東北復興における観光の役割を考える【後編】

被災地観光の特徴

被災地に生まれた「学び」という新たな観光スタイル

岩手県北観光が行うツアー

岩手県北観光が行うツアーでは、名物ガイドが自ら被災した体験と未来を語る

さまざまなキャンペーンで観光客を誘致する東北。中でも被害の大きかった沿岸地域を中心に進められているのが学びを特徴としたツアーだ。震災直後からボランティアツアーにより大量のボランティアが動員されてきたが、同時に耳にするようになってきた「スタディツアー」「視察ツアー」がそれだ。

宮城県が2月より推進するのは「語り部(べ)ガイド」の育成。震災体験を県外の人々や後世に学びとして語り継ぐ試みとして、沿岸市町村で「語り部ガイド育成研究会」を開催している。語り部を新たな観光資源に加える形で地域主体の観光客受け入れ体制を整えると共に、訪問客と地域の交流を促進している。

観光庁は第3次補正予算の国内観光活性化緊急対策事業において、新たな旅行需要創出のためにモニターツアーを募集した。ツアー主催会社の1つである岩手県北観光が、2月に実施したのは「震災復興の挑戦者との対話による学び、復興支援、絆ツアー」。震災体験に限らず、現在進行形で復興に携わる体験談を通して新たな旅行ニーズを開拓する試みだ。

プルデンシャル研修会

ホテルで語り部の講演を聞く プルデンシャル生命保険社員

企業の行う被災地ツアーも変化してきている。過去に1000人以上のボランティアを被災地に派遣してきたプルデンシャル生命保険。3月末に宮城県南三陸町で行った社員ツアーでは、ボランティアに加え学びと観光をテーマとし、震災体験の語り部や地元事業者の話を聞く場を設けると共に、温泉や食事、買い物を旅程に組み込んだ。「改めて現地のニーズを聞いたところ、まずその地を楽しんで、そしてできたらお金を消費して欲しいということだったためです」と同社でツアーアレンジを担当した中野みさき氏。約100名の社員は、ツアー料金の他に計76万円分の土産を購入して帰ったと言う。同様の事例が増えて来ており、今後もこの流れは続きそうだ。

地域の魅力を見直し、「長期目線」・「地域ぐるみ」の取り組みを

震災2年目に入り観光への取り組みは加速している。観光が入り口となり東北を訪れる人々が増え、直接・間接的な経済効果を生んで復興の起爆剤となる。誰もが望むストーリーだが、観光復興を成功させるために必要な要件とは、なんだろうか。

まずは最も被害を受けた沿岸部のインフラ面があげられる。内陸の主要都市から沿岸各地までの交通網と、不足が指摘されている宿泊施設の早期拡充は喫緊の課題だ。交通面では、津波被害で運転が止まっている電車交通網の代替として新たなバス路線が誕生し、またミニバスの活用やルートの見直しにより効率化を図る動きも各地で見られている。また宿泊施設不足への対応として、民泊や被災した店舗などを宿泊施設に変える試みも出て来た。また岩手県では「いわてDC」期間中、内陸から沿岸部への日帰りのバスツアー3ラインが企画された。こうした事例が増やしていくことで、観光復興の足下を支えていく必要がある。

また、前述の各種キャンペーンや取り組みを、単発で終わることなく長期的な効果を出すものに育てていくことも重要だ。そのために、改めて地域の魅力を見直すこと、民間主体かつ地域ぐるみで取り組むことがキーとなってくるだろう。

「震災後ボランティアなどで訪れた人々は口を揃えて三陸の海の幸の魅力を語ります。地域の魅力を再発掘する必要があります」とJTB東北本社で地域交流ビジネスを担当する池田伸之氏は語る。地域の魅力発掘に必要なのは地元の知恵と熱い思いに加え、「日常化していない外部の目や力」と語るのは浄土ヶ浜パークホテル支配人の関敦彦氏。企業の社員やビジネススクールの生徒を交えての事業検討型ツアーなども一つの手かもしれない。

また民間主体、地域ぐるみの取り組みとしては、1つの旅館のモデルが他の近隣旅館に広まったことで温泉地としてブランド価値を創りだした熊本県黒川温泉のような事例を参考にできるだろう。元々抱えていた地域観光の根本問題に向き合い、見慣れていた風景や文化、自然の中に価値を掘り起こし、その価値を育てながら地域全体で課題を解決していく。そんな姿勢が求められている。

復興元年とも言われる本年。一つひとつ好事例をつみあげながら、観光起点での東北復興に期待したい。

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