東北は学習資源が豊富な“留学先”

全国26大学と南三陸町の研修プログラムに1500人超

全国26大学が連携し、宮城県南三陸町を舞台に教育的視点から学生のボランティア・研修プログラムを実施している東北再生「私大ネット36(さんりく)」(事務局=大正大学)が10月31日、今夏実施した研修ツアーの報告や今後の活動について議論を交わすシンポジウムを都内で開催した。人口減少など様々な社会課題を抱える震災後の東北で学ぶことが学生の成長につながるとの考えを共有し、今後の活動強化に向けて結束を深めた。

4日の現地研修で住民の声に耳を傾ける

「地域の復興と学生の成長を両立させるには」――。シンポジウムのテーマにこう掲げたように、「私大ネット36」は“課題先進地”といわれる東北を学生にとって貴重な学習のフィールドと位置づけている。2012年4月に発足し、大正大学のほかに國學院大學、埼玉工業大学、こども教育宝仙大学など全国26の大学・短大が加盟(2015年度現在)。一般社団法人・南三陸研修センターと連携し、現地での研修プログラムや今回のようなシンポジウムを開催するなどしてきた。
活動の核となる現地研修は、毎春・夏に実施。毎回4つのテーマを設け、30人前後で構成する各グループが現地で4日間、企業・団体や住民から直接意見を聞くなどして課題と対策を探るという内容だ。南三陸研修センターの安藤仁美さんによると、運営する研修・宿泊施設「南三陸まなびの里いりやど」を訪れた私大ネット関係の学生や教授らはこれまでで延べ1500人超に上るという。

遠藤健治・大正大学客員教授は、基調講演で副町長を務めた南三陸町の課題と希望を語った

遠藤健治・大正大学客員教授は、基調講演で副町長を務めた南三陸町の課題と希望を語った

3回目の開催となった今回のシンポジウムでは、今年3月まで南三陸町の副町長を務めた遠藤健治・大正大学客員教授が基調講演を行った。
遠藤・前副町長はまず、「人口減少や仮設住宅の集約、コミュニティの再構築など、時間の経過とともに復興が進めばまた新たな課題が生まれてくる」と現状を分析。ただ、「多くの町民が震災を通していろんな人と交流し、感性が確実に変わってきているのは明るい材料だ。教科書には載っていない壮大なまちづくりに挑むには相当なエネルギーが必要だが、いいモノを生み出せる土壌が静かに育ってきている」と期待を口にした。
「私大ネット36」の活動についても、「被災地はあらゆる社会課題が10~20年前倒しで表面化しているといわれている。学生がいずれ地域を担う時代を見据え、いま南三陸町や被災地で学ぶことは大きな意義がある」と共鳴し、さらに学生には「学ぶだけでなく、それを自分たちの地域に還元してほしい」と鼓舞した。

顔つきに変化、台風被害の常総市にボランティアも

今夏の研修ツアーに参加した國學院大學のメンバー(前列左が鷹取さん、後列右が鈴木准教授)

今夏の研修ツアーに参加した國學院大學のメンバー(前列左が鷹取さん、後列右が鈴木准教授)

シンポジウムでは、そんな学生から今夏の研修ツアーに参加した際の成果と課題が報告された。そのうちの1つで、「復興支援の変遷をめぐって~今できること、これからやるべきことを考える」をテーマにしたグループは、4年半が経過した中で今求められる支援のあり方や被災地との関わり方を考えようとプログラムを組んだ。学生らはその一環で「平成の森仮設住宅」を訪問。國學院大學2年の鷹取啓介さんは、災害公営住宅などへの引っ越しが少しずつ進む中で住民間の交流が薄れてきていることを目の当たりにするなど「想像していたイメージと違うことが少なくなかった」と話す。そんな体験から「これからの支援は人との触れ合いや交流が必要」と痛感したという。
今夏はこのほかに、地域のエネルギーや教育のあり方などをテーマにした研修プログラムが組まれた。報告した学生からは「実際に現地に行って住民の生の声を聞くことで、目に見えない問題を知ることができた」「ここで終わりではなく、アクションを起こしていくことが(研修を)有意義にすることになると思う」といった意見が挙がった。

一方、各プログラムを引率した教授も、学生の意識の変化に期待を寄せる。鷹取さんらを引率した國學院大學の鈴木崇義准教授は、「最初は緊張していた学生も、特に住民の生の声に接してから顔つきがガラッと変わる」と話すと、東京工業大学の弓山達也教授も「ここで学んだ学生が今後、社会に出ていく。学生の成長と復興は矛盾しない、むしろ調和する」と力強く語る。大正大学の齋藤知明専任講師は、過去に研修に参加した学生が台風による大雨被害を受けた茨城県常総市にボランティアで駆け付けた事例を紹介し、「南三陸町で培った経験を自分の町で、また日本全国で活かすことができる」と活動の広がりに手応えを示した。

「私大ネット36」は、来春以降もこうした研修プログラムを積極的に実施していく計画だ。この地で学んだ学生が将来、地域を支えるリーダーに育ち、地域社会の新しい姿を創造する――。会場にいた学生の力強い表情や言葉は、そんな近未来の到来を予感させた。