“山の津波”で東日本大震災を超える被害

復旧は長期戦となる岩泉町の今

岩手県岩泉町北部にある安家(あっか)地区。600人ほどが暮らす小集落に10月末、入った。きれいに色づき始めた紅葉の景色とは裏腹に、眼下には無残な光景が広がる。ガレキの山、寸断された道路、1階部分が土砂の流入で射抜かれ、かろうじて建っているような家屋――。改めて、自然災害の恐ろしさを見せつけられた思いだ。

台風10号が東北各地に甚大な被害をもたらしてから、まもなく4カ月。岩泉町などでは今も、避難住民が不自由な生活を送っており、ボランティアなど支援が必要な状況が続いている。一方で、県内の複数のNPOがネットワークを形成し、行政や社会福祉協議会などと連携して支援に乗り出す新たな動きも広がっている。寒さの厳しい冬に突入した今、どんな支援が必要とされているのか。そして、どうすれば町を再生できるのか。現地を歩き、関係者に話を聞いた。

住宅被害は全壊を含めて900棟を超えた(安家地区で撮影)

冬本番、いまだ74人が避難生活

最も大きな被害を受けた人口1万人ほどの岩泉町は、本州最大の広い町面積の中に小集落が点在している。それが支援をより困難にさせた。主要道路が損壊し、盛岡市など周辺地域からの交通網が遮断されたのだ。支援が行き届かず、高齢者を中心に多くの住民が孤立状態に陥った。死者は19人に達し、住宅被害も全壊を含めて900棟を超えた。直後の避難者は700人近くに上り、いまだ74人が町内で避難生活を余儀なくされている(11月30日現在)。このほかに、土砂の流入で1階部分が損壊し、2階で生活する「在宅避難者」もいるという。
山が崩れ、土砂が大量に押し寄せる光景は“山の津波”と呼ばれ、町は東日本大震災を上回る被害に遭った。また、被災直後を除くと県内外での報道回数は減る一方で、支援物資やボランティアが不足しているという。仮設住宅の建設・入居は年内の完了を目指しているが、当面は寒さの厳しい冬をどう乗り切るか。立ちはだかる課題は少なくない。

台風後も営業を続ける畑中商店の畑中タキさん。

安家地区で唯一、台風の襲来後も営業を続ける畑中商店を訪ねた。店主の畑中タキさんによると、店内には氾濫した河川の水や泥が流れ込み、10㎝ほど浸水したという。それでも、ボランティアに泥出しや清掃を手伝ってもらい、すぐに営業を再開した。ここで商店を開業して約50年。これほど大規模な災害は初めてだったというが、「やめようとは思わなかった」。今、店にはボランティアや土木作業員らが連日買い物に訪れる。畑中さんは「少しでも長く続けたい」と笑顔で語る。
また、この日は宗教法人真如苑(本部=東京都立川市)のボランティアチーム「SeRV(サーブ)」のメンバー10人ほどが家屋の清掃に汗を流す場面に出くわすなど、ボランティアの姿も数多く見かけた。

社協とNPOが連携、災害支援の新しいカタチ

町の再生に向け、新たな支援のカタチも生まれている。いわてNPO災害支援ネットワークの存在がその1つだ。同ネットワークは、東日本大震災後に立ち上がった県内4つのNPO(いわて連携復興センター、SAVE IWATE、遠野まごころネット、いわてNPOフォーラム21)が、今回の豪雨被害を機にNPOのノウハウを結集して支援に活かそうと立ち上げた組織だ。複数のスタッフが岩泉町に常駐し、新たに行政や社協、NPO、ボランティア、住民らが被災地域のニーズや作業の進捗を共有するための定例会議を主催するなど、効果的な支援を行うために奔走している。

町社協の佐々木会長(左)と林脇さん。

町社協とNPO災害支援ネットワークは去る10月末、盛岡市内で報告会を開催。共同代表の多田一彦さん(遠野まごころネット理事)は、「県内のNPOは単体では小さな所帯ばかりだが、独自の技術やネットワークをもっている。必要な部分を手配したり、実行したりする手伝いができるのではないか」と連携の意義を強調した。
一方、岩泉町社会福祉協議会(以下、町社協)の佐々木泰二会長は、「影響はかなり大きい」と手応えを口にする。「私たちが不得意な分野や作業を、東日本大震災の支援経験をもつNPOのノウハウを活かしてカバーしてくれれば復興が進む」と期待する。地域福祉課の林脇夏奈美さんも、「最初は初めての経験ばかりで混乱したが、NPOの皆さんが初期の段階から入ってくれて、私たちも学ぶことが多い」とし、「力を合わせれば東日本大震災の時とは違う復興の仕方で、よりスムーズに進められるではないか」と力を込める。

暖房器具や精神的ケアなど生活支援を

町社協は、災害ボランティアセンターを11月27日に一時休止とした。家屋の泥出しや荷物の撤去など緊急性の高い作業は多くの地域で目途がつき、町内の事業者などによるボランティアも確保できているからだという。なおこの間、町を訪れたボランティアは1万6000人近くに達した(11月20日時点)。

河川が氾濫し、1階部分は壊滅的な被害に(安家地区で撮影)

ただ、決して支援の必要性がなくなったわけではない。今後は、食事や防寒対策、精神面のケアなど「生活支援」にニーズがシフトしていくことになる。布団や暖房器具が不足しているほか、長引く避難生活によって高齢者を中心に精神的に不安定になりがちなケースが増える恐れもあるという。

町社協の佐々木会長は、「住民に寄り添った支援活動を続けるうえで、ボランティアのきめ細やかな作業も必要だ。力仕事や大規模な活動でなくても、末永い支援に手を貸していただきたい」と訴える。実際、現在も町内関係者を中心に毎週150人前後が清掃などのボランティア活動を続けており、支援ニーズはまだ数多く存在する。

寒さが深まり、世間は年末に向けて一気に慌ただしくなりそうだ。岩泉町をはじめとする被災地域で、新年を安心して迎えられる住民は果たしてどれほどいるのだろうか。住民や現場で奮闘する人たちに、改めて思いを馳せたい。