ひと・地域・文化・産業をつなぎ、はぐぐむ ワイナリーづくり


株式会社 仙台秋保醸造所
2015年12月仙台市秋保温泉郷の一角にオープンした秋保ワイナリー。約3ヘクタールの敷地内に、自社ブドウ農園と醸造所、熟成庫、カフェ等のスペースを備えており、連日多くのお客さまが訪れています。

自分ができることで復興の応援をしたい

宮城県は日本酒のイメージはありますが、ワインというとあまりピンとこないと思います。そんな宮城で初のワイナリーを立ち上げた毛利さんに話を伺いました。

2015年12月に仙台秋保醸造所を立ち上げた代表取締役の毛利親房さん。もともとは設計事務所で勤務していましたが、2011年の東日本大震災をきっかけにワインづくりの道を歩むことになります。
 設計事務所で働いていたころ、宮城県女川町にある温泉施設「ゆぽっぽ」の設計担当をしていたこともあり、よく女川に通っていました。そんな折、東日本大震災が発生。自分が設計した建物の被災調査に行くことになり、女川を訪問しました。女川では建物どころか町中の被災状況がひどく、涙を流しながら遺体捜索をされていた地元消防団の姿を見て、「これは一大事だ。建築という立場で復興の応援をしたい」そんな想いがわいてきました。

仙台秋保醸造所 代表取締役の毛利 親房さん

力をくれた漁師の言葉

当初毛利さんは、救援物資を届けるなどの支援をしていましたが、復興会議にも参加するようになり、農家や漁師、学生、民間企業、行政など、これまで出会わなかった方と会うことになります。ある会議に参加したところカキ漁師が「生産を再開したが、売れない」という悩みを打ち明けていました。そこで、毛利さんは「ワイナリーを作って、地元のワインで地元の食を応援しよう」というアイデアをあげます。「ワインができたらカキとセットで全国にPRする。カキの養殖棚にワインを寝かせ、カキのオーナー制度として、ワインとカキをセットにして送ったり、加工品のものもセットでお届けしよう」と提案してみました。会議が終わった後、カキ漁師が毛利さんのところにやってきて「今日は久しぶりにワクワクした。震災後、いいことが全然なかったけど、本当に今日は元気をもらった。俺たちもがんばるから、あんたもがんばってくれ」と言われ、ワイナリーをやろうという決意がわいてきました。
宮城県はワイン造りが盛んではなく、もともと1軒だけあったワイナリーが津波の犠牲により途絶えてしまいました。またブドウの生産量も47都道府県で44位ということもあり、「宮城のワインづくりが盛り上がれば、地域の活性にもなるのではないか」と考えました。

秋保での運命的な出会い

ワインづくりと行っても何をしたらいいのか手探り状態です。最初に沿岸部でブドウ作りから始めてみました。土地の確保も難しく、畑は津波の塩害があり、除塩もしていないことからブドウの生育はよくなかったそうです。毛利さんは、ブドウ栽培はもとより農業の経験もなく、さらには設計事務所で仕事を続けながらブドウの栽培をするという状況だったことから、手間をかけることができずうまくいきませんでした。

毛利さんが一目見てワイナリーにぴったりだと感じた場所

多くの失敗もあり、ゼロからプロジェクトを組み直します。まずはブドウが育てられる土地や好条件の場を探さなくてはなりません。農地を探して、秋保に目をつけます。秋保の奥には耕作放棄地が多く、サラリーマンをしていた毛利さんは「秋保なら土日や朝早い時間ならブドウの面倒をみれるな」と考えました。

ある日、秋保に農地探しに訪れた際、知り合いのガラス工房の作家さんのところに立ち寄ってみました。「実はブドウを植えたいけど、どこか土地ないかな?」となにげなく相談してみたところ「この上に使ってない土地がある、結構広かったと思うよ」と言われ、早速その場所に行ってみました。急な細い坂道を上がっていく道からその場所を見て、「なんとなくここに建物があって、周りがブドウ畑で」というワイナリーのビジュアルが浮かんだそうです。ガラス作家の方が、地域の方に話をもちかけ「これは秋保のためになるし、震災の復興のためなら」とワイナリーづくりに賛同し、地権者に相談してくれ土地を借りることができました。

知り合いのガラス工房に立ち寄ったことで、ワイナリーづくりの道がひらけた

その後の毛利さんは、その後もワインの本を読み漁り、2週間ほど山形のワイナリーに見習いに足を運ぶなど、自らもワインの知識を高めようと努力を続けました。

多くの人の協力を得て始まったワイン造り

今の秋保ワイナリーの醸造責任者はイタリアでワインの修業をしていた高根さん。高根さんは秋保ワイナリーの活動をFacebookで見て、応援のメッセージを送ってくれました。「自分は福島県出身で、イタリアでワインの勉強をしています。秋保ワイナリーの活動をたまたま知りました。がんばってください!」 そのメッセージをきっかけに毛利さんとの交流が始まります。

イタリアでワインの勉強をし、現在は秋保ワイナリー 醸造責任者の高根さん。

 
高根さんが日本に帰って来る機会があり、秋保に来てもらいました。その時、ちょうどブドウの苗を植えるタイミングでしたが、高根さんはその状況を見て「これを全部一人で植えるのは無理ですよ。苗を植えるところまで手伝います」と言ってくれました。毛利さんはまだサラリーマンだったので、平日の朝暗いうちから2人でブドウの苗を植える穴あけの作業をし、ブドウの苗を植えるのは三菱商事復興財団のボランティアの方々や、毛利さんのマラソン仲間にお手伝いしてもらい、無事に1200本の苗を終えることができました。

多くの方のサポートにより1200本の苗を植えることができました

高根さんはGWに実家に帰ってしまいましたが、連休明けに「ブドウが心配だから、一回見に行きます」と連絡をくれました。夜、一緒に食事をした時に「ワイナリー手伝いますよ」と高根さんが言ってくれました。毛利さんは「君しかいない。最初は給料も安いけどうちに来てくれたら、醸造責任者でやってもらいたい」と喜んで高根さんを迎え入れたそうです。

ブドウを影干しして作る「アマローネ」。いつか秋保ワイナリーでも作られる日がくるかもしれない。

高根さんはイタリアのベローナという地域でワイン造りの勉強をしていました。ベローナは日本のように秋雨が多く、ブドウの水分が多く水っぽくなるため、ブドウを陰干ししてから醸造する「アマローネ」というワインをつくる技術が特徴です。宮城県も秋雨が多く、名取川が東西にはしり、風が抜ける場所でもある点がベローナと気候や地形の点で似ており、高根さんにはいづれ「アマローネをやってもらう」という約束で、秋保ワイナリーに来てもらうことにしました。

やっとの想いでオープンしたワイナリー

2014年に、毛利さんはワインづくりに専念するために設計会社の仕事を辞めて、仙台秋保醸造所を立ち上げ、2015年12月に秋保ワイナリーが無事にオープンしました。2015年はワインの生産量が8,000本と少なかったので、2016年の3月にはワインがすべて売れてしまい、当初目標としていた被災地のカキとワインのコラボができませんでした。2015年まではブドウの収穫がなかったため、山梨や山形のブドウを購入してワインづくりをやってきましたが、2016年には自家栽培のブドウの収穫ができ、いよいよ秋保で育てたブドウで作ったワインができあがるそうです。

今は国産ワインが非常に人気で、ブドウが奪い合いの状態なので、自分たちでブドウを育てるということも非常に大切です。秋保ワイナリーでは現在12種類 6,500本を植えていますが、「目標は10,000本の苗を植えたい」と毛利さん。5~6年すると自社農園のぶどうのみでワインを20,000本、購入したブドウやリンゴとあわせて40,000本のワインができるワイナリーをめざしたいそうです。

小高い丘の上にあるオシャレな建物が秋保ワイナリー

 
その他、醸造、ブドウ栽培の研修も行っており、宮城県内でのブドウ栽培やワイナリー設置をしたいという人を応援しています。春からは第一号の研修生が秋保ワイナリーにやってきます。秋保ワイナリーをきっかけに、宮城のワインづくりの夢が広がっていきます。


株式会社 仙台秋保醸造所
〒982-0241 宮城県仙台市太白区秋保町湯元枇杷原西6 秋保ワイナリー
TEL 022-226-7475 FAX 022-226-7622

【施設情報】
[営業時間] 9:30-17:00  [定休日] 火曜日
URL:http://akiuwinery.co.jp/