[寄稿] 今こそ企業の力を東北に

現地を訪れ感覚をつかむ

NECネッツエスアイは2年に渡りボランティア派遣を継続している

NECネッツエスアイは2年に渡りボランティア派遣を継続している

 「湾内のプランクトンの量は限られています。自然の恵みを大切に、儲けより質の高い魚を生み出したい」 。東京でMBAを学ぶ学生の「もっと養殖の量を増やしては」という問いに対する、漁協職員からの回答だ。

 今年4月、グロービス経営大学院のスタディツアーを受け入れた。日本を含むアジア8カ国の学生10名に、同大学院仙台校の学生等がアテンドし、南三陸、女川町、塩釜、山元町ほかの事業者を見学、意見交換などを行った。学生は現地でしか得られない情報に触れ、復興の複雑さや困難さから多くの視点を得て、できることに打ち込む現地事業者の強い意志に、大いに刺激を受けたという。

 私は震災直後から現在まで、約2500名のボランティアを受け入れてきた。南三陸に来られた多くの方には、まず指定避難場所でありながら津波が到達した戸倉中学校のある丘に立ってもらう。シンプルに伝えたいのは、20メートルまで津波がとどいたという事実の「感覚」だ。多くの人は津波という災害に対する認識を新たにする。

 片付けられたが、何も新たに建っていない町の中心部。高台移転、復興計画、防潮堤論争、それぞれの課題に対する多種多様な意見。
その「実態」は、やはり現地で見て、聞いてみないと想像できない事だ。

研修でチェンジエージェントの育成も

同社新入社員の会議研修の様子

同社新入社員の会議研修の様子

 NECネッツエスアイは2011年の社員ボランティア派遣からスタートし、昨年からは南三陸町でのボランティア活動を新入社員研修の一環として取り入れた。新入社員は2日間のボランティア作業に加え、復旧に関わった先輩社員からの経験談や現地の語り部ストーリーを聞くなど、続けて関わっているからこその経験を得ている。今年の研修から、「良い復興とは何か」と題した会議研修も開始された。

 また同社は陸前高田市に「ひまわりハウス」というコミュニティハウスを運営しており、日々接している住民からの要望を、自社のビジネスに取り入れようと試みている。

 同社がここまでこだわる背景には、ビジネスを取り巻く環境が激変する中で、自ら社会課題に向き合いビジネスとして解決していかなければならないという危機感があるように感じられる。研修生たちには、新たなビジネスを創造する姿勢を持ち、社内に新たな風を起こす「チェンジエージェント」としての役割も期待されている。

 震災から2年2ヶ月が経過し、被災地の生活は一旦の落ち着きをみせている。長期視点での展望を描く用意もようやく整ってきた今こそ、復興の後押しとなる知識、技術を持った企業のような組織が訪問し、被災地の現状を学ぶのに適したタイミングではなかろうか。この春からは特に研修ニーズの高まりも感じる。現地で生の情報に接し、解決に結びつくような提案に繋げていってほしい。

 一方現地側では、課題を明確にし、訪問して来る企業、自治体、学校などの組織に伝える事ができるコンテンツにする努力が必要であろう。報道が減少し、外部に情報がとどきにくい今、研修という場を新たな機会と考えていきたい。

【プロフィール】厨勝義(くりや・かつよし)
工作機械メーカー、国際教育NPO(アメリカ)、DREAM GATEプロジェクトを経て翻訳事業会社を経営。震災後は南三陸町戸倉地区を拠点に復興支援活動を開始。起業家創出・育成支援、民間企業の力を活用した震災復興事業の企画などに注力。これまでに約2500名を超える企業社員ボランティア・研修受け入れを行った。

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