宮城県気仙沼市「ピースネイチャーラボ」の挑戦に学ぶ【上】

地元×域外混合チームによる六次産業ビジネス

今年4月に産声を上げた気仙沼市のNPO「ピースネイチャーラボ」。牡蠣、ホタテなどの地元産品を燻製製品へ加工し販売する「森の漁(いさ)り火工房」を立ち上げ、六次産業化に取り組んでいる。産業復興のキーワードとして頻出する六次産業化だが、商品開発や販路展開において苦戦する声も多く聞く。ピースネイチャーラボはまだ設立直後で試作段階にありながら、域外の企業とのパートナーシップによる共同商品開発や販路開拓に成功している。その取り組みから六次産業化推進に向けたポイントを考察した。

<コンセプト設計> 一次産品と間伐材を活用し持続可能な地域社会の実現へ

震災により壊滅的な被害を受けた東北沿岸部。中でも地域の雇用を支えてきた基幹産業である水産加工業においては、農林水産省の報告書によると被災3県で752あった水産加工施設のうち8割を超える627の工場が被災した(うち84%の528が全壊)。雇用創出のために早期の工場再開が求められる一方、ちくわ、かまぼこなどの練り製品に代表される加工製品の生産量は震災前から衰退傾向にあり、産業再生においては新たな打ち手の必要性も指摘されてきた。

こうした中でピースネイチャーラボは、高付加価値型の産業モデルの創造へ向けて事業を開始した。軸とする地域資源を、地域の一次産品である「魚介類」と、里山保全のために活用が望まれる「間伐材」と設定。検討の結果、牡蠣やホタテなどを間伐材を利用したチップにより燻製にして製品化する事業アイディアに行き着いた。「コンセプトは『人と自然の循環』。自然の恵みである産品を人の手で加工し雇用を生みだしながら、同時に野放しになっていた里山の間伐を進め豊かな森をつくっていく。地元素材を活かしたビジネスで、自然と調和する持続可能な地域社会の実現に寄与したいです」。代表の松田憲さんは言う。

松田さんは元々国際NGOで国際協力活動を行っており、震災後は東北各地の現場で支援活動を続けてきた。昨年秋より「ポスト緊急フェーズ」における産業復興の必要性を感じていた中、気仙沼で環境保全活動等を行うNPO「森は海の恋人」副理事長の畠山信さん(現、ピースネイチャーラボ副理事長)と出会い、共にコンセプトを設計してきたという。

左からピースネイチャーラボプロダクトチームの森さん、畠山副代表、松田代表

 

<製品開発> 域外の協力者「バリューアップパートナー」とコラボレーション

コンセプトが固まった後、松田さんらはまず同業者の視察を行った。燻製品で著名な北海道の「南保留太郎商店」を訪れ生産方式や商品化について学んだ。またそれだけにとどまらず、燻炉の設計や製作についても協力をもらったという。ピースネイチャーラボでは域外の専門家とのコラボレーションを事業展開の中核に据えており、こうした協力者を「バリューアップパートナー」と呼んでいる。その第一号が南保留太郎商店となった。

北海道の「南保留太郎商店」に図面を見せてもらい、手作りした燻製炉

現在手作りの燻製炉3台で試作を重ねつつ、新たな製品アイディアやブランディングを様々なバリューアップパートナーと共に行っている。例えば、あるフレンチレストランから出た牡蠣の燻製をハーブとともにオリーブオイル漬けにしてパスタソースにするアイディアや、カフェでバゲットにはさんでサンドイッチとして提供するアイディアなども。レシピとセットにした販売も検討しているという。

「地域の産品をビジネス化するためには仮説、検証のプロセスが必要であり、それを行う『場』が今の東北には少ない。外部の専門家のノウハウやアイディアを感じられる学びと検証の場=ラボになれれば」と松田さんは言う。 震災で失われた多くの仕事場を創りだして行くにあたり、しがらみのない外部の新たな風を吹き込む価値は高いだろう。

試作品の牡蠣の燻製、チーズの燻製、 牡蠣のおこわ

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1件のコメント

  1. 蜂谷哲平 返信

    牡蠣の燻製を作るに当たって、牡蠣を洗ったりソミュール液に漬けたりしなければならないので加工所には保健所の食品衛生法による許可が必要になるのでしょうか。

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