勤務されていて4月から福島県庁に戻られた玉川啓さんです。とても視野が広い方。地域のことももちろん深く語れますし、地域をこえたどの分野の話でも、即座に問題意識を答えて頂けます。ですから、浪江町のことに関しては、玉川さんと話をすれば何でも教えていただける存在なのです。玉川さんのように、中立的に地域を語れる方がもっといるといいなと思います。

―テーマ軸のほうはどうでしょうか?何かを大きく変えるのは無理だので、まずは個別の事業者を強くする、というのはよく見かけるけれど、そうやって点が線になりいずれ面になっていくと思いますか?

RCFにとって今後どう動くのかにつながってくるから大事な問いですね。個別を強くするのは大切だと思います。でも僕らは、個別の事業者がよくなればそれでいい、というところを超えたところを追求したいと思っています。例えばキリンさんとの水産加工業支援のプロジェクトを通じて、東北全体の水産加工業をどう強くしていくか、もっと根っこのところから働きかけることができる可能性があると思っています。

ただ、もちろん東北の水産加工のビジョン自体をRCFが作ることはできません。ビジョンを持つ方ともっと連携し、そこに行政や企業を繋げていきたいと考えているのです。でもなかなかビジョンを持った人と出会えない、というのがもどかしい。

水産加工に限らず、仮設住宅のあり方や、コミュニティ形成のあり方といったテーマについても、僕らはリソースやネットワークはあるのですから、ビジョンを持っている方と繋がりたい。「5年後はこうなるべきだから、RCFはこのように動きなさい」と言われる立場が外部者としては望ましいと思うのです。もっと利用してほしい。でも、リードする方が圧倒的に見当たらないのです。

少なくともRCFについては、この一年ぐらいの悪戦苦闘の中で、復興を進めるための回路が見えてきて、動き方や価値の出し方はわかりつつあります。そのために他地域や他テーマに活動の幅が広がりつつありますから、あと2-3年は役割を担えるんだろうな、という感じです。でもそれがゴールじゃない。今東北の地にいる人たちにリード役になって頂く必要がある。今の活動の一歩先に、もう少しやるべきことがあります。

自分のやっていることの延長で復興が実現するわけじゃない

―今後の展望はいかがですか?

悩んでいるわけではありません、解決の糸口をずっと探し続けています。RCFは今後の進み方も見えてきているけれど、でも自分のやっていることの延長で復興が実現するわけじゃない。担当範囲はしっかりとまわしながらも、周辺とどう連携するかを考えています。

結構みんなそういうことを考える時期みたいですね。今、2年経って、復興に携わるプレイヤーが絞られてきたから、残ったところは今後どうしようか、という感じ。「あれ、見渡すと人が減ってきたけど大丈夫?まだやめないよね?」と確認しあっているのかもしれない(笑)。

RCFのプロジェクトはどれもチャレンジングで面白い。一個一個の課題はそれなりに深くやれている。でも、それから引いて全体像を、と聞かれると難しいな、課題の整理ができていないな、と今日話して思いました。そのあたりを解剖していかないといけないですね。

復興関係者に一つお願いしたいのは、それぞれの立場で工程表を書いてほしい、ということです。それも、5年10年先を見通してほしい。もちろんそのままに事が進むことなんてありません。ですが、地域ごと、テーマごとの工程表が出揃う中で、僕たちは復興後の東北であり日本を見据えることができるように思うのです。そう考えてみると、始めるのは誰かとつながることでも誰かに期待を寄せることでもなく、まず一人一人の立場から未来を描くことなのかもしれませんね。(終)

【インタビュアー】
山崎繭加(やまざきまゆか):マッキンゼー・アンド・カンパニー、東京大学先端技術研究センターを経て、現在はハーバード・ビジネス・スクール(HBS)日本リサーチ・センターにて、主に日本の企業やビジネスリーダーについてのケーススタディの作成を行う。また東京大学のリーダーシッププログラムの運営にも関与。東京大学経済学部、ジョージタウン大学国際関係大学院卒業。

retz文/1975年京都府生まれ。一橋大学卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て独立。NPO・社会事業等に特化したコンサルティング会社を経営。東日本大震災後、RCF復興支援チームを設立し、情報分析や事業創造に取り組む。文部科学省教育復興支援員も兼務。共著に「ニッポンのジレンマ ぼくらの日本改造論」(朝日新聞出版)、『「統治」を創造する 新しい公共/オープンガバメント/リーク社会』(春秋社)。