福岡市・玄界島の 住民代表が導いた震災復興に学ぶ【上】

リーダーを投票で選出、全島民にアンケート、復興委員にユニフォーム……

「個人ではなく島のために」。合意形成と復興への推進力

玄界島

玄界島は、博多埠頭から市営渡船で30分の北西18キロメートルにある離島。島の周囲は4.4キロメートル、およそ700人・230世帯が暮らしていた。警察も消防署もなく、自動車も数台しかないこの島は、7年前の2005年3月に起きた福岡県西方沖地震(M7.0)により、全家屋の7割が全半壊する等の甚大な被害を受けた。しかしその後、3年という異例の早さで復興を遂げる。それを可能にしたものとは何か。玄界島が復興委員会を中心に取り組んだ、住民一体の合意形成・復興計画づくりの実態と成果を探りに、島を訪れた。

1.震災~直後 漁業への被害小。島と市の仮設に分かれて入居

警察も消防署もない島では、住民の防災・自衛が不可欠。海に出る漁師が多いので、女性消防団もある。

玄界島には平地が少なく、港のある東南側の緩斜面にへばりつくようにして、ほぼ全ての住宅が並んでいた。伝統的な石積み擁壁に挟まれた小路が特徴的で、震災では積み石が崩落し、家々が折り重なるように崩れたために被害が大きくなった。就業者の約半数が漁業従事者という島だが、地震による津波がなかったため、漁船・漁具は無事だった。ただし、岸壁や漁協施設には大きな被害があった。

島のほとんどが斜面のため、全島民を収容する規模の仮設住宅を島内に建設することができなかった。また保育園、小・中学校も被災し閉鎖したため、島と本土の福岡市内に半数ずつの仮設住宅を建設し、漁業に従事する父親は島の住宅に、母親と子供は学校のある市内の住宅にと、離ればなれの避難生活を送る世帯が多く生まれた。

漁師であり、昔から青年団長、消防団分団長として島に貢献し、震災直後も先頭に立って動いた漁協理事の一人、細江四男美(しおみ)さんは振り返る。「強く懸念したのは、市の住宅に移った特に若い世代が、24時間のコンビニが当たり前の便利な生活に慣れ、戻って来なくなることでした。それでは復興しても過疎化が進むだけです。行政任せではなく、全島民を巻き込んだ復興をできるだけ早く実現しなくてはと思いました」。

2.代表選出~合意形成「個人より島の将来」。連帯感を築いた島民総会

震災から1ヵ月半。仮設住宅での生活が落ち着いた頃、細江さんら漁協の理事を中心にまず取り掛かったのは、島の代表として復興を進める「玄界島復興対策検討委員会(以下復興委員会)」の委員選出だった。「普通に進めたら、力の強い漁協の意向に偏った復興になってしまう」とし、島民全員の投票で決めることに。立候補ではなく、島民が「この人にやってほしい」と思う名前を1人につき3名まで書いて投票し、得票順に13名が決定した。こうして選出された復興委員には、必然的に自信と使命感が生まれ、島民にも「自分たちで選んだ代表だ」という信頼感が生まれ、大きな推進力につながった。

復興委員会が主体となり、震災2ヵ月後には全島集会を開催。ここで早々に「個々の住宅の自力再建は不可能とし、行政による一体的な面整備を要望する」との意向を固めた。もちろん1つの案を選べば個人的に損を被る人が生まれ、反対者も出る。しかしこの住民内の利害対立の調整も、同じ島民である復興委員が中心になって行った。親族に同行を頼み、何度も反対者の家に通いながら「島の将来を優先して考えてくれ」と粘り強く説得した。

委員会の活動が活発化すると人手が足りなくなり、また13名の委員のほとんどが壮年男性に偏っていたため、青年団、女性部、PTAなど島内の7団体から各2名を出してもらい、この14名を加えた27名体制にした。島に戻るか、戸建希望か集合住宅希望かなど、島民の意向を調査するアンケートも、委員が各戸を回り、配布・回収・集計を行った。

玄界島が取った事業手法は「小規模住宅地区改良事業」で、被災した住宅と土地を全て行政が一旦買い取り、戸建住宅希望者は造成された土地を購入し住宅を建設、そうでない島民は、賃貸の県営・市営住宅に入居することとした。この事業手法(小規模住宅地区改良事業)は、国の要綱に基づく事業であり、都市計画決定等の手続きが不要であるため、強制力のある「都市計画事業」の手法に比べ早く進められる代わりに、島民全体の合意形成が必要な難しい事業であった。しかし、復興委員が島民と行政の橋渡し役となり、行政からの信頼も勝ち得ながら、島民の意向に沿った復興計画がつくられていった。もちろん復興委員のメンバーに、元々多くの知識があったわけではない。そこには市の職員が丁寧な説明をし、委員らが学び、島民に説明・説得できるだけの知識をつけたという、双方の努力があった。

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【特集】福岡市・玄界島の 住民代表が導いた震災復興に学ぶ(下)〜行政側の声〜

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