マイクロソフト 東北就労支援プロジェクト SROIで事業評価 社会的価値を貨幣換算 社会事業評価の新潮流となるか

日本マイクロソフトは、昨年より推進していた東北就労支援プロジェクト「東北UP」の成果を発表した。成果評価には、欧米で社会事業の効果測定に活用されているSROI(Social Return On Investment)を採用。1年間の付加価値は、投資額に対して約4・5倍の7千6百万円となった。

就労以外の効果も可視化

 東北UPは、被災3県においてNPOとの協働を通じてICTスキル講習および就労支援を行うプロジェクト。講習実施等の運営もNPOにゆだねる形で行われてきた。現在までに被災3県で17名の講師を地元NPOに養成し、のべ851人に対して就労支援講座を開催。求職者の就労率も45%となり、一定の成果を達成したかたちとなる。

 注目すべきは、マイクロソフトは本事業について、ビズデザイン株式会社によるSROIを用いた第三者評価を受けたことだ。SROIは欧米で開発された社会事業評価の手法で、計測が難しいとされる社会的便益についても貨幣価値に換算するもの。講座開催数や就労率といった数値化しやすい指標だけでなく、作業の生産性やキャリアへの意欲向上、人間関係の改善といった定性的な効果も貨幣価値換算するところが特徴だ。

 同事業においては、開始時点からグループインタビューなどを重ねアンケートを設計。ステークホルダー(受講者、地元NPO等の関係者)の事業による変化を調査することで、綿密な効果項目の洗い出しとその価値の数値化を実現した。「当初想定していなかった効果も確認できたことが大きな収穫」と本事業を担当したマイクロソフトの龍治玲奈(りゅうじれな)さんは話す。

SROI測定結果

就労よりもスキル向上に高い付加価値

 今回のSROI第三者評価の結果で、本事業の生み出した効果は7千6百万円となった。その内訳を見ると最も付加価値が大きかったのは「ITスキル向上による生産性の向上」となり、金額にすると2千万円を超える。SROIにおいては、事業による変化のうち社会的価値が認められるものを、「行政コストの削減」「相当の民間サービスを受けた際の費用」「受益者に生じた新たな生産活動額」などの観点から貨幣価値に換算する。

 この2千万円算出のロジックとしては、最後の「新たな生産活動額」の観点で、最低賃金に短縮される時間(3ヶ月間で設定)を乗じるというもの。他、就労効果は給与・報酬の金額(1年で設定し、事業の寄与度として33%を乗じている)、孤立解消はカウンセリング費用といった形で一つひとつ項目ごとに算出されている。

評価を元にマネジメントを改善

 事業効果の可視化に加え、SROIにはもう一つの効果がある。「CSR事業は独りよがりになってはならない。評価プロセスを通じて徹底的に議論することで、マネジメント改善効果が出てくる」(龍治さん)。例えば今回の評価結果として、コミュニティ形成の重要性が確認され、また連携先NPOのマネジメントについても視座を得ることができた。こうした結果を今後の施策に活かしていくことの価値は、企業の視点では事業効果の検証とならんで大きいだろう。

 未だ事例の少ない日本では7千6百万円、4・46倍という数字だけで議論するのは難しいだろう。ただし同様の手法が広がり、社会事業の効果が同じように数値化されると、結果、社会や資金提供社に対して説明責任を果たせる、といった効果は間違いなく大きなものだろう。

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