春は北から下りてくる?

見物客で賑わう三春の滝桜

見物客で賑わう三春の滝桜

厳しかった寒さの影響で、全国的に桜の開花が遅れた今年。福島県でも4月からようやく桜が咲き始めた。

もし、この時期に東北自動車道を北上する機会があれば、奇妙な光景を目にしたことだろう。福島県南部ではまだ桜がつぼみなのに、北に進むと桜が咲いているのだ。世間では「桜前線北上中」といわれるが、福島県では少々事情が異なる。

東北自動車道の通り道である「中通り」地域では、北部に位置する福島市周辺から桜の開花が始まり、次いで中部の二本松市や郡山市、最後に南部の白河市と、桜前線はまさに「南下」するのだ。実際に今年の桜の名所の見頃は福島市の花見山で4月21日。郡山市の開成山公園で24日。白河市の南湖公園では26日だった。

この現象は中通りの標高差が影響している。福島市は中通りの中でもっとも標高が低い海抜66mなのに対して、郡山市は245m、白河市は361mとだいぶ標高が高い。その分気温は下がり、桜の開花の時期は遅くなる。この現象は会津でも見られ、会津若松市で桜が満開になった後、猪苗代町や会津田島町で桜が咲き、尾瀬がある桧枝岐村では5月中旬から下旬が見ごろとなる。福島県の桜は、南下するだけではなく、およそ1ヶ月の長期に渡って多くの人々を楽しませてくれるのだ。

福島県は原発事故の影響で、自分の故郷の桜を見ることができない人が多い。「夜ノ森の桜並木」が桜の名所として有名であった富岡町の人々も避難生活が続いている。しかし幸運にも富岡町の仮設住宅が建てられた三春町には県内随一といわれる「三春の滝桜」がある。生命力溢れる滝桜の姿は、富岡町の人々に故郷の桜を思い起こさせ、明日を頑張る希望となったことだろう。昨年のこの時期は桜を眺める余裕などなかったが、今年の桜には、そういった力もあったのではないかと思われてならない。

文/福島観光ジャーナル・西名清蔵

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