ガレキからビキニへ!被災した砂浜のマリン文化を取り戻せ!

[みちのく仕事]

震災以降立ち上がった東北の団体のリーダーの元に、若手経営人材「右腕」を3年間で約200人派遣してきた「右腕派遣プログラム」。東北で活躍する「右腕」とリーダーのインタビューを紹介します。

仙台から東に20km。七ヶ浜はかねてから仙台圏のリゾートとして、避暑地やマリンスポーツで栄えていました。
東日本大震災で甚大な被害を受けた浜を、再び活気あるリゾート地に。その中心となるのが、2016年4月にオープン予定のArt Cafe & Bar SEASAW。地域の狼煙となる事業を共に推し進めていく右腕を募集中です。どんな未来を浜に描いているのか、それに必要な人材は。代表の久保田靖朗さんに話を伺いました。

青年海外協力隊で活動中に3.11をむかえる。帰国後、右腕として東北入り。その後も七ヶ浜町で活動を続ける久保田靖朗さん。 撮影:浅野拓也

青年海外協力隊で活動中に3.11をむかえる。帰国後、右腕として東北入り。その後も七ヶ浜町で活動を続ける久保田靖朗さん。 撮影:浅野拓也

ーまず、久保田さんが活動している七ヶ浜とはどんなところなのか、教えていただけますか?

東北一の都市、仙台から東に20kmほどの好立地なところに七ヶ浜はあります。日本で三番目に古い菖蒲田(しょうぶた)海岸をはじめとして、明治時代から外国人の避暑地として知られ、今でも多くの外国人が住んでいる町です。大都市仙台からほど近いということもあり、最盛期には10万人以上の海水浴客で賑わう浜を形成でした。さらに、サーフィンやヨットなどマリンスポーツも盛んな、関東圏でいう葉山のような、リゾート地でした。
しかし、東日本大震災による12mの津波によって中心地の菖蒲田海岸地域の家屋はほとんど流出。人口流出もあり、七ヶ浜は2040年の消滅可能性都市に入っています。

防潮堤の上から眺める菖蒲田浜。松島は金華山まで望める景色のよさでも人気。 撮影:浅野拓也

防潮堤の上から眺める菖蒲田浜。松島は金華山まで望める景色のよさでも人気。 撮影:浅野拓也

ーそんな七ヶ浜を再び活気ある浜にしていきたい、と久保田さんは活動していらっしゃるのですね。どのようなことを実際にやってらっしゃるのでしょうか?

まず、私たちがやらなければならないのが「心理的な壁」の克服だと思っています。震災前に七ヶ浜を訪れていた人が、「また楽しんでいい場所なんだ」「また行きたい」と思ってもらえるように活動を行っています。具体的な事業としては3つ。一つ目にSEVEN BEACH FESTIVAL、二つ目が海浜海中清掃活動、そして三つ目がビーチハウスの立ち上げです。

2013年に初めて実施したSEVEN BEACH FESTIVALは活性化の火付け役。第三回目となった昨年は約3000人の方に来ていただきました。ビーチにたくさんの人が集い、楽しむ姿は元々この町にあった景色。その景色を見て、地元の人が「また頑張らないとな」と言ってくれていることが何よりもうれしかったことです。

「ガレキからビキニへ」というテーマで開催されるビーチフェス。地元住民から観光客まで多くの人が楽しめるイベントとなっています。 写真提供:Art Cafe & Bar SEASAW

「ガレキからビキニへ」というテーマで開催されるビーチフェス。地元住民から観光客まで多くの人が楽しめるイベントとなっています。 写真提供:Art Cafe & Bar SEASAW

ビーチクリーンは毎月一回開催しています。誰もが手軽で参加しやすいイベントをすることで、活動の裾野を広げること。そして、ダイバーとも協力しながら、まだ残る震災ゴミを撤去していくことで海の安全性をアピールしていくことが狙いです。

地域企業も協力して実施。多いときには100名近くも参加するというビーチクリーン。 写真提供:Art Cafe & Bar SEASAW

地域企業も協力して実施。多いときには100名近くも参加するというビーチクリーン。 写真提供:Art Cafe & Bar SEASAW

そして、いつも集まれる場としてのビーチハウス。これが今、建設中のカフェになります。このカフェは、菖蒲田浜地域での初めての建築物となるため地域の方向性、狼煙となる建物を目指しました。

ー今回、募集中の右腕が主に担当するのが3つ目のカフェ事業ですね。右腕の方にはどのような役割を担っていただきたいと考えていますか?

まず大事なのは、私たちはカフェをやりたいわけではないということです。カフェで提供する「食」を通じた七ヶ浜地域のブランディング、カフェという場を拠点にした観光産業をやるためのカフェと考えています。
ここに来られる方がなにを求めているのか、それをとことん考えて実行に移してもらいたいと思います。例えば、料理。七ヶ浜の名産としてはわかめや、ワタリガニ、シラウオ、アワビ、ウニなどの海鮮があります。仙台から七ヶ浜に来た人が、海辺のカフェで何を食べたいか。デートで海辺を散歩しに来た人が、テイクアウトで何があったら喜ぶのか。
私たちがまだ突き詰められていないところ、課題でもあるこの部分を、とことん考えていってもらいたいなと思います。

「癒し」をコンセプトにしたログハウス。防腐剤不使用の東北の杉材を使用するなど素材にもこだわっています。外壁は地域住民といっしょに製作しました。 撮影:浅野拓也

「癒し」をコンセプトにしたログハウス。防腐剤不使用の東北の杉材を使用するなど素材にもこだわっています。外壁は地域住民といっしょに製作しました。 撮影:浅野拓也

ー悲願のカフェオープン。そして右腕の参画と変化に富んだ1年になりそうですね。この1年でどのような変化があることを期待していますか?

まずカフェオープンという目に見える変化がある年になります。菖蒲田浜地域での初の本設施設ということで、町としても大きな一歩です。そこを中心に、食や観光、また行政との連携などでもトライ&エラーを繰り返していくことが大事になると思います。そして1年たったとき、その次の3〜5年後の地域の姿が想像できるようになっていることが理想ですね。

もうすぐ震災から5年がたちます。復興という文脈で人に来てもらうとか、何かが生まれるということに期待するのではなく、純粋に「楽しい」「かっこいい」「素敵」といったことがますます大事になってくると思っています。

SEA SAWのフライヤー。名前は「海(=SEA)」と「見る、見ていく(= SEE)」と「見てきた(=SAW)」という、過去から現在、未来に繋ぐ意味を込めてつけられた 撮影:浅野拓也

SEA SAWのフライヤー。名前は「海(=SEA)」と「見る、見ていく(= SEE)」と「見てきた(=SAW)」という、過去から現在、未来に繋ぐ意味を込めてつけられた 撮影:浅野拓也

ーご自身も元右腕という立場から、こんな方といっしょに七ヶ浜の未来をつくる活動したいといったことがあればお聞かせください。

自らの哲学を持った人といっしょに活動をしていきたいですね。なぜ東北に来るのか、なぜ今ここでチャレンジを共にしてくれるのか、それが自分の人生にとってどういう意味があるのか、どんな社会にしたいのか、どんなライフスタイルを提案していきたいのか、ということを持った人といっしょにやっていきたい。
スキルはあとからいくらでもついてくるので、それよりもこうした志をもっていることが大事ですね。誰かの応援でとか、誰かを助けたいというのではなく、自分自身の挑戦をしにこの場所に来て欲しいと思っています。

ー最後に、一歩踏み出して、挑戦を考えている方に向けてのメッセージをお願いします。

東日本大震災があって東北はある意味、末端と呼べる状況となりました。しかし、変化というのは末端から起こる。七ヶ浜もそう。
自分がそのなかに身を置くことは、どれだけ文献を読んでも感じ取ることのできないものがあります。この場所で、その変化を感じてほしいです。

ー未来に向けて過渡期を迎える七ヶ浜での右腕経験は、右腕自身のキャリアアップにもつながりそうですね。久保田さん、ありがとうございました。

関連情報
Art Cafe & Bar SEASAWの右腕募集要項
●久保田さんは、3月27日(日)、都内にて開催の右腕募集トークイベントに登壇します。詳細はまもなく公開!乞うご期待ください。

(書き手・写真:浅野拓也)
記事提供:みちのく仕事(NPO法人ETIC.)