他地域に学ぶvol.8 沖縄県伊江島【前編】

役場初の「よそ者」登用で加速した島の観光と商品開発。

本島からフェリーで30分の伊江島。タッチューの名で親しまれる島のシンボル、城山(ぐすくやま)が迎えてくれる。

本島からフェリーで30分の伊江島。タッチューの名で親しまれる島のシンボル、城山(ぐすくやま)が迎えてくれる。

 沖縄本島で人気の観光スポット「美ら海水族館」から海を望むと、三角帽子のような山を持つ島がよく見える。これが伊江島だ。本部(もとぶ)港からフェリーで30分。総面積約23km²、人口約4800人の決して大きくない島だが、新商品のソーダやラム酒が加わった土産物の売り上げは、過去8年で7千500万円増の、年間1億4千万円に。観光客数は約5万人増の年間13万8千人規模に成長。特に中高生の修学旅行を対象とした民泊事業は、年間約300校・5万人を受け入れる盛況で、県内外から注目を集めている。

 このような成長の立役者の一人が、島外から役場職員に採用された松本壮(つよし)さんだ。なかなか差別化が難しい沖縄の土産物や観光の競争の中にあって、どのように伊江島を盛り上げていったのか。成功ポイントを聞きに島を訪ねた。

島の景勝地、湧出(わじぃ)展望台からの眺め。波打ち際に真水の湧くポイントがあり、昔から島人の大切な水資源だった。ソーダもラムも、この湧水を利用している。

島の景勝地、湧出(わじぃ)展望台からの眺め。波打ち際に真水の湧くポイントがあり、昔から島人の大切な水資源だった。ソーダもラムも、この湧水を利用している。

 もともと福岡で広告営業の仕事をしていた松本壮さんは、2002年に当時の村長の判断で史上初めて役場に島外から一般公募で人材を募集した際に採用された、数少ない「よそ者」だ。

 着任当時、5月に100万輪のテッポウユリが咲く「ゆり祭り」などを中心に、観光集客は年約8万人。しかし島にとって収益の主役はあくまで一次産業で、観光業はプラスαという位置づけだった。松本さんは、過疎高齢化の流れの中で、伸びしろがあるのは観光だと役場内で訴えていった。

年5億円を生む民泊。うるるん体験が人気

 伊江島では03年から民泊事業を開始。特に1泊2日で中高生を農家などへ受け入れる、修学旅行の民泊プランに力を入れた。料金は1人9500円で、内7千円が受け入れ先の家に前払いで支払われる形だ。訪れた生徒たちは、受け入れ先の家業を手伝い、夜は星を見ながら「伊江島の両親」と語らい、涙を流して別れる。我が子のように遠慮なく叱り、愛情を込めて子供たちと向き合う島の人々の性質が活き、体験を通じて成長したという声や、受け入れ先を再訪する生徒も出るなどして、急速に人気が広がっていった。

脱ありがちの商品開発。ソーダとラムが誕生

ご当地ソーダ飲料「イエソーダ」。現在ドラゴンフルーツやシークヮーサーなど沖縄の原料にこだわった全4種を展開している。

ご当地ソーダ飲料「イエソーダ」。現在ドラゴンフルーツやシークヮーサーなど沖縄の原料にこだわった全4種を展開している。

 同時期に松本さんが着手したのは島の新商品開発だ。04年に第3セクターの株式会社伊江島物産センターが設立され、松本さんは役場の担当としてその運営に携わり、伊江島の知名度を上げることを第一目標として試行錯誤の日々を送った。

 そして07年に誕生したのが、湧出(わじぃ)と呼ばれる天然の湧水を使用したご当地飲料、「イエソーダ」だ。開発中はなかなか賛同が得られなかったが、発売後年間12万本を売り上げる大ヒットを得て、役場内の空気が変わっていった。松本さんは、開発の最初に「黒糖コーラ」が完成した時、「これで地元産のラムコークが飲みたいな」と思ったという。

島のサトウキビを活用した新商品、「イエラム サンタマリア」。樽で熟成させたゴールドと、ステンレス樽で貯蔵したクリスタルの2種。720ml・2500円、300ml・1400円。

島のサトウキビを活用した新商品、「イエラム サンタマリア」。樽で熟成させたゴールドと、ステンレス樽で貯蔵したクリスタルの2種。720ml・2500円、300ml・1400円。

 そんな折、チャンスが舞い込んだ。国とアサヒビールが島で行っていた、サトウキビからバイオエタノールを作る5年間の実証実験が終わり、本来なら解体するプラントを、好意で島に残してくれることになったのだ。このプラントはサトウキビを粉砕・発酵・蒸留できる施設で、少しの設備投資でラム酒の製造が可能だった。松本さんは、新規採用された製造責任者の知念さんと共に3年かけて準備をし、酒造免許を取得。ついに11年の夏、伊江島産サトウキビが原料のラム酒、「イエラム・サンタマリア」を誕生させた。

 名前に聖母マリアをつけたのは、江戸時代に伊江島のテッポウユリ=琉球ユリが海を渡り、欧米でキリスト教の行事に欠かせないイースターリリーとして定着したことから。「国内に留まらず世界に羽ばたくラムへ」という大きな希望が込められている。

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