いわき市に「見せる課」誕生 危機感が生んだ「変わらなければ」という一体感

10月1日、福島県いわき市役所内に風評被害対策を目的とした「見せます!いわき情報局見せる課」(通称、見せる課)が誕生した。昨年10月にスタートした「いわき農作物見える化プロジェクト」の取り組みを、発展的に継続していくため設置したプロジェクトチームだ。

同プロジェクトは、消費者に向けて農産物、農地、水道、空間線量、定時降下物の検査結果を徹底して公開してきた。2年目となる今後は、水産物や観光まで対象の範囲を広げる。現場を見てもらおうと、農業の生産現場や放射性物質検査の様子を視察できるバスツアーも企画。その様子をドキュメンタリー調にまとめたテレビCMもウェブサイトで公開中だ。

「見せる課」のWebサイト。11月からは水産物情報の公開も開始した。

「見せる課」のWebサイト。11月からは水産物情報の公開も開始した。

見せる課という大胆な名前となった背景を「今までのやり方では課題解決できない。変わらなければという大きな危機感があった。やれることはすべてやる、という意識が役場内に生まれた」と同課の西丸課長は言う。震災直後の情報が入らない中で、農家のもとへ直接足を運び、いわき市の野菜が選んでもらえないという現状を把握。若い職員たちを抜擢して、震災翌月におこなった新橋でのキャンペーンを皮切りに取り組みを開始した。

同課の江尻主査は、1年を振り返って「良くも悪くもつつみ隠さず伝えてきたことで、消費者および生産者と、一定の信頼関係を築けたのでは」と言う。基準値を超えた野菜がひとつ出ると、他の野菜にも影響が出る。葛藤はあったが、「消費者も被害者。安全は押し売りではなく、一人ひとりが判断するもの。原発事故により、いわき産農作物への信頼が揺らいでしまったからこそ、愚直なまでに判断材料を提供し続けるしかない」と判断し、詳細な情報公開を継続。生産者にも理解を求め説明を繰り返し、一定の理解を得ることはできた。真剣に向き合う姿が三者間の距離を近づけることに繋がっている。

内部での信頼関係も同じ。4課1室を横断した組織の見せる課だが、やりづらさや軋轢はないと言う。同じ危機感の中で、今までの蓄積したノウハウを分かち合う一体感と、新しい試みを受け入れる土壌が築かれたことが大きい。

生産者は依然として厳しい状況にある。市が10月に同市の生産者に向け行ったアンケートによると、65%が不評被害は「深刻」と回答、農業収入の回復度も震災前の69%という結果となった。今後は、消費者や流通側から要望に応じた、モニタリングプロセスの動画発信や流通に目を向けたアクションを検討している。西丸課長は「これからは応援だけでは買ってもらえない。品質や味で勝負していかないといけない。やれることはまだまだ尽きない。」と決意を語ってくれた。

文/荒幡幸恵

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