東北のいまvol.27 福島県富岡町「旧警戒区域視察ツアー」。福島の課題を「肌で感じる」。

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 カメラを手に勇んでやってきた友人の友人は、その町を撮ることができなかった。理由を聞くと意気消沈して「これは撮れないよ…」とだけその人は答えた。藤田大さんは「当事者である自分たちが発信しなければいけない」と思ったという。

 原発の影響で全町避難を指定されていた福島県富岡町が、警戒区域再編を経て、昨年3月25日から一部の地域に日中の人の出入りが可能となった。いわき市で行われた住民会議で集まった人を案内したのをきっかけに、今回のツアーをアレンジした藤田大さんも、これまでに300人を超す人を自分の車で案内してきた。

 震災から3年半以上が経った。多くの被災した地域から、破損した家屋やガレキが撤去され、町に手が加えられ、一部だが復興住宅も完成し始め、少しずつ復興の下地が整いつつある。でも、その町にはいまだに震災の、津波の跡が目に見えて残っている。町は時が止まっているようで……「時が止まった」とはもちろん正確ではない……けれど復旧もままならない町の現状がそこにあると分かる。

 今年7月。ふたば商工株式会社が、福島県富岡町の旧警戒区域視察ツアーを開始した。今までは個人個人が実施してきたアテンドを組織として広く外から受け入れる。ツアーは日帰り。朝、いわき駅に集合し、バスに乗り、国道6号線を北上し、広野町・楢葉町を通過し富岡町に入り、旧警戒区域を視察する。この日の視察は、富岡駅、小学校の前、旅館、帰還困難の区域指定されている場所との境界へと続いた。藤田さんの事務所だった場所と隣接する自宅を周り、最後にスクリーニングで放射線汚染がないかを確認した後、バスでいわきに戻り、視察ツアーは終了した。

 ひと気のない町。家屋の外壁は破損し、津波でひっくり返ったままの車。海を背にした駅には車両が入ることはない。眺めの良い旅館からは、地平まで広がる海が青い穏やかな海の地平まで広がっている。

 電気は通っているが、水道は復旧していない。日中こそ入られるようになったが、夜間宿泊は禁止され、店舗もガソリンスタンドなど一部が営業を再開しているに留まる。一つの町がバリケードで区切られている。被災した、という点では同じでも、ほんの数メートルの差で補償内容が大きく変わり、それが住民間のあつれきにつながることもある。また、町を出て行ったまま帰ってこない住民たちもいる。問題は複雑化している。長らくその地域に入ることもままならなかったことで、復旧自体も進んでない。

 景色の一つ一つに、現実感がなく、しかし、目の前に現実として存在している。呆然とするような、心をざわつかせるような…景色だ。

 藤田大さん達は、自身の仕事もありながらも、ふたば商工株式会社を立ち上げた。これらの状況含め、今の富岡町の現状を、当事者である自分たちが伝えていかなければ、残していかなければ…という思いを何度も口にした。実際、この場に足を運べばその課題を肌で感じざるを得ない。でも、色々な人がこの地に訪れ、その課題を肌で感じた人が増えていくことが、それぞれの小さな理解が広がっていくことが、復興を進める小さなうねりにつながると信じたい。

写真・文=岐部淳一郎