ローカル線と被災地の復興[下] 地域にもたらす全体便益からローカル線の意義を考える

復興の象徴である子どもたちに笑顔を届けるために企画された「てをつな号」。多くのキャラクターが参加。

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「赤字路線を残す必要があるのか?」とは、ローカル線を語る上でしばしば耳にする言葉だ。単独収支で赤字だから廃線と短絡的に考えることは果たして正しいのか?ここで出てくるのが、鉄道が地域社会にもたらす便益を含めて検討する考え方だ。

では、地域社会に鉄道がもたらす便益とは何か?まず当然ながら、鉄道事業によって利用客にもたらされる輸送サービス自体がある。そして、それに地域が得る「観光振興」「地元商店の活性化」「交通弱者の足の確保」「道路混雑の緩和」「沿線・まちの一体感」「まちの魅力を対外に発信する広報的な側面」などの要素が加わる。その全体の便益が、維持に必要な費用を上回るのであれば残すに足るという判断ができるはずだ。大学や市民団体は、これらの費用便益を分析する指標を出している。たとえば、和歌山県の貴志川線の社会的便益は年間14・8億円(*1)、茨城県の日立電鉄は10年間で24億円の公的補助が必要になるものの社会的な便益は127億円(*2)と算出されている 。いずれも公的補助のおよそ5倍以上の効果が見込めるという試算だ。日立電鉄は現在廃線になっているが、貴志川線は再生後からの努力が実り、地域人口が減っていく中で輸送人員を増やすことに成功している。

当然この指標だけで存続・廃線が決まるわけでもない。前出の日立電鉄は、地域住民から強く継続を望まれたが、日立電鉄の強い意志と、日立市がそれを受け入れたことで廃線に至った。廃線時点で年間約140万人もの輸送人口を有する 、ローカル線としては好条件とも言える状況でありながらの廃線だった。市民の移動の代替案としてはバスの運行が前提として進められた。しかし、ふたを開けてみるとバスへの転換率は約30%(*3)に過ぎなかった。地域の公共交通の崩壊が一気に進んでしまう結果となった。

挑む三陸鉄道

都会である日立市は、自家用車という代替手段を選択できる人間が多かったためだが、これが、人口が少なく、高齢化率が高く、さらにリアス式で高低差が厳しく雪の積もる地域では、車への切り替えも難しいだろう。場合によっては、その地域を捨てざるを得ない状況に追い込まれる人も少なからず出るかもしれない。「沿線地域の復興のためには鉄道が必要です」と三陸鉄道の望月社長は言ったが、まさに地域の人たちが暮らしていくためには、ローカル線という公共交通があることは重要なファクターであると予想される。残すか否かの議論は既に終わり、存続が決まっている三陸鉄道だ。その存在が地域復興を力強く牽引し、今後の地域社会のあり方の一つの形を見せてくれることを期待し、応援したい。

挑む三陸鉄道

(*1) 和歌山県の大学、地元の市民団体が算出。廃線後バスへの転換率が46%の場合の試算。
(*2) 地元の市民団体算出
(*3)2006年4月2日の発行の茨城新聞より

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