「情報は、水や食料と同じ ライフライン」佐藤尚之さん

佐藤尚之さん

佐藤尚之(さとうなおゆき)さん
助けあいジャパン 発起人
(株)ツナグ 代表
㈱電通にてコミュニケーション・デザインの領域で活躍。著書『明日の広告』は9万部を超えるベストセラーに。11年3月、同社退社。㈱ツナグ代表。最新刊に『明日のコミュニケーション』がある。

 私自身が阪神大震災の被災者です。兵庫県の夙川にいて、震度7を経験しました。その時に「情報」は水や食料と同じライフラインだと実感しました。

 マスメディアの報道は、どうしても最大公約数的なものになりがちです。阪神の震災の時にも、震災当日にマスメディアでは「もし首都圏で起こったら」というような番組を流していました。こっちは水も食料も無く、人が埋まっているというのにです。

 インターネットが普及し、コミュニケーションが発達するなかで、今回のような大規模な災害時にはソーシャルメディアが力を持つと思います。ただし、ソーシャルメディアに上がってくる情報だけでは不完全なので、なるべく正しい情報を伝えるためには自治体や政府との連携が重要です。

 私は鳩山内閣時に首相にツイッターの利用を勧めるなど、ソーシャルメディアの活用提言をしていました。震災後すぐ、当時一緒に働いた政府関係者に連絡を取り、政府と連携しインターネットで情報提供をする民間プロジェクト「助けあいジャパン」を立ち上げました。

 サイトを立ち上げてすぐ、直接被災者の方々に役立つ情報をインターネットを通じて届けるのは無理だと分かりました。あまりに広範に被害が及び、情報拠点となる現地の自治体も流されている。しかも被災者の方々は、そもそもインターネットに繋がらない状況だったのです。

 そこで被災地外の方が、支援を行うのに役立つ情報を発信することにしました。被災地の状況を市町村別にわかりやすく整理し、支援する側が、どこになにを支援すればいいのかがわかるプラットホームの構築です。

ソーシャルメディアを使いプロジェクトを推進

 助けあいジャパンは基本的にボランティアで成り立っています。今回、この活動を通じて驚いたのは、世の中には志のある人たちが本当に沢山いるということです。これまで、のべ三百人以上の方がこのプロジェクトに関わっています。皆それぞれ一流のスキルを持ち、仕事をしながら、先輩も後輩もなく、ボランティアで参加してくれています。

 プロジェクトでは主にFacebookなどを活用しながら、情報を共有して作業を進めています。毎日のように顔を合わせるスタッフもいれば、私自身、まだ会ったことのないメンバーもいます。物理的にひとつの場所に集まらなくとも、ソーシャルメディアを活用してプロジェクトが進行したというのは、これまでにない成果だと思っています。

国全体として 情報リテラシーの向上を

 長期的には、国全体で情報リテラシーを向上させる必要があると思っています。ネットを使えることが、結果的に災害の備えになると考えています。つまり、若者だけでなく、お年寄りも、いまはiPadなど使いやすいデバイスが出てきているので、情報を収集する、繋がる手段を持つということで、もし次の災害が起こった時に役立つのではないかということです。そのためには国全体で情報リテラシーを底上げし、皆がソーシャルネットワークを持つ多縁社会を作ることが重要だと考えています。

復興のポイントは当事者意識

 阪神の震災後、2年も3年も経っても活動している方々がいて、被災者として大変に勇気づけられました。関与し続ける、伴走し続けることが重要だと思います。

 復興への道のりは長丁場です。

 被災者の方も、支援している方も、いま東北と関係のない方も、自分自身との接点を見つけて、ジブンゴトとして関わり続けることが重要です。無理をせず、自分のスタンスで関わっていくことが、風化させないことに繋がると思っています。

 個人的には、日本人は全員、一度は東北へ行くべきだと思っています。やはり行かないと分からないことが多い。マスメディアを通じてではなく、自分の目で見て、肌で感じることで、今回の震災が自分にとってどういうことなのか、今後どのように関わっていけばいいのか、分かるのではないかと思います。

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