【インタビュー】ミッションは黒字化。CSRを越えた復興支援事業を石巻から/ヤフー長谷川氏

―ヤフーは復興デパートメント(http://fukko-department.jp/)を始めとして、さまざまなかたちで震災復興に関わっていらっしゃいますね。

ヤフーが震災特設サイトを立ち上げたのは3月12日のことでしたが、実は震災当日から動きは始まっていました。地震直後からいろいろなサービスの担当者が集まり、インターネットの会社だからこそできることを考えていました。

著名人のチャリティーオークションを中心に復興支援への取り組みが始まって行きましたが、個人的には、やっていくうちにお客様の声そして現地の声を聞くことで、だんだんと取り組みのかたちが変わってきたような気がします。例えば、チャリティーオークションは、当初著名人の私物などをオークションにかけ、その売り上げを寄付する形をとっていました。しかし、個人のお客さまから自分もチャリティーとして商品を提供したいという声があがったのをきっかけに、著名人以外でも参加できる「みんなのチャリティー募金」が立ち上がりました。また、現在Yahoo! JAPANの復興支援事業の柱の一つとなっている「復興デパートメント」も、現地の人から「これからは産業やビジネスが必要」ということを聞いて実現したことです。

もともと自分が東北地方を好きだったこともあり、とても他人事とは思えず、考えるよりも先に体が動いていました。気が付いたら沢山の人たちと知り合い、ここにたどり着いていたという感じです。今年4月にCEOが変わったこともターニングポイントになりました。宮坂がCEOに就任して、ヤフーは新たに『課題解決エンジン』になる、というビジョンを掲げました。そして、現在の日本における大きな課題の一つである「復興支援」を専門的にやる部署、というものができたのです。

―それが復興支援室ということですね。具体的には、どういう部署なのですか?

簡単に言うと、我々の得意分野、すなわち、ITの力で復興という大きな課題解決に取り組む部署です。短期的な支援ではなく、継続した活動を行っていくために復興支援をCSRで終わらせず、事業として成り立たせることを目指しています。地元で持続可能な事業をつくる必要があるということは一般的に共通の認識になっています。そのためには、私たちがまず「復興デパートメント」をはじめとした復興支援の取り組みを事業として黒字化させて、「復興支援事業」としての成功事例をつくらなければならないと考えています。CEOの宮坂からも「ヤフーが黒字化できなかったら他の会社でもできない。日本企業における復興支援を背負って立つ気概でやってこい」と言われています。

そしてその実現に向けて、7月30日に「ヤフー石巻復興ベース」を開所します。まずは、より地域に密着することで、ここを文字通り課題解決の『拠点』にしたいのです。地元の人や外部から来た人が使えるコワーキングスペースとして整備するなど、たくさんの人たちと一緒にいろいろなことに挑戦して、結果を出していきたいと考えています。

―石巻からどのような事業を始める予定ですか?

まずは、ITリテラシーの向上、地元商品のブランディング、地域コミュニティの創造などを土台に、EC事業と情報発信の2本の柱を考えています。

EC事業では、大量生産大量消費モデルではなく、本当の意味で生産者と消費者をつなぎたいですね。まずは「インターネットで売るのと店で売るのとは違う」という意識を持ってもらって、そのうえで、インターネットでの新しい売り方を一緒に考えていきたいです。例えば、石巻には魚について熱く語る方がたくさんいらっしゃいます。そういう方々それぞれの「思い」と「知」を商品である魚と一緒に届けたいのです。これからは、単にECのプラットフォームを提供するだけでなく、生産者の方と一緒になってブランディング戦略や商品開発を練っていく必要があると考えています。ストーリーを伝えながら定期的に魚をお届けするサービスなどは、すぐにでもやりたいですね。

情報発信としては、まずは他の団体の情報発信を手伝いたいと考えています。実は、「ヤフー石巻復興ベース」は河北新報社の1階にあるので、河北新報社とも連携して何かできたらいいと思っています。WEBと新聞で何ができるのか、担当者とも毎日のように議論しています。オフィスは、先ほど述べたようにコワーキングスペースにして、外部から来た方が作業できる場として、また、地元住民の方たちと協働できる場として活用する予定です。そういったところからの情報収集や発信の仕組みも考えていきたいです。

―復興のゴールはどこにあるのでしょうか?

我々の部署は、復興支援の名のもとに、新しい事業をつくりだそうとしています。昨年3月10日の時点に「復旧」をするのではなく、持続可能な事業モデルをつくって「復興」させる。そして、その成功モデルを、日本全体の課題解決につなげていくことが、ひとつのゴールとなるのではないでしょうか。

長谷川琢也(はせがわたくや)
ヤフー株式会社復興支援室
ヤフー株式会社ECオペレーション本部部長を経て現職に。震災後、被災地の農産物や加工食品などをネットで販売する「復興デパートメント」等の立ち上げ等に従事、現在は石巻を拠点に支援活動を行っている。